はじめての“面接官”
翌朝。
白樺亭を出て交通局へ向かう前、俺は試しにギルド前の待合所へ寄ってみた。
朝からすでに数台の“馬車タクシー”が並び、冒険者を乗せる準備をしている。
その中の一人、若い馬車タクシーの運転手ラグが手を振ってきた。
「修一さーん! 相談があります!」
「どうした?」
「えっと……新人を増やしたいって話、ありましたよね?」
「ああ、タクシー運転手を育てるってやつな」
ラグは腕を組んで唸りながら言った。
「その……俺の友達が“タクシー運転手になりたい”って言ってて……
今日、紹介してもいいですか?」
タクシー運転手になりたい……?
まだ覚悟は決めたはずなのに、いざそう言われると現実味が押し寄せてくる。
(……でも、誰かが動き出したなら、俺も動くべきだ)
「わかった。昼過ぎなら時間空いてる」
「ありがとうございます!!」
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昼過ぎ。
交通局の帰りに、ギルド前に戻ると、
「あ、あの……修一さんですよね!」
緊張でガチガチになった青年が、帽子を握りしめて立っていた。
ギルドで荷運びをしていたという青年で、名前は“ニコ”。
「タクシー運転手……やってみたいんです!」
「理由、聞いてもいいか?」
青年は息を整え、絞り出すように言った。
「修一さんのタクシーに以前乗せてもらった時……
本当に安心したんです」
「安心?」
「はい。
この仕事って、人の命を運ぶ仕事じゃないですか。
歩くより安全で、馬車より揺れなくて……
“この人になら任せられる”って思えたんです」
その言葉は、昨日の老婆が言っていたのと同じだった。
(信頼してもらえるって……こういうことなんだな)
青年はさらに言う。
「俺も、人の役に立ちたいんです。
ただ荷物運ぶだけじゃなくて……
“安心を届ける仕事”がしたい」
胸の奥に何か温かいものが宿った。
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「ニコ。じゃあ質問してもいいか?」
「はい!」
「急かす客をどう扱う?」
「安全第一で、無茶はしません。
その理由をちゃんと説明します」
「酔っ払いが暴れた時は?」
「安全な場所で降ろして、ギルドや近衛に引き渡します!」
「……思ったより、しっかりしてるな」
「道も覚えますし、勉強もします!
修一さんみたいに“信頼される運転手”になりたいんです!」
その目はまっすぐで、嘘がない。
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最後に、最も大事なことを聞いた。
「ニコ……
命を預かる仕事が“怖い”と思ったことは?」
青年は少し視線を落とし、だがはっきり言った。
「怖いです。
でも……だからこそ真剣にやらなきゃいけないんだと思います」
その答えに、俺は静かに頷いた。
「……よし。
一週間、俺のタクシーに同乗しろ。
それを見て判断する」
「ほ、本当ですか!?」
「その代わり、妥協はしないぞ。覚悟しろよ」
「はい!!」
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青年が去ったあと、リーネがいつの間にか背後に立っていた。
「修一さん……もう“タクシーの文化”は動き始めてますよ」
「まだ何もしてないよ」
「いいえ。
“あなたがいるから”人が集まってくるんです」
褒めすぎだと思うが……悪い気はしない。
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夕暮れの空を見ながら、俺は苦笑する。
(……面接官になる日が来るとはな)
タクシーは今日もゆっくり走り出す。




