表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その一瞬、その瞬間で  作者: めんだCoda


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

第9話 なぜここにあなたがいるの(最終回)

 ——ピッ—ピッ—ピッ


 規則正しい機械音が聞こえ目を開けると、目の前は白い天井だった。


(あれ…私寝ちゃってた…?)


 目が覚めたので起きあがろうとするが、体に力が入らない。そして顔には違和感。

 口元に手をやると、何かプラスチックのようなものが触れる。


(え…なにこれ…)


 怖くなり取ろうとしたとき、腕には何本ものチューブのようなものがついていた。


(えっ…どういう…なんなのこれ…!?)


 口元を覆っているものをずらすと、それはよくテレビで見る酸素用のマスクだった。


(え…なんでこれ…私……えっ…ここは、どこ…?)


 てっきり家だと思っていたが、よく見れば天井もベッドも家のものとは違う。そして、何よりカーテンで仕切られていて、外が見えない。

 すると、カーテンがシャッと勢いよく開き、知らない女性と目が合う。


「えっ、うそ…!三ノ宮さん…!!目が…!ちょっと、ドクター呼んできて!早く!!」


 先ほどまでは静かだった空間に、急にバタバタと慌ただしい足音と声が舞い、白衣を着た数人に囲まれたのだった。


 ◇◇


「桜良!!」


「あ…づさ…」


「いいよ、いいよ、声が上手く出せないんでしょ?いいよ、無理して話さないでも…でも、良かった…良かった…もう目を覚さないかと…」


 私に抱きついて泣くあづさの背中を撫でているとき、ふと気づく。あづさの髪の毛に、白い髪の毛が混ざっていることに。


「あづさ…白い髪の毛ある…」


「あ、あった?なんかねー、最近ちょっと増えてきてねー。そういう歳になってきたからね」


「そういう歳…?え…?だって、私達32歳だしまだそんな…よね…?」


「……桜良…実はね…」


「なに…違うの…?」


「あのね、桜良は夫から暴力を振るわれて意識を失ったの。それで桜良はその後ずっと意識がなくてね…」


「どのくらい…どのくらい意識がなかったの…!?」


「…5年…」


「うそ……!…うそーーーっ!!」


 錯乱した私はあづさや医師になだめられ、しばらくは安静に横になることを指示された。その間、あづさから夫の話も聞いた。私への暴力で警察に逮捕され、結果不起訴にはなったが、履歴は残ることとなり会社からは出世コースから外れたそうだ。それに鬱憤が溜まったのか、はたまた性欲のはけ口である私がいなくなったからか、会社の女性社員と親密な関係になり、夫は会社を退職してその彼女と2人で暮らしているそうだ。


 病室に1人になった私は、手にした紙をもう一度広げて目を凝らす。

 離婚届。夫は私が意識不明なのを確認するなり、記入すると私が目覚めたら渡してくれとことづけて、この病室にこの紙を置いていったらしい。


「はは…最後まで自分勝手…」


 私は起き上がると、病室にあるテーブルを横から引っ張り下半身の上に設置すると、離婚届に必要事項を書き込みながら、あづさのある言葉を思い出す。


「桜良が暴力をふるわれてたとき、通報したのは西園寺さんなんだよ。桜良に電話したら通話状態になったけど、そこから聞こえる声と音で、すぐに異常事態だと思ったって。西園寺くんから連絡もらって私と2人で桜良のマンションに駆けつけたんだけどさ…、救急車に乗せられる桜良を見て、彼、一生懸命、桜良の名前を呼んでたよ…。今の桜良の顔は綺麗になってるけれど、あのときは本当に…元の顔が分からないくらいに酷かったから…。西園寺くん、ずっと自分を攻めて後悔してた。しばらくはボランティアにもいたけど、今はやめちゃったし、うちの病院の担当からも外れてるから、今はどうしてるか分からないんだけどねー…」


 私はボールペンの手を止め息を小さく吐くと、病室の扉が開く音がした。


(看護師さんかな…?)


 私は離婚届をたたみ視線をあげると、病室のカーテンがゆっくりと開けられる。

 そこには、背が高い黒髪の男性が立っていた。


「三ノ宮さん…」


 声を聞くだけで、誰だか鮮明に思い出せる。

 私が唇を噛んで体を震わせていると、彼は昔と変わらず犬のように笑う。


「え…っ…なぜ、ここに…あなたがいるの…?」


 綺麗なアーモンド型の目に見つめられ、私は手が小刻みに震える。


 だって…だって…もうあれから5年経っているのに…。


「毎週のように、僕はここに来ていたんです。毎回、三ノ宮さんがいつ目を覚ますのか、覚ましたときに一番最初に見るのは僕であって欲しいと…毎回そう思っていました」


「西園寺さ…」


 彼はベッドに腰掛けた途端、私を激しく抱きしめる。


「…愛しています…」

 変わらない彼の広い胸元に、私は安心して顔をうずめ、折りたたまれた離婚届に視線をやったあと微笑む。


「私もです」



 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ