はじめての“タクシー増車会議”
通話石一号が思った以上に活躍してくれて——
「タクシーを増やすべきだ」という声が、はっきり聞こえるようになってきた。
(そろそろ……本格的に動くべきだな)
朝食をとっていると、白樺亭の女将さんに声をかけられる。
「修一さん、最近ますます忙しそうねぇ」
「まあ……タクシー、足りないって声が増えてて」
「必要とされてるってことだよ。無理はせんでいいよ」
その言葉に少し背中を押され、俺は交通局へ向かった。
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交通局に入ると、局長がすぐに面会してくれた。
「タクシーを増やしたい……だと?」
「はい。今のままだと、どうしても客を取りこぼします」
局長は腕を組み、重々しく言った。
「修一殿。タクシーを増車するというのは大事業だ。
運転手、魔導機関、車両整備、安全基準……課題は山ほどある」
「わかっています」
局長は書類をめくりながら、ふっと笑う。
「……しかし君は、タクシー文化を王都に根づかせた男だ。
その言葉なら無視はできん。——今日から動こう」
そう言って、机の上に分厚い書類を置いた。
「本日より、“タクシー増車検討会議”を発足する!」
「け、検討会議……!」
「修一殿には“特別実務顧問”として参加してもらう!」
肩書きだけで胃が痛い。
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会議室に通されると、
交通局、魔導技師、馬車タクスィー組合、経済官、
そして昨日講習に来ていた御者たちが勢揃いしていた。
完全に“王都の未来を決める会議”の規模だ。
局長は俺に発言を促す。
「修一殿。現場を知るのは君だ。意見を聞かせてほしい」
深呼吸して、俺は話し始める。
「——タクシーってのは、“ただの移動”じゃありません」
皆の視線が集まる。
「人の命を運ぶ仕事です。
事故を起こさないこと、客に安心を与えること……
ただ運転できればいい、ってものじゃない」
会議室が静まり返る。
これは俺が日本で痛いほど学んだことだった。
「だから、増車するなら“安全”を最優先にしてください。
運転手の育成が必要です。気配り、対応、道路の知識……
全部できて、ようやく“お客を乗せていい人”なんです」
ベテラン御者が感心した顔で言った。
「わしら、ただ馬車を操れればいいと思っとった……違うんじゃな」
魔導技師も頷く。
「安全を文化にする……それが重要、ということですね」
局長が即座に判断した。
「よし。“タクシー資格制度”の導入を検討する!」
会議室から拍手が起きた。
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さらに議論は車両の安全装置、魔導機関の検査基準まで及び、
大規模なプロジェクトになっていく。
終了後、昨日の若い御者が駆け寄ってきた。
「修一さん……俺、タクシー運転手を目指していいっすか?」
「おお、もちろん」
「昨日の講習で思ったんです。
ただの“馬車”じゃなくて、人を守る仕事だって。
……かっけえなって」
まっすぐな目に、俺は笑って答えた。
「じゃあ、一緒にこの街を変えていこう」
彼は嬉しそうに手を振って帰っていく。
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宿に戻り、ベッドに腰かけた俺はぽつりと言う。
「……会社、つくるか?」
冗談だったはずの言葉は——
なぜか現実に向けた第一歩のように、妙に重く響いた。




