泣き虫騎士、初任務で乗車す
王都の西門近く。
今日は珍しく客待ちの列がなく、静かな午後だった。
(たまにはこんなのんびり時間もいいな)
そう思っていた時——
カンッ! カンッ! カンッ!!
金属鎧を打ち鳴らすような音が響き、
若い騎士が全力でタクシーに向かって突進してきた。
「しゅ、修一さんのタクシーですか!?!?」
「うおっ!? そ、そうだけど!?」
青年は必死で窓にしがみつく。
顔は赤く、目は涙でうるうる。
(え、泣いてる……?)
「た、助けてください……!!
ぼ、ぼく……初任務……もう無理ですぅぅ!!」
「ちょ、落ち着いて!?」
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後部座席に乗せると、青年は鎧のまま膝を抱えて震えていた。
「ぼく……騎士団一年目の、ライアンです……
“王都巡回任務”なのに……迷子になりました……!」
(よりによって巡回で迷子!?)
「それで……団長に“お前は地図も読めないのか!”って怒鳴られて……
ぐすっ……ぐ、ぐやじぃぃ……!!」
泣く、泣く、ひたすら泣く。
《注意:後部座席の湿度が上昇しています》
「お前は黙ってろ!!」
俺はハンカチを渡す。
「とりあえず、どこに向かえばいいんだ?」
「ひぐっ……西区の見回り地点です……
でも……ぼく……方向音痴で……王都もう嫌です……!」
(いや騎士として致命的すぎるだろ)
「ほら、乗ってれば着くから。気にすんな」
「……修一さん……優しい……」
「うわぁぁぁん!!(第二波)」
(今日の後部座席、絶対べちゃべちゃだ……)
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道中、ライアンはぽつぽつと話し始めた。
「ぼく……本当は、弱いんです……
剣も遅いし、力もないし、すぐ泣くし……
でも……守りたい人がいて……騎士になりました……」
「守りたい人?」
「……幼馴染です……」
あ、そういうやつか。
「じゃあ強くならないとな」
「……はい。でも……ぼく……団長が怖すぎて……!」
「団長って誰?」
「“鬼鉄のガルド”です……!!
剣の腕はすごいけど、すぐ怒鳴るし、靴投げるし……
“泣くな!”って言われると余計泣きます!!」
(そりゃ泣くタイプには地獄の上司だ)
「まあ……苦手な上司はどこにでもいる。
でも地図くらいは覚えないとな」
「うぅ……努力しますぅ……」
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西区の巡回地点に到着。
ライアンは涙でぐちゃぐちゃの顔で降りた。
「しゅ、修一さん……こんなぼくでも……
また乗せてもらえますか……?」
「もちろん。迷ったら呼べ。ただし泣く前にな」
「……はいっ!」
その時、遠くから聞こえる怒号。
「ライアァァァァン!!!
てめぇ巡回サボってタクシー乗ってんじゃねぇ!!」
(あれが噂の鬼鉄ガルドか……すごい迫力だな)
ライアンはビビりながらも剣を握りしめ、
「い、行ってきます!!」
と走っていった。
……その直後に「ぎゃあああああ!!」と叫び声がしたが、
まあ今日のところは頑張ってくれ。
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《乗客満足度:★★★★☆
コメント:“泣かずに乗れました”》
「嘘つけ絶対泣いてたわ」
俺はため息をつきながらも、少し微笑んだ。
(あいつも、この世界で必死に生きてるんだな)
タクシーは再び街道へと走り出した。




