第2話 気分転換に
空いている椅子が1つしかなく、遠慮がちに私はその椅子を引き声をかける。
「あの、西園寺さん、お隣に…失礼します」
「はい、よろしくお願いします」
彼は、少し明るめの茶髪で、その髪色からイメージ的に賑やかそうな人かなと最初は思っていた。だが、ボランティア活動を共にするうちに分かったのは、見た目に反し実際は大人しく、口数も少ない、そしてどこか凛とした雰囲気をもっている、そんな大人っぽい人だった。
その大きな瞳と鼻筋の通った鼻、そして整った顔は近寄りがたい雰囲気もあるが、意外にも話しやすく、今だに人柄を掴めない不思議な人だった。
「それで、次はどこの病院に?」
ボランティアメンバーの1人が、あづさに聞いたのは、次の活動場所についてだ。
ボランティアで行っている活動内容は、音楽療法というもので、病院や介護施設などをまわって音楽を演奏し、入院、あるいは入所している人を励ますものだ。
この活動の先駆者はもちろん、友人のあづさで、大学で音楽を専攻していた私に参加しないかと声をかけてくれたのが、参加するきっかけとなった。あづさを除く私と他メンバーは、全員何かしら楽器を演奏できたので、てっきり彼もそういう縁で入ったのかな、と思っていた。
「あぁ…すみません、…実は僕は演奏経験は無いんです。あづささん以外、皆さん弾かれるんですよね。あづささんから聞いています」
彼は少し困ったような顔で微笑むと、あづさは大丈夫だよ、と笑いながら彼に向けて手でオッケーマークをつくる。
「一応弁明?いや、説明かな?しておくとね、彼はねー、彼が言った通り弾けないの。西園寺くんは、私の職場の先輩医師から紹介受けた子でね、CEって言ってね、医療技術エンジニアでうちの機器の保守点検などを行ってくれる仕事をしてるのよ。先輩が私のしてるボランティア活動を西園寺くんに話したらしくて、彼が興味もってぜひ参加したいって言ってくれてねー、それで今日試しにって、来てもらったの。私は弾けない仲間ができて、大歓迎なんだよねーっ!」
あははと、のけ反って豪快に笑うあづさ。
彼はそんなあづさの話を、笑顔で頷きながら聞いている。
「皆さん、あづささんのお話の通り、僕は演奏は難しいですが…ああ、でもタンバリンとか鈴とか、そういう簡単のならできると思うので、よろしくお願いします。弾けない代わりにではないんですが、病院側などとの交渉でしたら率先して行いますので、どうぞそういったやっかいな業務は僕に回してください」
彼の挨拶に、他のボランティアメンバーの女性たちは顔を見合わせて、クスクスと手を口に当てて好意的に笑う。
すると、あづさが彼の肩に手を置き、ありがと!と言い皆んなの顔を見回す。
「実はね、本当にね、彼の話の通りにして欲しくて。さっき皆んなにも少し話したけど、私、最近本当に仕事が忙しくなってきてて、活動自体に支障が出ないようにはしてるんだけど、どうしても依頼先との連絡とか交渉とか、密なやり取りが、ちょっと今は負担、ていうか難しくて。そうしたら、西園寺くんがそういうこと引き受けてくれるって言ってくれたから、一時的に本当にお願いしようと思っていて。また私の仕事が元のように落ち着いてきたら、私が全面的に行うけど、それまでは西園寺くん主導でいきたいと思っているんだけど…いいかな。もちろん、私も色々フォローに入るけど、彼も入ったばかりで分からないこと多いと思うから、皆んなも教えてあげてね」
「皆さん、よろしくお願いします」
「それで、早速なんだけど、今度は山林病院から依頼があったので、今度打ち合わせに行ってもらいたいんだけど、そうだな、行ってもらうのは、西園寺くんとー…桜良、いい?」
「えっ…私…?」
「うん、前に私と一緒に打ち合わせに参加したこともあるし、大丈夫でしょ?それに、山林病院は周りが木々に囲まれてて自然豊かだし、桜良好きかな〜って」
そう言うと、あづさは私に向かってウィンクする。あづさは、私が夫との結婚がうまくいっていないことを知っていて、タワマン生活が息苦しい私を案じて気分転換をと進めてくれているのだ。
「うん…ありがとう。そうしたら、行かせてもらうね」
「よーし!ありがとう!よろしくー!そしたらねー、早速なんだけど、打ち合わせの日にちが——…」




