Zero Chronicleとしての意地 1
異世界転生が確定した翌朝。
エルデンフォードの街は、昨日と変わらず賑わっていた。
露店の呼び声、鍛冶屋の金属音、冒険者たちの笑い声──すべてが“いつも通り”に聞こえるのに、四人の心境はまったく違っていた。
宿屋の一室で、四人は円卓を囲んで座っていた。
窓から差し込む朝日が、妙に現実的で、逃げ場のない現実を突きつけてくる。
「……マジで異世界転生かよ」
晴斗が頭を抱えながら呟く。
昨日の軽口とは違い、声には重さがあった。
「どうするの……これから」
透花は不安を隠せず、指先をぎゅっと握りしめている。
彼女の表情は強がっているようで、でも目の奥は揺れていた。
「生きるための情報を集めるしかないよ」
玲奈は冷静だった。
その声は震えていない。
だが、目の奥には確かな緊張が宿っていた。
迅は深く息を吸い、三人を見渡した。
「まずは……この世界のルールを知る。
それが最優先だ」
四人は頷いた。
逃げることはできない。
ならば、知るしかない。
広場へ向かうと、昨日の青年──黒瀬がいた。
彼は腕を組み、街の様子を観察していた。
周囲のプレイヤーが浮かれている中、彼だけは明らかに空気が違う。
「……お前らも気づいたか」
黒瀬は四人を見るなり、そう言った。
「もう否定できないよ」
玲奈が答えると、黒瀬は小さく頷いた。
「なら、まずは“死んだらどうなるか”を調べるべきだ」
「やめてよ……!」
透花が思わず声を上げる。
その声は震えていた。
「でも……確かに重要だ」
玲奈は透花の肩に手を置きながら言った。
「死んだら現実に戻る可能性もあるし……」
「逆に、本当に死ぬ可能性もある」
黒瀬の言葉に、四人は息を呑んだ。
「……慎重に動くしかないな」
迅が静かに言った。
黒瀬は頷き、街の方を指差す。
「まずは情報だ。ギルド、道具屋、教会……全部回るぞ」
● 冒険者ギルド
ギルドの中は活気に満ちていた。
受付の女性NPCが丁寧に説明してくれる。
「クエストはランク制になっております。
初心者の皆さまはFランクからの挑戦となります」
その声は柔らかく、自然で、まるで本物の人間のようだった。
「報酬は……お金と素材か」
晴斗が呟く。
「生活するには、お金が必要だね」
玲奈が冷静に分析する。
「……ゲームじゃないんだもんな」
透花の声は小さかった。
黒瀬は受付の女性をじっと見つめていた。
「……あのNPC、呼吸してるぞ」
「え?」
よく見ると、胸がわずかに上下している。
呼吸のリズムまで自然だった。
「……やっぱり、AIじゃない」
玲奈が呟いた。
● 道具屋
棚には回復薬や素材が並んでいる。
迅が店主に尋ねた。
「HPがゼロになると……どうなる?」
店主は少し驚いた顔をした。
「どうなるも何も……死にますよ」
その言い方は、あまりにも“普通”だった。
「……ゲーム用語じゃないんだ」
玲奈が呟く。
「死んだら……終わりってことか」
晴斗の顔が青ざめる。
「いやいや、でも……ゲームだし……」
晴斗が無理に笑おうとするが、声が震えていた。
「ゲームじゃないって、もう分かってるでしょ」
透花が小さく言った。
● 教会
白い石造りの教会。
神官らしきNPCが祈りを捧げている。
「死者を蘇らせることは……できません」
神官の言葉は静かだったが、重かった。
「……やっぱり、死んだら終わり……?」
透花の声が震える。
「ゲームじゃないなら、当然だよね」
玲奈は冷静に言うが、その手はわずかに震えていた。
「……慎重に動くしかない」
迅は再び同じ言葉を口にした。
黒瀬は腕を組み、深く息を吐いた。
「……これで確定だな。
死んだら終わり。ログアウトもできない。
つまり──」
「“本当に生きるしかない”ってことだね」
玲奈が言った。
◇
宿屋に戻ると、四人は自然と黙り込んだ。
死の重さが現実としてのしかかる。
だが、絶望だけではなかった。
「……でもさ」
晴斗がぽつりと言った。
「俺たち、Zero Chronicleだろ?
最強パーティーなんだぜ。
死ななきゃいいんだよ」
その言葉に、透花が少しだけ笑った。
「……そうだね。死ななきゃいいんだよね」
「慎重に動けば大丈夫」
玲奈も微笑む。
迅は三人を見渡し、静かに頷いた。
「死んだら終わり。
でも──俺たちなら、生き残れる」
その言葉に、三人は力強く頷いた。
重い現実の中でも、
四人の間には確かな絆があった
そのとき、後ろから声がした。
「……お前ら、強いな」
振り返ると黒瀬(元プレイヤーDくん)が立っていた。
どうやら、ここまでついてきたわけではなく、
同じ宿に用事があったらしい。
「さっきの話、聞こえちまった。
でも……そのメンタルなら大丈夫だろ」
「黒瀬……」
「俺は俺で動く。
情報は集めるし、何か分かったら知らせる。
ただ──」
黒瀬は少し笑った。
「お前らの邪魔はしたくない。
Zero ChronicleはZero Chronicleで動けよ」
そう言って、黒瀬は階段を上がっていった。
どうやら別の部屋を取っているらしい。
「……聞こえてたんだね」
透花が呟く。
「まあ、仲間って感じじゃないけどな」
晴斗が笑う。
「でも、頼りにはなる」
玲奈が言う。
迅は静かに頷いた。
「黒瀬は黒瀬で動く。
俺たちは俺たちのやり方で、生き残る」
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