「試作品、その名も“通話石一号”」
翌日。
仕事を終えて白樺亭に戻る……つもりだったのだが。
(……あいつのことだから、絶対何かやってるな)
サラ・フィロメナ。
昨日知り合った自称天才魔道具師。
あの爆発と勢いを思い出すと、
様子を見に行かないと工房が跡形もなくなっている気がした。
そんな不安に背中を押されるように、俺は職人街へ向かった。
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工房の前に着くと――
バンッ!!!
扉が吹っ飛ぶ勢いで開いた。
「修一ぃぃぃ!! 来たか!! 待っとったぞ!!」
予想通りだった。
昨日と変わらず髪は爆発しているが、
その手には小さな青い石を抱えている。
「できた!! ついにできたぞ!!
世界初、わしの天才が生んだ通信魔道具!!」
「……まさか本当に作ったのか?」
「作った!! 睡眠? しておらん!!」
(それはそれで問題だろ……)
サラは誇らしげに石を掲げた。
「名付けて―― 通話石一号!!」
どうやらネーミングセンスは微妙だ。
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サラは工房の奥から、もう一つ色違いの石を取り出した。
「ほれ、こっちを持て! 離れても話ができるのじゃ!」
「ほんとかよ……」
俺は半信半疑で石を受け取る。
サラは言う。
「じゃあ外に出るんじゃ! 50歩くらいで試せるはずじゃ!」
「50歩って……なんか微妙だな」
「最初から広域通信ができるわけないじゃろ!!
いいから行け!!」
追い出されるように工房を出た。
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路地の入り口まで来て、サラのほうを振り返る。
(……ほんとに聞こえるのか?)
石を軽く握り、口元へ近づける。
「……もしもし?」
その瞬間、石がかすかに光った。
『おおお!! 聞こえたぞ修一!! 聞こえるではないか!!』
(まじで聞こえた!!)
声は少しこもるけど、はっきりとサラだと分かる。
俺は感動して思わず笑った。
「すげえな……本当に喋れるじゃないか」
『ふはは!! わしを誰と心得る!!
天才とはわしのための言葉じゃ!!』
石越しでも十分うるさい。
でも、それが少しだけ頼もしい。
サラは得意げに続けた。
『まだ距離は短いし、魔力の消費も激しい。
改良の余地は山ほどある!』
「でもこれ、タクシーを増やす第一歩になるな」
『うむ! わしもそれを目指しておる!
魔道具で人を助けるのは、わしの夢じゃからな!』
夢、か。
見た目は爆発少女だが、
言葉にはしっかりと職人の情熱がこもっている。
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工房へ戻ると、サラが胸を張っていた。
「試作品じゃからな。壊れても怒るなよ」
「いや、十分すぎるよ」
「むふふ、そうかそうか。
次は“通話石二号”を作る予定じゃ!
もっと遠くまで届くやつをな!!」
「無理すんなよ?」
「失礼な! わしは天才じゃと言うたであろう!」
この調子だとまた徹夜しそうだが、
それでも、心の底から楽しそうだった。
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工房を出たあと、通話石を見つめながら歩く。
(これが……この世界の“最初の通信機”になるのか)
タクシーを増やすための道が、
少しずつ、確実に形になってきている。
胸がわずかに高鳴る。
「……もうちょっと、頑張ってみるか」
夕焼けの空の下、
小さな青い石がほのかに光っていた。




