ギルド前のざわめき
ギルドの通りに車を走らせていると、いつもは冒険者がぼんやり昼飯を食べている広場に妙な人だかりができているのが見えた。
ただの喧嘩か、酔っ払いの騒ぎか……そう思って減速すると、群衆の前に見覚えのある赤髪が揺れた。
「あれ、リーネさん?」
俺が声をかけると、リーネが振り返り、ほっとしたような、でもどこか焦ったような表情で駆け寄ってきた。
「あなた! ちょうどいいところに……!」
「え、なに、またギルドでトラブルですか?」
「“また”って言わないでください……! でも、まぁ、そうです。依頼書の一部が盗まれました。
職員のひとりが持ち出して逃げたんですが……追いつけなくて」
「職員が? なんでまた……」
「理由はまだ不明です。でも、盗まれた依頼は未公開の危険度Sに近い内容で、悪用されたら誰かが怪我をします」
リーネが言い終わらぬうちに、群衆がざわっと揺れた。
視線の先を見ると、薄い青の制服を着た若い男――見覚えがある。以前、リーネに書類を届けていたギルド職員だ。
その男が、群衆を避けながら路地へと走りだす。
「あれ、犯人じゃないですか!」
「えっ、どこです!?」
俺は指をさす。
「ほら、あの青い制服の。たぶんあの人!」
「っ……! 逃がすわけにはいきません! あなた、車、出せますか!?」
「もちろん! 乗って!」
背後で、二人の冒険者が「手伝うぜ!」と叫びながら駆け寄ってくる。
中型の剣を背負った男と、軽装の斥候らしき女だ。
「リーネちゃんだけじゃ危ないだろ。俺らも行く!」
「運転手さん、乗せて! 追いつけない!」
「了解! 全員乗れ!」
俺は車のロックを外し、追跡モード(ただの急発進)に切り替える。
全員が乗り込んだのを確認し、アクセルを踏み込む。
冒険者の女が後部座席から身を乗り出して叫ぶ。
「いたっ! あの角を左に曲がった!」
「任せろ!」
車体を滑らせるように曲がり、路地へ入り込む。
遠くに、青い背中がちらりと揺れた。
リーネが身を乗り出し、声を荒げる。
「止まりなさーーい!! ギルド職員としての自覚はないのですかーーっ!」
届くはずもないが、犯人は振り返り、さらに速度を上げる。
「くっ……このままじゃ見失う!」
「大丈夫。まだ距離はある。追いつくぞ!」
俺は深く息を吸い、ハンドルを切った。
ギルド職員の逃走劇は、まだ始まったばかりだ。




