初めて魔道具店
タクシー待合所が稼働し始めたことで、王都は以前よりもずっと活気づいていた。
……その一方で。
(やっぱり“通信”がネックなんだよな……)
待合所にいない仲間の位置が分からない。
混雑した場所へ応援を回すにも時間がかかる。
日本なら一瞬で済む連絡が、この世界ではどうにもならない。
(魔道具で……何か解決できるのかな)
そう思った瞬間、「魔道具店」という単語が頭に浮かんだ。
来た当初は生きることに必死で、ろくに見ていなかったが……
そういえば、王都には専門店があったはずだ。
そして今の俺は、
“会社を作るかもしれない”という立場になり始めている。
なら——
もう一歩、世界を知る必要がある。
「……よし。行ってみるか」
足は自然と魔道具店へ向かっていた。
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王都・職人通り。
革、金属、魔石……いろいろな匂いが混ざっている。
しばらく歩くと、古い木製の看板が目に入った。
【魔道具店・ルナライト】
窓には淡い光を放つ石や、浮いている羽ペンが並んでいる。
(うお……ファンタジー感すごいな)
扉を開けると、ちりん、と鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
奥から現れたのは、白髪まじりの店主だった。
落ち着いた目をしていて、扱っている品の価値がそのまま滲み出るような人だ。
「旅の人か? それとも魔術師かね?」
「あ、えっと……タクシー運転手です」
「……新しい職業の人だねぇ」
苦笑された。まあそうだろう。
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店内にはいろんな魔道具が並んでいる。
・光る石——照明用
・温度を一定に保つ箱
・小さな浮遊石
・魔力で動く自動ブロワー(扇風機っぽいもの)
(思ったより“生活魔道具”って多いんだな……)
そして本命——
「店主さん。こういうのって……“遠くに声を届ける”装置ってあります?」
店主は少し驚いた顔をした。
「声を……? 魔術師なら魔法でできるが、道具となると難しい」
「やっぱりか……」
「ただ、最近“魔力を振動に変えて音を伝える”研究をしている変わり者がいてね」
(お、そんなのがあるのか)
「まだ実用には程遠いそうだが……探せば、協力してくれる職人もいるかもしれない」
店主は棚から水晶玉を一つ取り出した。
「これは“光信号石”。他の石と光を共有できるんだ。
声は無理でも、簡易的な“合図”くらいならできる」
「合図……?」
つまり信号機みたいなものか。
「青光→空車、赤光→乗車中……とか?」
「そういう使い方もできるねえ」
店主は笑った。
「この世界の魔道具は、工夫次第で形を変える。
必要な者がいれば、道具は進化するものだよ」
(必要な者……か)
タクシーを増やしたい。
仲間と連携したい。
安全に運行管理をしたい。
全部、この世界にはまだない仕組みだ。
「……魔道具って、面白いですね」
「うんともさ。世界を変える力がある」
その言葉が、妙に胸に残った。
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店を出ると、夕暮れの光が王都の石畳を照らしていた。
(この世界……まだ知らない技術が山ほどあるんだな)
俺はタクシーのドアを開けながら、小さく息を吐く。
「よし。次の壁は“通信”だな」
それを越えられたとき——
タクシー会社の未来は一気に広がる気がした。
エンジンをかけると、いつもの低い音が響く。
異世界タクシーは、まだまだ進化できる。
今日の出会いはきっと、その第一歩だ。




