異世界転生?
エルデンフォードの街門をくぐった瞬間、四人は思わず足を止めた。
「……人、多っ!!」
晴斗が叫ぶ。
その声に、透花と玲奈も同時に目を見開いた。
「え、ちょっと……リリース初日だよね?」
「こんなにプレイヤーいるの……?」
街の中は、まるで祭りのような賑わいだった。
石畳の通りにはプレイヤーがひしめき合い、露店の前には行列ができている。
広場ではすでにパーティ募集の声が飛び交い、鍛冶屋の前では武器を振り回して試し斬りをしている者までいる。
「事前登録1000万って言ってたけど……」
「それにしても多すぎない?」
「……まあ、人気なんだろ」
迅はそう言いながらも、街の空気に圧倒されていた。
NPCの動きが自然すぎる。
プレイヤーとNPCの区別がつかないほど、表情も仕草もリアルだ。
まるで、本当に“街”として機能しているようだった。
「とりあえず、クエスト掲示板行ってみよっか」
「おう、序盤はクエストこなしてレベル上げだな」
「掲示板……あ、あれだね」
「行くか」
四人は人混みをかき分けながら、掲示板へ向かった。
掲示板の前には、すでに多くのプレイヤーが集まっていた。
クエストの紙が次々と剥がされ、受注されていく。
「うわ、もうこんなにクエスト受けられてる……」
「みんな早いなぁ」
「でも、初心者向けのはまだ残ってるね」
「じゃあ、これとこれにしよう」
四人が選んだのは──
● クエスト①《森の薬草採取》
● クエスト②《迷子の子どもを探せ》
どちらも初心者向けの簡単なクエストだ。
「薬草は森の入口付近に多く生えていますよ。お気をつけて」
「うちの子を見つけてくださって、本当にありがとうございます……!」
NPCが自然に話しかけてくる。
声の震え、表情の変化、仕草──どれも人間そのものだった。
「NPCの演技力高すぎじゃね?」
「感情表現がリアルすぎる……」
「声の震えとか、完全に人間じゃん」
「……まあ、最近のAIはすごいしな」
迅はそう言いながらも、胸の奥に小さな違和感を覚えていた。
だが、それを深く考えるほどの不安はまだない。
◇
クエスト①《森の薬草採取》
街を出て草原を抜け、森の入口へ向かう。
風が吹き、草が揺れ、鳥の声が響く。
「この景色……ほんとにゲーム?」
「空気の匂いまで再現されてる気がする……」
「没入感やばいな」
「薬草は……あ、あった」
薬草は光の粒子でわずかに強調されており、採取は簡単だった。
「よし、10本集まった」
「じゃあ次、迷子の子どもだね」
「街に戻るか」
「おう」
◇
クエスト②《迷子の子どもを探せ》
街に戻ると、子どもNPCが泣きながら歩いていた。
「お兄ちゃんたち……迷っちゃったの……」
その声は震えていて、涙の光までリアルだった。
「大丈夫、親御さんのところに連れていくよ」
「ほんと? ありがとう……!」
子どもは迅の手をぎゅっと握った。
その温度まで感じられるような気がした。
「……すげぇな、このゲーム」
「ほんとに“触れてる”みたいだね」
「NPCの手ってこんなにリアルだったっけ……?」
「技術の進化ってすげぇわ」
四人は子どもを親のもとへ送り届け、報酬を受け取った。
◇
「いやー、序盤でも楽しいな!」
「街戻って装備見よっか」
「その前に……ちょっと休憩しない?」
「そうだな。説明も多かったし」
四人は宿屋へ向かった。
宿屋の中は落ち着いた雰囲気で、木の香りが漂っている。
「ここ、めっちゃ落ち着く……」
「リアルすぎて逆に怖いわ」
「じゃ、一旦ログアウトして飯食おうぜ」
「うん、そろそろ現実のほうもお腹空いた」
四人は席に座り、同時にメニューを開いた。
「……あれ?」
最初に声を上げたのは透花だった。
「設定の一部、押せなくない?」
四人が確認すると──
・音量調整
・画質設定
・UIサイズ変更
・視線操作の感度
・ジェスチャー操作のON/OFF
これらがすべてグレーアウトしていた。
「ほんとだ……なんで?」
「初日だから制限してるとか?」
「いや、でも設定系が使えないって珍しくない?」
「……まあ、ゲームによってはあるか」
迅はそう言ったが、胸の奥に小さな不安が芽生えた。
「じゃ、ログアウト……」
晴斗が言い、四人は同時にログアウトボタンに視線を向けた。
しかし──
ログアウトだけが、グレーアウトしている。
「……あれ?」
「押せない……?」
「いやいや、そんなわけ……」
「バグ……か?」
四人の表情が固まる。
晴斗「初日だしな! まあ、あるあるだろ!」
透花「……そう、だよね?」
玲奈「サポート……あれ、問い合わせも押せない?」
迅「……一旦落ち着こう」
沈黙が落ちる。
宿屋の中は静かで、外からは街の喧騒が聞こえる。
その“普通の音”が、逆に不気味に感じられた。
「……なあ」
晴斗がぽつりと言った。
「これさ……ログアウトできないって……」
四人の視線が晴斗に向く。
「もしかして……異世界転生しちゃってるとか?」
「ちょ、やめてよそういうの!」
「でも……NPCの自然さとか、街の空気とか……」
「ゲームってレベルじゃなかったよね」
「……冗談だろ。そんなわけ──」
迅が言いかけたとき。
晴斗「でも、ログアウトできねぇんだぜ?」
誰も笑わなかった。
冗談のつもりだった。
でも、誰も笑えなかった。
四人の間に、重い沈黙が落ちる。
「……と、とりあえず……今日は宿屋で休もう?」
「うん……明日になれば直ってるかも」
「そうだね……」
「……ああ」
四人はそれ以上何も言わず、部屋へ向かった。
ログアウトできないまま———
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