小さな屋根が動かしたもの
朝の王都は、少しだけ前より賑やかに見えた。
ギルド前には新しく作られた タクシー待合所 が堂々と立ち、屋根が朝陽を反射してきらりと光っている。
木製ベンチ、簡易屋根、そして大きな案内看板。
『タクシー待合所』
と書かれた文字は、初めての人でも迷わないようにと工夫したものだ。
「おお、修一! 本当にできたんだな!」
「依頼の前後で乗りやすいって、地味に助かるんだよ!」
冒険者たちの列は、すでに十人ほどできていた。
御者たちも満足そうだ。
「修一さん、これで客探しに走り回らなくて済むんですよ。
本当にありがたいです!」
「こちらこそ。喜んでもらえるなら何よりだよ」
修一は胸の奥がふっと温かくなるのを感じていた。
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昼頃になると、さらに賑わいが増した。
よそとは違う服装の旅人が、そろって待合所へ駆け寄ってくる。
「ここが……噂のタクシー待合所か!」
「本当に屋根がある! すげぇな王都!」
「旅の計画が立てやすいって評判、嘘じゃなかった!」
明らかに他都市からの観光客だ。
そこへ、交通局からリーネが息を切らせて駆け込んできた。
「修一さん! 他都市の転移装置の掲示板に、
『王都にはタクシー待合所があります』
って案内が貼られたんです!」
「そんなものまで……!」
「旅人が“見てみたい”って目的で王都に来てるみたいですよ!」
観光客たちは屋根を見上げて感動しながら、列に並んでいた。
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数日後、商業区の店主たちが修一に会いに来た。
「修一殿! 今月、売り上げが二割も増えましたぞ!」
「観光客が増えて、うちの宿も満室です!」
「いや、俺は待合所を作っただけで……」
そう言いつつも、街の変化は明らかだった。
人通りが増え、商店は活気づき、食堂には行列ができている。
さらに交通局からの正式な報告が届いた。
「移転装置の利用者が一週間で三割増。
宿屋の利用率も上昇中とのことです」
「三割……?」
修一は思わず報告書を見つめ直した。
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夕暮れ、修一は待合所の前で立ち止まる。
屋根の下には列ができ、馬車タクシーたちは誇らしげに客を乗せていく。
(たった“屋根をつけた待つ場所”を作っただけなのに……)
それだけで、人の流れが変わり、
商業が活性化し、
他都市まで巻き込み、
移転装置の稼働まで増えた。
(……これが、変革の連鎖ってやつか)
大きなことじゃなくても、街は変わる。
その変化の始まりに、自分が関われたことが誇らしかった。
夕暮れの王都は、どこかいつもより輝いて見えた。




