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その一瞬、その瞬間で  作者: めんだCoda


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第4話 温かいものとドロドロしたもの

「今日は、日差しがあって温かいのでよかったですね。寒かったら、どうしようかと思っていました」


 そう言って、彼は日差しに負けないくらいの明るい笑顔を私にむける。


 このトロッコ列車には屋根はあるが窓がなく、天候の良い日でなければ乗るのは難しいが、駅と病院間のみを繋ぐワンマン運行で、駅と病院間の道すがらをゆっくりと堪能したい人がよく利用しているのだそうだ。


「そうですね、本当天気が良くてよかったですね。でも、意外でした。西園寺さん、こういうのよりタクシー派なイメージだったので」


「おおっ…またまた僕はそんなイメージですか」


「ふふ、はい、だって見た目はやっぱり都会で仕事バリバリしてますって感じですし、それに見た目も洗練されてますもん…私と同じ地方出身とは思えません」


「ええ…そうですか…?でも、僕は見た目は地方にいた頃とそんなに変わっていないと思うんですが…」


「それって、昔からイケメンでしたって自分で言ってるってことでいいですか?」


 私と彼は互いに顔を見合わせたあとに思わず笑い出し、笑いがおさまり顔をあげたときに彼の顔が近くにあって、私は驚き慌てて体を引いた。トロッコ列車の狭さに慣れすぎていて、距離が近くなり過ぎていたのだ。

 そして、それは彼も同じ気持ちだったようで、彼も急いで顔を外に向け景色を眺めているふりをしていた。


 ガタンガタゴトン——


 トロッコ列車が線路を走る音と、後方の席で子どもがキャッキャと声をあげる声が風にのって耳に入ってくる。


(楽しい……人と話してて楽しいの、いつぶりだろう…)


 右側の景色を見ながら、ふと胸に温かいものがじんわりと広がる。

 ボランティアや、友人との食事で人と話すことはあっても、初対面の人でこんなに気楽に楽しく話せたのは初めてだ。


(西園寺さんがきっと魅力的だからだわ…)


 私はお礼を言いたくなって彼の方を向くと、こちらをじっと見つめる彼と目が合った。

 彼は私と目が合った途端、ハッと驚いた顔をして顔を下に向け恥ずかしそうに咳払いをした。


「…あの、西園寺さん——」


 ガタ、ガタガタン!!!———


 話しかけた途中で、突然トロッコ列車から大きな音がした。


「きゃっ、な、なに…!?」


 列車の普通の運行では聞かないような異音を聞き、不安になって隣の彼をみると、彼もただならぬ様子で前方や後方を確認していた。

 そして、2人ともすぐに異変に気が付いた。外の景色の流れていくスピードが、どんどんと加速していることに。


「三ノ宮さん、列車に捕まってください」


 彼の言葉に、私はトロッコ列車にしがみつくと、みるみるうちに速度が上がり、まるでジェットコースターの走り出しのように飛ばし始めた。


「…きゃあっ……!」


 速度が速くなるうちに、ガタガタと車体も揺れ始め、私は怖くなり身を縮こませる。すると、彼が私の肩を強く掴み、彼の方へ引き寄せられた。


「どうしよう…怖い…!」


 私は目をギュッと瞑ると、彼がもう一方の手で私の手を優しく握ってくれた。


「大丈夫です、僕と一緒にいましょう」


 彼に落ち着いた口調でそう言われると、まだ会って間もないのに不思議と大丈夫だという気持ちになった。


「…運転士の方が何か言っていますね」


 列車前方の運転席から運転士が身を乗り出し、手を大きく振って何やら叫んでいるが、風を切る音と車輪の轟音で聞き取れない。


「…おそらく、列車から横に飛び降りろと言ってますね」


 彼と同じように運転士の意図を組んだであろう後方に乗っている家族連れは、列車の横の扉を開け子どもを胸に抱えて、次から次へと横に身を投げ飛び出していく。さっきまでは木々や草木の生い茂る中を走っていたが、今列車が走る横は、ぬかるんだ田んぼや畑で、横に飛び出るには今がチャンスだった。


「三ノ宮さん、僕は前にいるご夫婦の所に伝えに行ってきます!待っていてください!話し終えたら戻りますので、僕と一緒に降りましょう!」


 1つ前の車両に乗るお年寄りの夫婦の所へと、連結部分をまたぎ、左右に揺れる列車の中をゆっくりと進んでいく彼。お年寄りの後ろにつくと、座りって2人に状況を伝えているようだった。


(大丈夫かな…いくら隣は柔らかそうな土でも、うまく飛び出せるのかな…それに、あのご夫婦は飛び出したら怪我だけですまないよね…)


 私は大きく息を吸うと、彼に向かって声を張り上げる。


「西園寺さん!!そのお2人と一緒に降りてください!!」


「ですが、そうすると三ノ宮さんが1人に…!!」


「私は1人で降りられます…!なので、心配しないでください…!私なんかのことより、そちらのご夫婦を優先してください!」


「……分かりました——!」


 彼はその広い胸元にお年寄りの夫婦を抱えるようにして構えると、私の方へ振り向く。

 列車がきる風で、私も彼も髪の毛が顔にかかり、表情がよく読めない。


「三ノ宮さん、先に出てください!その後、僕もご夫婦とすぐに出ます!」


「大丈夫です!先に降りてください!この先はまた木々の生い茂る場所がきます!なので、早くいってください!」


 私が指さす前方には、長短様々な木々が生えている。


「…分かりました!では、僕達が降りたらすぐに!三ノ宮さんも続いてすぐに降りてきてください!いいですね!?」


「…早く降りてください!迫ってきてます…!」


 田んぼや畑が終わろうとしていて、彼は老夫婦と共に横から飛び出る。

 無事に着地したのを見て、私も続こうと思った。——思ったのだが、ふとある考えが頭によぎる。


 このまま乗り続けて列車が衝突して私が怪我をすれば、夫とあの閉塞的な家から離れられる…。そうすれば、私を縛るしがらみから逃れられる…逃げたい…これは私にとってチャンスじゃない……?


 私は、列車の横のドアを強く掴んだまま動かず、ただ頭の中は様々な思いが駆け巡り、気持ちはドロドロと濁りが広がっていく。


「三ノ宮さん!!!」


 彼の声で急に現実に戻された私は顔を上げると、畑に立ち尽くす彼の横を通り過ぎる。その瞬間はまるでスローモーションのようで、こちらを見つめる彼の驚いた顔と確かに見つめ合った。

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