真実の行き先
ギルドへ戻る道は、来た時とは違って静かだった。
後部座席では、職員の男が深くうつむき、リーネが静かに寄り添っている。
冒険者二人も気まずそうに座り、車内には沈んだ空気が漂っていた。
俺はあえて何も言わず、ゆっくりとタクシーを走らせた。
ギルドが見えてくると、外はまだ人だかりが残っていて、ざわついていた。
どうやら捜索が続いていたらしい。
タクシーが止まると、ギルドの警備員がこちらへ駆け寄ってくる。
「リーネさん!?」
「……連れてきました。依頼書も、すべて回収済みです」
リーネが落ち着いた声で告げると、職員は震える足で車を降りた。
周囲の視線が一斉に集まる。
逃げた職員は、その場で頭を地面に着ける勢いで深々と下げた。
「……全部……俺が悪いんです……!」
ギルド長が人混みをかき分けて現れた。
いつもの豪快さは影を潜め、顔は厳しい。
「事情は聞く。だがその前に……逃げ回った理由を、ここで話せ」
職員は唇を震わせながら、ゆっくり顔を上げた。
そして——
妹の病気のこと、薬代のこと、
追い詰められて依頼書を盗んだこと、
冒険者に売って金にしようとしたこと。
全部、全部を語った。
誰も騒がなかった。
誰も笑わなかった。
ただ、静かに聞いていた。
ギルド長は長い沈黙を置いたあと、深く息を吐いた。
「……馬鹿者だ。
しかし、妹を思う気持ちは本物だろう。
だがな……困ったときこそ、仲間を頼るべきだった」
職員の目から再び涙がこぼれた。
「……すみません……」
ギルド長は依頼書を受け取り、リーネへ軽く頷いた。
「全て戻った。今回の件は、内部処分と金銭管理の見直しで対処する。
冒険者への流出がなかったのは……タクシーの運転手、君のおかげだ」
思わず背筋が伸びる。
「いやいや……俺はただ、追いかけただけで……」
「いや、逃げられていれば事態はもっと悪くなっていた。
ギルドとして礼を言う」
ギルド長が深く頭を下げると、リーネも続いた。
「本当に……ありがとうございます」
冒険者二人も、手を挙げて笑った。
「お前、いい仕事するじゃん! たまにはギルド勤めしない?」
「運転手さん、あんたのタクシー速くて助かったわ!」
やっと場の空気が和らいだ。
一方で——職員の男はまだ泣きながら頭を下げ続けていた。
ギルド長は静かに近づき、肩に手を置いた。
「この街にはな、支え合う仕組みがある。
困ったら、まず仲間を頼れ。
それを忘れるな」
職員は何度も何度も頷いた。
俺はタクシーのドアに手をかけながら、ふっと息をついた。
(……よかった。
これで全部、終わった)
リーネが近づき、微笑みながら言う。
「運転手さん、本当に助かりました。
次にギルドへ寄るときは、ちゃんとお茶でも出しますね」
「寄るつもりなかったんだけどなぁ……」
「ふふ、もう常連みたいなものですから!」
そう言われると、なんだか悪い気はしない。
タクシーに乗り込み、エンジンをかける。
今日の依頼は、いつもよりずっと重かったけど——
それでも、最後にはちゃんと道が見えた。
《乗客送り届け完了。
今回の評価:特別優良。》
「……だから誰向けだよこの評価システムは」
そうぼやきながら、俺はハンドルを握り直した。
王都の夕暮れが、静かにタクシーの窓を染めていた。




