第8話 その瞬間真っ暗に
「あー、せいせいしたわ」
仕事から帰ってきた夫にまた強制的にベッドへ引きずっていかれた私は、すぐに衣服を掴んで部屋から出ていこうとする。
「で、なんで今日お前あそこにいたの」
頭の後ろで両手を組んでベットに寝そべる夫の声は、確実に私を疑っているようだった。
「…ボランティアの関係で用事があっただけ」
「ふーん」
夫が納得していないのは声でなんとなく分かったが、これ以上、話をつつかれても面倒くさかったので、私はそそくさと部屋から出ていく。
廊下を裸で歩く私は無気力で、そして言いようのない悔しさで涙がにじむ。
部屋に戻ると、ベッド横の引き出しを開け、処方されたピルを飲む。
するとスマホが鳴り、私はゆっくりと腕を伸ばしベッドの上に置かれたスマホを掴んだ。
「……はい」
「桜良ー?あづさだけど、今電話しても大丈夫?」
「うん……」
「…元気ないねー…。あのさ、急なんだけど、明日ちょっと会えないかな?うちでお茶しない?最近ゆっくり話せてないからさー、どう?」
◇◇◇◇
「桜良いらっしゃーい」
あづさはいつものように、元気よく笑顔で私を出迎えてくれた。
私は通されたリビングに座り、出された紅茶を少し飲んでいると、横にあづさが座り私の顔を覗き込む。
「最近どう?」
「うん…別に普通だよ…」
「…本当?私に話したいこととかない…?」
すると、突然あづさが私の腕を掴んで袖をまくしあげる。
「この赤くなってる部分、…どうしたの」
「…それは…」
「またあのキチガイ夫にやられたんでしょ」
「…もう…夫婦でいる限り仕方ないから…」
「仕方なくなんかないよ。ねえ、桜良、もう一度、弁護士立てて闘おうよ」
「無理だよ。前にそうやって無理だったの、知ってるでしょ」
「でも、もう一回…」
「無理なの!やめてよ!!…引きずられてベットに連れて行かれる映像を見せても!ベッドで嫌がる映像を見せても!怒号の毎日を録音録画しても!全部全部、無駄だったじゃない!!和也の会社は大きいところだから、あそこの弁護士がつくと、どこの弁護士にも断られるの!だから、もう無理だって分かってるの!!」
「桜良…」
「…あづさは、その話をしたくて、今日私を呼び出したの?」
「…昨日西園寺くんから、桜良から渡された服が酷い状態だったって聞いて。それで…。西園寺くんも心配してたよ、すごく」
彼とあづさが密に連絡を取っていることに、モヤモヤとする。
「…もう放っておいてくれる。ごめん、私帰るね」
「桜良…!」
私は少しイライラしながら、私はあづさの呼びかけに応えることなくあづさの家を飛び出した。
すぐに家に帰りたくなくて、しばらく周辺でウロウロしながら家に辿り着くと、なぜか夫が既に帰宅していた。
「どこ行ってたんだお前」
「…今日はあづさのお家に呼ばれて…」
「ふーん。毎日毎日、外出していい身分だな」
一緒の空間にいたらまた嫌味を言われる、そう思って別室へ行こうとしたとき、スマホの着信音がなる。
「俺じゃねえな、おい、お前のが鳴ってるぞ。おい、出ろよ」
「…あとで出るから…」
「あ?なんだ?出られない理由でもあるのか?」
「…今日あづさと喧嘩しちゃって、だからあとでまた出るから…」
「——貸せ」
和也は私の手からスマホを奪い取ると、画面をじっと見つめる。
「…おい…誰だ、…西園寺って。——おい、どこが、あづさだ?あ?おい!!」
「やめて!返して——!!」
手を伸ばしてスマホを奪い返そうとしたとき、
「三ノ宮さん!」
スマホから聞こえる声、そして私は頭と顔にものすごい衝撃を感じ、その瞬間、目の前が真っ暗になった。




