俺って、なんでタクシーやっているんだ?
朝の王都は涼しい空気が流れていて、通りには露店の支度をする人たちの声が響いていた。
タクシーのエンジン……いや、魔導機関を起動しながら、ふと思う。
(俺……なんで異世界で、タクシー運転手してるんだ?)
今さらすぎる疑問すぎて、逆にずっと考えなかった。
もともと日本では普通のタクシー運転手だった。
人を乗せて、送り届けて、少しの世間話をして……
それがいつの間にか“異世界版”になっただけ。
だが。
(この世界、魔法も魔物もあるのに……タクシーって何だ?)
思い返せば、冒険者を乗せたり、職員の愚痴を聞いたり、
王族にも呼ばれたりと色々とあったけど、
それにしても普通すぎる。
異世界の割に、普通すぎる。
「……まあ、今日も走るか」
気持ちを切り替えて街道へ出た。
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午前中、乗せたのは市場帰りのおばさんだった。
「運転手さんのタクシー、ほんと便利よねぇ」
「便利って……そうですか?」
「うんうん。歩くより楽だし、荷物も運べるし。
魔導馬車より乗り心地がいいし、酔わないし」
なるほど……この世界の移動手段って、基本は徒歩か馬車。
“タクシー”が存在するだけで十分珍しくて、価値がある。
(そうか……俺が思うより、この仕事は必要とされてるのか)
おばさんを降ろしたあと、少し気持ちが軽くなった。
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昼過ぎ、今度は商談帰りの商人を乗せた。
「あなたのタクシーがいて助かりましたよ。
他の魔導馬車は全部捕まってて」
「タクシー、そんなに需要あるんですか?」
「そりゃあもう。
“決まった場所にいる馬車”ってのがまず珍しい。
呼べば来るなんてなおさら。
王都じゃ新しい文化として噂になってますよ」
新しい文化。
俺のタクシーが?
(え、そんな大層なもんじゃないけど……)
でも、商人は楽しげに続ける。
「しかも、運転手さんは人の話をちゃんと聞くでしょう?
だから“安心できる乗り物”って評判なんです」
……ああ。
そういえば日本でも言われたことがあった。
「話を聞いてくれるタクシーの兄ちゃんは貴重だよ」
「静かにしててくれるのもありがたいよ」
「疲れてるときに優しくしてもらえると助かるよ」
そのまんま、この世界でも同じだった。
異世界だろうが、
人の移動と悩みはどこにでもあるってことか。
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夕方、仕事を終えて白樺亭に戻りながら、ふと呟いた。
(なんで俺は異世界でタクシー運転手やってるのかって?)
理由なんて、もう答えが出ていた。
――この仕事が、俺にとって自然だからだ。
人を目的地へ運び、その途中で少しだけ誰かの気持ちを軽くする。
その積み重ねが好きで、
気づけば、この世界でも同じことをしていた。
白樺亭の扉を開けると、マリアが笑顔で迎えてくれる。
「修一さん、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま」
異世界で“ただいま”を言える場所ができるなんて、
こっちに来た当初は思ってもみなかった。
けど——
(まあ……悪くないな、こういうのも)
そんな気持ちで、今日も一日を終えた。




