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からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1部:学校編

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16/21

第16話:発祥の地の咆哮、溶岩の覚醒

登場人物紹介:黒崎くろさき つばさ

* 出自: 乾を破滅させた「マブイ金融」の総帥・黒崎龍平の息子。オネェ言葉を使う。ちなみにゲイではない。かつては父の操り人形としてエリートの道を歩んでいたが、乾との死闘を経て決別。自らの意思で生きる道を選んだ。

* 属性: つち

* 以前は「龍」や「泥」で相手を封じるスタイルだったが、父への恐怖を克服し、沖縄での修行を経て火の性質を内包。現在は、すべてを飲み込み再構築する熱き濁流、**「溶岩マグマ」**の変質属性を完成させている。

* 愛機: 「紅蓮ぐれん・アビス」。

* 最新工学の粋を集めた父の支給機を捨て、沖縄の職人と共に一から組み上げた、熱量耐性に特化した真紅の機艇。

* 乾との関係: かつての仇敵であり、現在は魂の解放を教えてくれた恩師とも呼べる存在。乾の危ういまでの自己犠牲を案じつつ、共に水上の頂点を目指すライバルとしての絆を深めている。


第17話:発祥の地の咆哮、溶岩の覚醒


1993年、晩夏。長崎県、大村競艇場。

ここは競艇発祥の地として知られ、穏やかな大村湾に面した水面は一見、走りやすそうに見える。しかし、からくり競艇において「発祥の地」とは、最も古く、最も濃いマブイの記憶が水底に沈む聖域を意味していた。

「……おじさん、見て。あそこの1マーク。霊気が渦巻いてるよ」

ハルが指差す先、大村の第1マーク付近には、歴史の中で散っていったレーサーたちの残留マブイが、不気味な凪となって滞留していた。

「……ああ。古臭えマブイの匂いがしやがるな」

乾健児は、愛機のエンジンを調整しながら、ピットの入り口を見つめた。そこには、南国の陽射しを浴びて一段と精悍さを増した、黒崎 翼の姿があった。

「久しぶりね、健児。……そしてハル。あたしの『新しい土』、見せてあげるわ」

翼の背後には、以前のような冷徹な威圧感はない。代わりに、火山の噴火直前のような、静かだが圧倒的な「熱」が立ち昇っていた。


今大会「発祥の地記念・グローバルカップ」には、黒崎龍平が海外から呼び寄せた究極の刺客が参戦していた。

マブイ出力20,000を誇る北欧の怪物、ヨハン・ヴァルハラ。

彼の属性は**「金の変質――ひょう」**。すべてを凍結させ、停止させる「絶対零度」の使い手だ。

「20,000……!? 乾さんの17,000を上回るのか!」

ピットに緊張が走る。ヨハンは氷のような冷笑を浮かべ、乾たちを一瞥した。

「古い聖地には、死が似合う。貴様らの熱いマブイごと、この湾を氷像に変えてやろう」


「大村グローバルカップ、予選……全艇、起動エンゲージ!!」

スタートと同時に、ヨハンの「氷」が炸裂した。

属性変質――『絶対零度の静寂ニヴルヘイム』。

大村湾の水面が、スリットラインから一気に凍りつく。後続艇のプロペラが氷に噛み込み、次々と金属音を立てて砕け散っていく。乾の「斬」でさえ、凍てついた空間の硬度には歯が立たず、機体が悲鳴を上げる。

「くっ、マブイが……凍りつく……!」

乾の17,000が、ヨハンの20,000という物量の前に押し潰されようとしたその時。

「健児、下がってて!! ここはあたしの出番よ!」

3号艇の翼が、機体から黄金色ではない、**「暗赤色」**のオーラを噴出させた。

それは泥よりも重く、火よりも熱い。

属性変質・極――『紅蓮溶岩ヴァルカニック・マグマ』!!

翼の機艇が通る道、凍りついた大村の水面がドロドロと溶け、煮えたぎる熱泥へと変わる。

氷と熱。相反する属性が衝突し、大村湾に巨大な水蒸気の爆発スチーム・エクスプロージョンが発生した。


「なっ……私の氷を溶かすだと!? たかだか土属性の分際で!」

驚愕するヨハンのインコースを、翼の「マグマ」が強引に抉り取る。

しかし、ヨハンの20,000という出力は伊達ではない。即座に氷の壁を再構築し、翼を閉じ込めようとする。

「今だよ、おじさん! 翼さんが作った『道』、温度差で空間が歪んでる!」

ハルが叫ぶ。

乾は、翼が命を削って作り出した熱い水の流れ――その「境界線」に、自らの17,000を一点に凝縮して打ち込んだ。

「翼、道は貰ったぜ! 氷もマグマも……まとめて一閃だ!!」

連携奥義――『マグマ・ニードル・バースト』!!

翼の熱で脆くなった氷の隙間に、乾の銀の針が突き刺さる。

氷が砕け、蒸気が晴れた瞬間、銀と赤の二つの閃光が、世界ランクの怪物を左右から置き去りにした。


1位・乾、2位・翼、3位・ハル。

「発祥の地」の古い記憶を塗り替えるような、圧倒的な若き魂の勝利。

ピットに戻った翼は、ヘルメットを脱ぎ、額の汗を拭った。

「……どう、健児? あたし、もう守られるだけの令嬢じゃないわ」

「ああ。……最高の『研ぎ石』だったぜ、翼」

乾が不敵に笑い、二人は拳を合わせた。

それを見つめていたヨハンは、自らのプライドと共に砕け散ったプロペラを握りしめ、震えていた。黒崎龍平の送り込んだ「氷」は、泥の中から這い上がった「熱」に屈したのだ。

大村の海に、夜の帳が下りる。

だが、三人のマブイは、かつてないほど明るく、激しく燃え上がっていた。

次の戦場は、さらなる高みへ。


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