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その一瞬、その瞬間で  作者: めんだCoda


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第6話 連絡先の交換

「泊まるところが見つかって、良かったです」


「西園寺さん、すみませんこんな遅い時間にまで付き合っていただいて…」


「いえいえ、約束したことですから。それより、お互い…お揃いの服みたいになっているので、明るいうちは視線集めましたね」


「ほんとです〜。今は暗くなったのであまり見られなくて、ちょっと安心してます」


 打ち合わせ先の病院との打ち合わせは、事情も事情のため変更となった。また列車に乗っていた乗客全員は運行会社からの手配によりタクシーで出発した駅へと戻され、そこで運行会社より手配された服装に着替え、警察や救急隊からも話を聞かれたり身体に怪我がないか確認されたり…など、様々なことが行われ、目まぐるしく時間が経過した。


「ふふ、でも、私達だけじゃなくて、今日乗っていた乗客の方全員が同じ服でしたし、皆んなで歩いたらもっと注目集めたかもしれませんね」


 運行会社から手配された服装は、サイズが違うだけでデザインが同じ上下で、2人で並んで歩くとただの仲良いカップルに見える。


「はは、そうですね。…と、ここですね」


 立ち止まりスマホからホテルへと視線をうつし仰ぎ見ると、空は既に真っ暗で比較的田舎の方の地域にも関わらず、星は全く見えなかった。


「ホテルを探していただいただけでなく、ここまで送っていただいて、ありがとうございます。西園寺さんも大変だったのに…すみません…」


「大丈夫ですよ。こう見えて、意外と体力あるんです。学生のときは陸上やってたんです」


「えっ、意外です…!なんかインテリっぽい雰囲気なので…!」


「また。三ノ宮さんから見た僕って、つくっく実際の僕とは正反対ですからね」


「ふふっ、そうですね。すみません」


「まあ、話せば話すほど、誤解がなくなっていくようで僕は楽しいですが」


 笑う彼に、私は思わずまた胸がギュッと締め付けられる。


「西園寺さん…あの…」


「あっ、チェックインの時間ギリギリです、ホテルに入って済ませてきた方が良さそうですよ」


「えっ、あ、ほんとだ!あの、西園寺さんはこの後は…」


「三ノ宮さんがチェックインを完了したのを確認してから、僕も帰ります。ここで待っているので、行ってきてください」


「でも、外は寒いのでホテルの中のロビーとか、中に入って待っていた方が…」


 列車の運行会社から借りたコートを着てはいるが、流石に夜になると風が冷たく体が冷える。


「いえ、僕はここにいます。ホテルに一緒に入ったことで、三ノ宮さんにいらぬご迷惑がかかるといけないですから」


「あ…そうですよね、ごめんなさい、気にせず中に入ってなんて…」


「いえいえ。優しさで言ってくださったのは分かっています。ここで待っていますから、行ってきてください」


 そう言って笑う彼の口からは白い息が出ていて、両手をコートのポケットに突っ込んだ彼は、本当に寒そうだ。


「すぐに手続きしてきます…!」


 咄嗟に自然と彼に手を振ってしまったが、それを見た彼も笑顔で小さく手を振り返してくれ、お互いに見つめ合いながら微笑む。


 フロントで無事にチェックインを済ませて外に出ると、彼が女性2人から話しかけられていた。

 どうしようかと後退りしかけたとき、彼がこっちをパッと振り向く。


「三ノ宮さん、無事にできましたか?」


 彼は手のひらを女性達に向け、失礼します、と真顔で一言言うと、私の方に向き直り、またまるで犬のような人懐っこい笑顔で近付く。


「あっ…はい、できました、ありがとうございます…。…あの…さっきの女性達は…」


「ここで、三ノ宮さんを待っている間に話しかけられただけです」


「そうだったんですね…なんか私邪魔しちゃったようで、ごめんなさい…」


「…勘違いさせないためにも、言っておきますが、僕は先ほどの女性達には興味はありませんし、ただ女性達が一方的に話していただけです。そんなことより、三ノ宮さんがチェックインできたか、何か困っていないか、それらのことで頭の中はいっぱいでした」


 寒い中しばらく立っていたからか、彼の頰や鼻の頭がほんのり赤くなっている。


「…あの…、西園寺さんはこのままもう帰られるのですか…?ホテルではなくて、近くのカフェなどで少しあったまりますか…?」


「ぜひ、行きたいです!…と言いたいところですが、明日は仕事なので電車の時間を考えるともう帰らないと…いけないですね」


「あっ…!そうか…!!明日、平日——!ごめんなさい、私働いてないから気が回らずに…こんな遅い時間まで付き合わせてしまって、ごめんなさい…!」


「ははっ、大丈夫ですよ。普段はこの時間帯でも、まだ仕事していることが多いですから」


「そうなんですか…。遅くまで大変ですね」


「ありがとうございます。…カフェの約束は、また今度に、…いいですか?」


「…は、はい」


 思わぬ彼からの返答で緊張して固まる私に、彼は優しい笑みを向ける。


「それから、今日の病院での打ち合わせも、また僕達2人で行けるように調整します。そのときは、今度こそ、僕との約束のアイスもお願いしてもいいですか?」


「…あっ、…ふふっ、はい」


 お互いに微笑み合ったあと、しばらく互いを見つめあったまま、その場から動かずにいた。


「あの…私はそろそろ…」


「…あっ、そうですね。明日は気をつけて帰ってください」


「はい、ありがとうございます。西園寺さんも」


「ありがとうございます」


 私は彼へ頭を下げホテルへと戻ろうと、踵を返す。


「三ノ宮さん——!」


「はっ、はい…!」


 驚いて振り返ると、彼がスマホを私に向ける。


「僕の番号を教えておきます。…次の打ち合わせの連絡もしたいので…。あと…」


「はい…」


「もし、また怪我をしたくなるほど悩んだときには…電話してください。話しを聞きますから…だから、もう自分を傷つけるなんてことは、しないでください」


「……西園寺さん…」


「…次のボランティアの日も、…来ますか?」


「はい、もちろん、行く予定です…!」


「良かった。そうしたら、またそこで会えますね」


 私と彼ははにかみながら互いに近付き、スマホの番号を登録し合う。


 この交換した番号は、この先ずっと私にとって大事なお守りになる、のだが、それが近いうちにこれが地雷になるのは、このときはまだ分かっていなかった。

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