いつもの道、少しだけ変わった風景
朝のタクシー乗り場は、いつもどおり――いや、少しだけ前より活気づいていた。
「修一さん、おはようございます!」
「今日は北門の荷物運びが多くてね、助かりますよ!」
冒険者たちや商人たちが、朝から元気よく声をかけてくる。
(なんか……顔見知り増えたよなぁ)
王都の住民にも旅人にも文化が定着し始めたせいか、
修一は自然と声をかけられることが多くなった。
悪い気はしない。
――そんな中。
「しゅーいちー!」
どこか間の抜けた声が聞こえると思ったら、
屋根の下でストレッチしている男がいた。
昨日、講習会にいたスピード自慢の若い御者だ。
「お前、なんだその動き」
「いや~最近、客が多いじゃないですか?
乗せる前に体が固まってると、馬にも響くかなって思って!」
「お前がそんな気遣いするようになるとはなぁ」
「俺だって成長してるんです!」
胸を張るその姿は、なんだか微笑ましい。
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今日は王都内を巡る軽い仕事が中心だった。
修一はタクシーをゆっくり走らせながら、街の変化を感じていた。
(本当に、人が増えたな)
行列ができる店、呼び込みの声に活気がある通り、
新しい屋台まで出始めている。
タクシー待合所が原因のすべてとは言わないが、
この街の雰囲気が確実に“前向き”になっているのはわかった。
そこへ、乗合客のひとりがぽつりと漏らした。
「王都って、昔はもっと静かだったんですよ。
最近は、人が笑ってる顔をよく見るようになりました」
修一は、ハンドルを持ったまま小さく頷いた。
(そうか――こういう声が一番嬉しいよな)
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昼過ぎ。
いつもの待合所に戻ると、リーネが書類を持って小走りでやってきた。
「修一さん! 今日の稼働報告、見ますか?
待合所の利用者、昨日より増えてますよ!」
「マジで?」
「はいっ。御者さんたちの満足度も高いですし……
“タクシーの数を増やせないか”って声も出てきています」
「増車か……そういう時期かもしれないな」
なんだか本当に“交通業”みたいな雰囲気になってきた。
リーネは嬉しそうに笑った。
「街の人も、商人も、観光客も助かってます。
修一さん、あなたが来てから王都は変わりましたよ」
「いやいや、俺はただ……」
否定しかけたが、リーネが軽く首を振った。
「あなたが種を蒔いたんですよ。
芽を育てているのは、みんなです」
(……そう言われると、めっちゃ照れるんだけど)
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日が傾き始めた頃、修一はひとりで王都の通りを歩いていた。
荷物を運ぶ冒険者、手を繋いだ親子、笑いながら乗り込む旅人。
その全部が、ほんの少し“豊か”になっている。
(ああ……なんかいいなぁ、こういう日常)
冒険も事件もない、ただの一日。
でも、その「普通」が確かに変わってきている。
王都は今日も賑やかだった。
そして修一は、そんな風景を見ながら
「明日も頑張るか」と、静かに決意を新たにした。




