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からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1部:学校編

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17/21

第17話:深淵の残光、聖地の洗礼

大村競艇場:マブイが静まり返る「発祥の聖地」

長崎県にある大村競艇場は、競艇発祥の地としての誇りと、独特の水面特性を持っています。

* インコースの聖域: 全国でもトップクラスに「インコース(1コース)」が強いことで知られています。水面が穏やかな大村湾に面しており、第1マークの幅が広いため、インの艇が全速で旋回しやすい構造になっています。

* 海水と「ナイター」: 水質は海水。潮の干満差がありますが、防波堤によりうねりは抑えられています。また、からくり競艇においては、夜になると海からの冷気がマブイ石の冷却効率を高め、日中よりも属性出力が**15%**向上する「ナイト・ブースト」現象が発生します。

* 属性への影響: 穏やかな水面は、力任せの旋回よりも、マブイの「純度」と「ラインの正確さ」を要求します。少しの迷いがマブイの霧となって水面に散り、後続に「差し」の隙を与えることになります。


第17話:深淵の残光、聖地の洗礼

大村2日目、第12レース「発祥の地記念・ドリームマッチ」。

昨日の予選で北欧の怪物ヨハンを破った乾健児、ハル、黒崎翼の三人は、夜の大村湾を照らすカクテル光線の中にいた。

「……おじさん、昨日より空気が重いよ」

ハルが、マブイネービラ特有の鋭敏な感覚で呟いた。

「昨日の『氷』が溶けた後に、もっと古い……ドロドロしたマブイが湧き上がってきてる」

乾は無言で愛機『鉄屑・ニードル』の出力をチェックしていた。17,000のマブイ。平和島、戸田、そして昨日。戦うたびに、乾の右腕には金属性の「紋様」が深く刻まれ、剥き出しの神経が悲鳴を上げていた。

「健児、無理はしないで。……今夜の相手は、パパの刺客じゃない。この場所そのものが、あたしたちを試そうとしているわ」

翼の『紅蓮・アビス』が、夜の闇の中で溶岩のような鈍い光を放っている。


1号艇に座るのは、かつて「伝説のSGレーサー」と呼ばれ、レース中の事故でマブイの半分を失い引退したはずの老将、**不知火 ゲン(しらぬい げん)**だった。

彼は黒崎龍平の「マブイ再構築技術」により、サイボーグのような機体と一体化して復帰していた。

彼の属性は**「木」の変質――『無常むじょう』**。

それは形を持たず、相手の「勝ちたい」という意志そのものを吸い取り、虚無に変える呪いの属性だった。

「若き獅子たちよ。この聖地には、幾多の夢が沈んでいる。貴様らの熱いマブイも、ここで静かに眠るがいい」

「全艇、起動エンゲージ!!」

スタートの瞬間、大村湾の空気が一変した。

不知火の放つ属性変質――『彼岸のひがんのきり』。

漆黒の水面に白い霧が立ち込め、乾たちの視界だけでなく、マブイの感知能力さえも奪い去る。17,000の熱量が、霧に触れるたびに急速に奪われ、冷めていく。


「……っ! 属性が……霧に吸われる!? 針が作れねえ!」

乾の「斬」が、形のない霧を切り裂けず、空を切る。

ハルの物理演算も、不規則に流れる霧の乱流によって計算が狂わされ、機体が激しくバウンドした。

「あたしのマグマで、霧を晴らしてやる!!」

翼が全出力で溶岩を噴出させるが、不知火の『無常』はその熱量さえも「無」へと変換し、逆に翼のマブイ石をオーバーヒート寸前まで追い込む。

「無駄だ。熱ければ熱いほど、私の『無常』はそれを糧に増殖する」

不知火の1号艇が、霧の中から音もなく現れ、乾たちの鼻先を冷酷に掠めていく。


「……ハル、翼。……こいつは『個』の力じゃ勝てねえ」

乾は、震える右腕をマブイ端子に深く突き刺した。

「俺の熱を、お前たちのマブイに繋げ! 属性を混ぜるんじゃねえ……一列に並べるんだ!」

乾、ハル、翼。

三人のマブイが、夜の大村湾で一本の「線」となった。

乾の「金」がコアとなり、翼の「マグマ」が外殻を形成し、ハルの「風(無)」がその周囲の抵抗をゼロにする。

連携奥義――『三魂一体・昇龍針トリニティ・ニードル』!!

霧を晴らすのではない。霧の「隙間」を、三人の絆を編み込んだ超高速の針が、空間ごと縫い合わせるように突進した。

不知火の『無常』が、初めてその「芯」を捉えられた。

虚無の霧が、三人の圧倒的な「生のエネルギー」に耐えきれず、大村の夜空へ向かって爆散した。

「……バカな。マブイを共有するなど……自己崩壊を恐れぬのか!」

「俺たちは一度、死んだ身だ! 壊れることなど、とっくに怖くねえんだよ!!」

乾の銀の閃光が、不知火の機艇をインから鮮やかにブチ抜いた。


ゴールラインを抜けた瞬間、不知火の霧は完全に消え去り、そこには満天の星空が広がっていた。

1位・乾、2位・翼、3位・ハル。

ピットに戻った不知火は、自らの義手を見つめ、静かに笑った。

「……見事だ。乾健児。お前の17,000は、もはや復讐の道具ではない。他者を照らす『灯火』だ」

老将はそう言い残すと、夜の闇に消えていった。

「おじさん……今のレース、僕の計算になかったよ」

ハルが、少しだけ人間らしい表情で乾を見た。

「あはは、ハル。俺の人生、計算通りに行ったことなんて一度もねえよ」

乾は、勝利の重みよりも、隣に立つ二人の体温を強く感じていた。

大村の聖地は、彼らを「新しい時代の主役」として認めたかのように、穏やかな波を返していた。


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