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からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1部:学校編

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第19話:三魂の境界線(ライン)、大村に散る暗黒

第19話:三魂の境界線ライン、大村に散る暗黒

1. ハルの真実:空っぽの器の理由

大村決勝戦の直前。宿舎のベランダで、ハルはいつものように遠くの海を見つめていた。乾の「蒸気肺」を和らげる吸入器の煙が、夜風に白く溶けていく。

「……おじさん、僕がどうして『マブイネービラ』なのか、話したことなかったよね」

ハルは、乾の方を振り向かずに語り始めた。かつて、黒崎龍平は「完璧なマブイ石」を人工的に造り出す実験を行っていた。その実験体として集められた子供たちの中に、ハルもいた。龍平は子供たちの純粋なマブイを抽出し、一つの石に凝縮しようとした。

「僕のマブイは、その時に全部吸い取られちゃったんだ。残ったのは、ただの『物理的な器』だけ。……でもね、その吸い取られたマブイの結晶が、今、龍平が胸に埋め込んでいるあの漆黒の石なんだよ」

乾は、震える右腕を抑えながら絶句した。ハルが乾を助け、龍平を追っていたのは、単なる協力ではなく、自分の「魂」を取り戻すための、静かな、しかし壮絶な旅だったのだ。

「おじさんの17,000は温かいよ。僕の空っぽの器に、少しだけ『生きてる』っていう実感をくれる。……だから、今日は僕が、おじさんの命を預かる」

2. 最終決戦:暗黒の太陽

「大村優勝戦……全艇、起動エンゲージ!!」

号笛とともに、大村湾の水面が爆発した。

1号艇、黒崎龍平。その胸にはハルから奪ったマブイを含む、数千人の絶望が詰まった漆黒の石が埋め込まれている。

属性:暗黒変質――『終焉のジ・エンド』。

龍平がスロットルを開けた瞬間、大村競艇場全体から光が消えた。カクテル光線さえも闇に吸い込まれ、レーサーたちは完全な闇の中を時速100キロで疾走する異常事態となった。

「乾、翼、そして出来損ないのハルよ! 貴様らのちっぽけな灯火など、私の絶対的な闇で消してやろう!」

龍平の『黒死無双・シン』が、後続に凄まじい「負の重力」を撒き散らす。乾の「蒸気肺」は限界に達し、呼吸のたびに火を吹くような痛みが走る。翼の「溶岩」も、暗黒の冷気に触れて急速に冷え固まり、機体が重く沈んでいく。

3. 三魂の境界線ライン

「……ダメだ、個々の属性じゃ届かねえ……。ハル、翼! 俺のマブイに繋げろ!!」

乾が叫ぶ。だが、それは以前の「並べる」だけの連携ではなかった。

乾は、自分の17,000の熱量を、ハルの「空っぽの器」へと注ぎ込んだ。そして翼が、その熱が逃げないように外側から「溶岩」の膜で包み込む。

三位一体・究極連携――『聖域の銀河アサイラム・ギャラクシー』。

乾の「金」が核(熱源)となり、ハルの「無」が伝導体(超電導)となり、翼の「土」が安定器リアクターとなる。

闇に包まれた大村の水面に、一直線の「白銀の道」が浮かび上がった。三艇の属性が完全に同期し、一つの巨大な生命体のように連動する。

「なっ……属性を完全に融合させただと!? そんなことをすれば、貴様らの自我が消滅するぞ!」

龍平が驚愕に顔を歪める。

「自我なんて、新宿の路上に捨ててきたんだよ! 行くぞ、ハル、翼!!」

4. 大村の咆哮:マブイ・ニードル・てん

第1マーク。龍平は闇の重力で水面を歪ませ、巨大な陥没穴ブラックホールを作り出した。

しかし、ハルの物理演算がその重力の「歪み」を逆手に取り、翼の溶岩が穴を埋め立て、乾の17,000が一点の光となって突き刺さる。

「これが……俺たちの、生きてる証だぁぁぁぁぁ!!」

乾は、異常振動で感覚のなくなった右腕を、肉体が砕けるのも構わずハンドルに固定し、全マブイを放出した。

白銀の針が、龍平の胸にある漆黒の石を、正面から貫いた。

――パキィィィィィィィン!!

高周波の破砕音が聖地に響き渡る。

龍平の石が砕け散り、閉じ込められていた無数の魂の欠片が、オーロラのように大村の夜空へと解放されていった。

ゴールライン。

1位・乾健児。2位・ハル。3位・黒崎翼。

最下位へと沈んだ龍平の機艇は、もはやマブイの輝きを失い、ただの鉄屑となって波間に揺れていた。

5. 終章:明けない夜はない

レース後。ボロボロになった機艇を降りた三人は、桟橋に座り込んでいた。

乾の右腕は動かない。肺の音もまだ苦しげだ。しかし、その瞳からは「職業病」の曇りが消え、澄み渡っていた。

ハルが、自分の胸に手を当てる。

「……おじさん。僕、今、すごく胸がドキドキしてる。……これ、僕のマブイが戻ってきたのかな」

ハルの頬に、初めて一筋の涙が伝った。

翼は、遠くで救助艇に引き上げられる父を見つめていた。

「……終わったのね。パパの野望も、あたしたちの呪いも」

大村の夜が明けようとしていた。

東の空が白み始め、穏やかな海面に新しい光が差し込む。

「からくり競艇」という過酷な戦いの中で、家族を失い、家を失い、魂さえも削り取られた彼らが、泥の中から掴み取ったのは、誰にも奪えない「自由」という名のゴールだった。

「……ハル、翼。……飯、食いに行くか。今度は、最高に美味い寿司だ」

乾健児、33歳。

職業、プロレーサー。

所持マブイ……無限。

三人の笑い声が、朝焼けの大村湾に響き渡っていた。


――第一部・完。


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