タクシー講習会、やってみた
王都の広場に、何台もの“馬車タクシー”がずらりと並んでいた。
馬車の前には若い御者からベテランのおじさんまで十数人。
その中心で、ギルド職員のリーネが声を張り上げていた。
「はい、みなさん! 本日は“安全で快適な輸送文化をつくる講習会”です! 講師は……こちら、修一さん!」
「講師って……俺かよ」
呼ばれて来たら、本当に講師扱いだった。
馬までこっちを見てる気がする。
(え、俺……教える側なんだよな?)
リーネが微笑んで囁く。
「大丈夫ですよ。あなたならできます。 この世界で“タクシー”を広めた人なんですから」
……そんな立派なつもりはないけど、やるしかない。
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まずは簡単に自己紹介から始めた。
「俺は修一。元々別の世界でタクシー運転手をしてました。 今日は“タクシーとはどうあるべきか”の基本を話します」
すると若い御者が勢いよく手を挙げた。
「タクシーって、やっぱり速く走ればいいんですか? 俺、馬のスピードには自信あるんで!」
スピード自慢タイプか。どこでもいるな。
「速さも大事だけど、一番は“安全”と“安心感”。 怖い乗り物は、どれだけ速くても人気が出ない」
「安心感……か」
「客に“この人になら任せられる”と思わせるのがタクシー。 運転だけじゃなく、話し方、姿勢、待ち方……全部だ」
御者たちは真剣に頷く。
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次は実演。
俺が馬車に乗り込み、深呼吸。
「まず、客が乗ってきたら“笑顔で挨拶”。 無理に笑えなくてもいいけど、感じ悪いとそれだけで不安にさせる」
御者たちは一斉にメモを取り出した。
(え……こんな真面目に?)
「それから、目的地の確認。 “どちらまで?”って丁寧に聞く。
曖昧なら“この道でいいですか?”と確認」
ベテランの御者が感心して言う。
「わしら、客は着けばええと思っておったが……違うんじゃな」
「うん。客は、自分のことを気にしてほしいもんなんだ」
そして付け加える。
「あと、話しかけるタイミング。 疲れてる客には無理に話しかけない。 相談したそうな客には、軽く相槌するだけで安心する」
リーネが笑う。
「あなた、それ普段そのままですよね」
「まあ……そうだな」
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質疑応答も白熱した。
「クレームを受けたら?」
「まず謝る。客は感情を整理したいんだ。
その後で理由を説明すればいい」
「酔った客は?」
「優しく。でも線は引け。暴れたら安全な場所で降ろす」
「泣いてる客は?」
「そっとしておけ。下手に触ると余計こじれる」
みんなが真剣に頷いていた。
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講習会も終盤。
すると御者の一人が手を挙げた。
「修一さん! 俺たち最近、客がつかめなくて困ってるんです。
どこに客がいるのかわからないし、乗ってもらえるかも運だし……」
別の御者も続く。
「売上も上がらなくて……。
人通りの多い道に行っても、空振りが多いんですよ」
(あー……やっぱり来たか、この問題)
異世界の“タクシー文化”はまだ始まったばかり。
効率的な客探しなんて、誰も知らない。
「なるほど……それは確かに難しいよな」
俺は少し考えてから、ふっと思いついた。
「――じゃあ、“タクシー待合所”を作るのはどうだ?」
御者たちがざわつく。
「待合所……?」
「そう。客が“ここに行けば乗れる”って場所を作るんだ。
王都の中心に設けて、そこにタクシーが待機する」
リーネが目を輝かせた。
「それ、すごくいいです! 人が集まる場所に“乗り場”を作れば、お客さんも迷わないし」
ベテラン御者も手を叩く。
「わしらも無駄に走らんで済む……!」
「そういうこと。 客も御者も楽になる。
それが“タクシー乗り場”だ」
講習会は、妙な熱気のまま終了した。
御者とは
馬車を運転する人:
馬車の前部に乗って、馬を操り、馬車を走らせる人のことです。
「馭者」とも書かれます。
馬を取り扱う人:
馬丁を指すこともあります




