「勇者カイザー、試練に挑む!」
昼過ぎの王都。
今日は仕事もひと段落したので、北区のタクシースポットで休憩しながら
軽いパンをかじっていた。
すると——
「む? そこの“鉄の魔導車”!!」
……声が濃い。
振り向けば、白マントをひるがえし、
木剣を背負い、胸に謎のエンブレムを貼りつけた青年が立っていた。
勇者(自称)ライトニング・スター・カイザー。
数日前、廃教会で“シャドウドラゴン(パンの匂い)”と戦ってた男だ。
「貴殿! 我を王都南区の《冒険広場》まで運んでほしい!」
「依頼としては普通なんだよな……」
ため息をつきつつ、扉を開けてやる。
カイザーはキラキラした目のまま乗り込み、
今日はやけに静かだった。
(ん? いつもよりテンション低め?)
バックミラーを見ると、彼は手袋を握りしめていた。
「……緊張してるのか?」
「ば、馬鹿な! 我が緊張など……その、少しだけだがな!」
少しは認めるのか。
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冒険広場へ向かう途中、
修理屋の前には巨大なステージ用布、
広場へ向かう道には“冒険体験会開催!”の旗が立っていた。
(ああ、今日は子ども向けのイベントか)
タクシーを停めると、カイザーが神妙な顔で言った。
「……我が、このイベントの“模擬試練の勇者役”に選ばれたのだ」
「へぇ、いいじゃん」
「よくない!!」
突然叫ぶのでびっくりした。
「子どもたちの前に立つなど……その、我はただの……その……」
木剣をぎゅっと握りしめる。
自信がないんだな、こいつ。
「でも、誰かが引き受けなきゃ、中止になってたんじゃないか?」
「…………む。言われてみれば、そうだな」
「それに、お前……人助けは好きだろ?」
カイザーは目を丸くし、ほんの一瞬だけ、照れたように笑った。
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広場に着くと、主催者の青年が駆け寄ってきた。
「来てくれたんですねカイザーさん! 助かります!」
「任せておけ……! 我が全力で挑む!」
子どもたちはすでに集まっており——
「わー! 勇者だ!!」
「剣かっこいい!」
「光の技使えるの!?」
一斉にカイザーの周りへ。
カイザーは一瞬、ひどく戸惑った表情をしたが……
すぐに木剣を掲げ、勇者ポーズ。
「我が名はライトニング・スター・カイザー!!
今日、そなたらの“冒険の試練”を手伝おう!!」
「「うおおおお!!!」」
子どもたち、大歓声。
(あ……完全にハマってるな)
俺は木陰から見守ることにした。
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◆ 試練①:宝箱を守るゴブリン役
カイザーはゴブリン役のスタッフに向かって叫ぶ。
「宝箱を狙うとは卑劣なり! かかってこい!」
木剣はもちろん本気じゃない。
けれど動きは派手で——子どもたちの目はキラキラ。
「勇者さま、がんばれー!!」
カイザーは照れながらも、ゴブリンを“華麗に負けさせる”。
(いや、スタッフさんの協力あっての華麗なんだけど……)
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◆ 試練②:仲間を励ますイベント
泣きそうな子がひとりいた。
剣を持つのが怖いらしい。
カイザーはそっとしゃがみこみ、
勇者モードを抑えた優しい声で言った。
「……怖いのは当然だ。
我も、最初は剣を握る手が震えた」
(お前そうだったのかよ)
「だが、“一歩だけ”でいい。
君が一歩進めば、その先に誰かが立っている。
勇者は、そうして一歩ずつ作られるのだ」
子どもの手が震えなくなった。
「……うん。やってみる」
(いや……お前、カッコよすぎるだろ急に)
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◆ 試練③:ラストは勇者ショー
最後は全員で「魔王(の着ぐるみ)」に挑むイベント。
カイザーは本気で盛り上げる。
「我が光よ! 仲間たちと共に、闇を討ち払え!!」
「オオオオオ!!」
子どもたちが棒を振り上げ、着ぐるみ魔王が倒れる。
広場は大歓声に包まれた。
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イベント終了後。
カイザーはヘトヘトになりつつ俺のタクシーへ来た。
「……修一殿」
「お疲れ」
「……我は……うまくやれただろうか……?」
「最高だったよ」
カイザーは目を見開き——
ぽろり、と涙を落とした。
「子どもに“ほんものの勇者みたい!”と言われたのだ……
我は……我は……!」
木剣を抱きしめながら号泣するカイザー。
(ほんと、いい奴なんだよな……)
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タクシーに乗り込むと、
彼は窓の外を見ながら小さく言った。
「修一殿……また頼めるか?」
「もちろん。
勇者様の送迎なら、いくらでも」
カイザーは照れくさそうに笑った。
「……感謝する」
タクシーはそっと動き出す。
今日もまた、少しだけ誰かの心を軽くした——
そんな気がした。




