「魔道具職人との出会い」
夕暮れの王都を歩きながら、俺は昨日からずっと考えていた。
(通信魔道具……この世界の技術で、本当に作れるのか?)
魔道具店の店主は“無理だろう”という顔をしていたが、
どんな分野にも天才はいるはずだ。
タクシーを増やすにしても、ネットワークの構築は必須。
なら、まずは“作れそうな奴”を探す必要がある。
そう思って、今日は王都の職人街に足を運んだ。
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石畳の路地に、金属音と魔力の揺らぎが混じり合う。
鍛冶屋、革工房、ガラス職人……さまざまな匠たちが軒を連ねている。
(魔道具職人ってどこに――)
そう思った瞬間、裏通りのほうから爆音がした。
ドゴォォォォン!!
「うわっ!? なに!?」
煙がもくもくと上がり、通行人が慌てて避けている。
「……あっち、だな」
嫌な予感しかしないが、足はそちらへ向かっていた。
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爆発源と思われる小さな工房に近づくと、扉が勢いよく開いた。
「ぎゃあああっつ!! また失敗したぁぁ!!」
中から出てきたのは――
髪が爆発したみたいに散っている小柄な少女だった。
年齢は……見た目中学生くらい?
白衣のような服は焦げまくっている。
彼女は俺を見ると、ぱちっと目を丸くした。
「ひ、人間……? 冒険者……? 火消しの人……?」
「いや、一般人。……あの、大丈夫?」
「大丈夫なわけないじゃろーー!実験失敗じゃーー!」
うん、明らかに魔道具職人の類だ。
少女は胸を張って宣言した。
「名乗るのが先じゃな!
わしは サラ・フィロメナ!!
王都で唯一無二の天才魔道具師じゃ!!」
天才(自称)ってやつか。
しかし工房の中を見ると、部品の質はやたら良いし、
魔力の残滓も強い。
(見た目はアレだが……腕は本物かもしれないな)
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サラはこちらをじろじろ見てくる。
「で? なんでわしの工房に来たんじゃ?」
「通信できる魔道具を作れる人を探してて」
その瞬間――サラの目が輝いた。
「つ、通信!? “遠くの人と話す”やつか!?」
「そう。それが必要で――」
「か、か、考えておったのじゃ!!
ずっと誰か頼んでこないかと!!
この研究、誰にも理解されんくてな!!」
急にテンションが跳ね上がった。
サラは俺の手を掴んでブンブン振り回す。
「お主!! 顧客第一号じゃ!!
これはもう運命じゃぞ!!」
「う、運命って……いや、痛い痛い!」
「すぐ試作する!! ついて参れ!!」
強引に工房の中へ連れ込まれた。
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狭い工房には、魔力回路が刻まれた石板や、歯車のついた水晶、
不思議な形の金属パーツが散乱している。
サラは机を叩きながら説明した。
「“遠くで光る石”なら作れるんじゃが、
“声を届ける”のは難しいんじゃよ!」
「魔法で声を飛ばすのは?」
「魔法使いの才能がいる!
誰でも使える道具じゃないと意味がない!」
なるほど、この世界の課題はそこか。
サラは顎に手を当て、急に真面目な表情になる。
「じゃが…… 魔力の流れを“振動”に変換できれば、
声の情報を石に乗せられるはずなんじゃ。」
それは――
(この世界なりの“音声伝達”……?)
サラは鼻息荒く続ける。
「問題は、それを“遠くまで飛ばす魔力回線”がまだ作れんこと!」
「回線……ってことは、仕組みは考えてるんだな?」
「当然じゃ! わしは天才じゃからな!」
(あながち間違ってないのかも……)
サラは拳を握りしめて宣言した。
「修一!!
お主のために、世界初の通信魔道具を作ってやる!!」
「え、いやそんな大げさな――」
「タダではないがな!!」
うん、そこはしっかりしてる。
でも――。
(もし本当に通信魔道具ができたら……
タクシーを増やす道が一気に開ける)
サラはすでに机に向かい、何かを書き始めていた。
「ふむ……まずは試作一号じゃな……」
その目は、確かに“職人”のそれだった。
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工房を出たあと、俺は夕空を見上げる。
爆発音と騒がしい天才少女のおかげで、
気分は妙に前向きだった。
「……次の壁、越えられそうだな」
タクシー文化は、まだまだ形になり始めたばかり。
でも、また一歩前へ進めた気がした。
この世界に“本当に便利なタクシー”を作るために。「魔道具職人との出会い」




