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【第一部完】『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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逃走者の理由

狭い裏路地は曲がりくねっていて、昼間でも薄暗い。

逃げる職員の姿は、曲がるたびに影に消え、また現れる。


「まだ距離ある! 逃がさないで!」


後部座席の斥候の女が、俺の肩越しに指差す。


「次の角で右! そっちのほうが近道!」


「よし、任せろ!」


俺は急ブレーキと急ハンドルを丁寧につなぎ、車を狭い路地へ滑り込ませた。

この世界の道は本当にデコボコだ。エンジンの唸りが車内に響く。


前方の影がようやく捉えられた。


「いたっ! あいつだ!」


冒険者の男が身を乗り出して叫ぶ。


職員は肩を震わせながら走り続けている。

もう足が限界に近いのがわかる。


「このまま詰めるぞ!」


俺が加速したその瞬間、犯人が突然横道へ飛び込んだ。


「っ、危ねっ!?」


急カーブを強引に曲がる。

車体が軋む音がしたが、まだいける。


横道は家と家の隙間のような細い通りで、車が通れるギリギリの幅だった。


「これ……ぶつけたら請求すごいことになりそう……!」


「今それ言う!? 運転手さん頑張って!!」


叫ぶリーネを横目に、俺は車幅感覚をフル稼働させる。


ついに、職員の背中まで残り十メートル。


「もう逃げられないぞ!」


冒険者の男が準備していたロープを握りしめる。


「よし、あと少しで並走できる!」


そこだった。


職員が突然足をもつれさせ、転んだ。


「うわっ!」


勢いよく地面に倒れ込み、そのまま砂埃の中で動かなくなる。


「停止! みんな降りろ!」


俺が車を止めると同時に、冒険者二人とリーネが飛び出す。


職員は肩で息をしながら、ぐったりとうずくまっていた。


リーネが怒りに震えながら問い詰める。


「……どうして逃げたんです!?

 依頼書なんて盗んで、何をしようとしていたんですか!」


震える手で、職員は胸元から折れた依頼書の束を取り出した。


「……あれは……俺の妹が……」


「妹?」


「病気なんです……薬が……高くて……

 依頼の報酬が高ければ……助けられるかと思って……

 勝手に……持ち出して……冒険者に……売ろうと……」


言葉が途切れ途切れになり、職員は頭を抱えた。


「だけど……やっぱり……怖くなって……どうすれば……よかったのか……」


リーネの表情が揺れる。


「……そんな理由で……。

 でも、それでも……やってはいけないことです」


冒険者の男が腕を組み、ため息をついた。


「ギルドに相談すればよかったんだよ、まったく……」


「……本当にそう思う……」


俺も思わず呟く。


犯人は悪人ではなかった。

ただ、追い詰められた普通の人間だ。


リーネは依頼書をそっと回収し、静かに告げる。


「事情はギルドでも聞きます。

 けれど……逃げるのはもう終わりです」


職員は涙をこぼしながら、うなずいた。


「……はい……」


リーネがこちらを見る。


「運転手さん……最後まで送ってもらえますか?」


「もちろん」


俺は小さく頷き、ゆっくりと車のエンジンをかけた。


この先は、もう逃走劇ではない。

ただ「戻るだけ」だ。


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