忘れ物の正体は、未来の発明家?
昼下がりの王都。
タクシーを停めて後部座席を確認していたら——
「……ん?」
布袋。ずっしり重い。
中をのぞくと、ぎっちり詰まった鉄くず。
ネジ、歯車、バネ、魔石のかけらまである。
(これ……資材屋が落としていったのか?)
触った瞬間。
「ひぃっ!? な、何してるんですか!?」
突然、後ろから少女の悲鳴。
振り向けば、小柄でメガネの少女が息を切らして立っていた。
肩には工具箱、ベルトには小型ハンマー……
(あ、これ完全に職人タイプだ)
「ご、ごめんなさい! その袋……わ、私のです!」
「これ? 鉄くずだけど?」
少女は目を輝かせて叫んだ。
「ただの鉄くずじゃないです!!
全部、“未完成の魔導機の心臓部”なんです!!」
(未完成なのかよ)
袋を抱きしめる少女。
「今日、師匠に“失敗ばっかり!”って怒られて……
落としちゃって……あ、あの、本当に……助かりました……」
うつむいた肩が震えている。
——叱られたばかりの子どものようだ。
「師匠さん、厳しい人なんだ?」
「……はい。
でも、私……本当に魔導機を作りたくて……
いつか、“誰かの役に立つ道具”を……」
少女の声は小さいけど、芯があった。
だからこそ、叱られると余計に落ち込むんだろう。
「よし。じゃあ工房まで送るよ」
「えっ……で、でもお金が……」
「後で払ってくれればいいよ。分割でもいいし」
「……っ! ありがとうございます!」
ぱぁっと花が咲くみたいに笑う。
(こういう時、タクシー運転手で良かったと思う)
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工房に着くまで、少女はずっと語り続けた。
「失敗作ばかりですけど、でも……
“いつか便利になる発明”を作りたいんです!」
「どんな?」
「例えば……“遠くに声が届く魔導具”とか!」
(……あ、それは俺もほしいやつ)
「いつか完成するよ。ゆっくりでいいからさ」
「……はい!」
その笑顔は、職人というより——
ただ、誰かを助けたいと願う“未来の発明家”だった。
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工房前で少女が深く礼をした。
「絶対……完成させます。
その時は、最初に乗せてくださいね!」
「楽しみにしてるよ」
少女は工具箱を抱えて走っていく。
その背中を見送ったあと、俺はふと笑った。
(この世界にも、“失敗しながら前に進む”やつがいるんだな)
タクシーのエンジンをかけながら、自然と心が軽くなった。




