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『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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昼下がり、荷物は語る

昼前の王都は、妙に静かだった。冒険者たちは依頼に出ている時間帯で、街の中心部はどこか緩い空気が流れている。


「こういう日は、客が少ないんだよな……」


 タクシーをゆっくり走らせながら、私は自動翻訳ナビの案内を聞き流していた。客がいないときは、そのまま街を巡回するだけだ。


 そんな時——。


ピコン。


《依頼:荷物運搬の臨時タクシー呼出》 《依頼主:雑貨屋 フィーナ》


「……荷物運びか。まぁ、暇よりはいいか」


 異世界は“配送サービス”がまだ一般的じゃない。だから、タクシーが代わりに使われることも多い。

 タクシー運転手で、宅配便も担当する世界線だ。



「ごめんなさいねぇ! 急ぎで頼みたくて!」


 店の前にいたのは、雑貨屋の若い店主、フィーナ。

 明るい笑顔だが、しっかり者で評判の女性だ。


「荷物ってこれですか?」


「そうそう! お客さんから“鍛冶屋に届けて”って頼まれたの。ちょっと重いけど大丈夫?」


 渡された木箱は、ズシッとした重量感。

 鉄製の工具か何かが入っているのだろう。


「大丈夫ですよ。じゃあ積みますね」


「お願い! あ、割れ物だから優しくね!」


「割れ物……?」


 思わず重い木箱を見下ろした。


 ——いや、絶対割れ物じゃない重さなんだけど。


 異世界あるあるだ。



 木箱を後席に固定して走り出す。

 鍛冶屋通りまでは短い道のり……のはずが、いつもどおり問題は起きる。


「お、おじさん運転手さん! その荷物なんですか!?」


 通りかかった新人冒険者に声をかけられた。


「いや、ただの配送だよ」


「いやいや! その箱……魔力の気配しますよ!?」


 魔力?


 私はミラー越しに箱を確認した。


 すると……


 ——ピシ……!


 木箱の板が、わずかに内側からしなった。


「……おいおい、聞いてねぇぞフィーナさん……」


 中で何かが“動いた”気がした。



「運転手さん!! その箱、たぶん魔道具か魔獣の卵です!!」


「卵!?」


 後席で“ごとん、ごとん”と不安な音が鳴る。


 私は急いで鍛冶屋通りへ向かった。

 もっとゆっくり運びたかったが、正直怖い。



 鍛冶屋に着くと、店主が慌てて飛び出してきた。


「おおっ! ようやく届いたか!」


「これ……何が入ってるんです?」


「“鉄喰いてつくいむし”の幼体! 安全に運べたか!?」


「安全……って言っていいのかな……」


 カーナビの満足度は《★★★☆☆》という微妙な評価をつけていた。


 店主は木箱を抱え上げ、中を覗き込む。


「おうおう、元気だ元気だ。よし、これなら加工に使える」


「加工……?」


「鉄を柔らかくする特殊な作業があるんだよ。こいつが必要なんだ」


 なるほど。

 異世界の道具は本当に何でもアリだ。



「ほい、運賃な」


 店主が銀貨を差し出す。


「助かったぜ。タクシーって便利だな。早いし丁寧だし」


「丁寧……?」


 私の疑問をよそに、店主は満足げに店へ戻っていく。


 まあとにかく、無事に届けられたなら良かった。



 タクシーに戻ると、カーナビが勝手にメッセージを出した。


《隠し実績:荷物も客扱いです!》 《称号:異世界配送ドライバー》


「……また変なの増えたな」


 私は肩をすくめつつ、午後の街へとハンドルを切った。


「さて、次は普通の客だといいんだが」


 そう呟いたが、どうせ普通では済まないんだろう。

 この世界では、タクシーにも物語が乗ってくる。


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