自称勇者、光臨す(※ただし雑魚)
昼下がりの王都。
南門近くのタクシースポットに停めて、俺はのんびり昼食を食べていた。
すると——
「そこの魔導鉄獣よ!!」
いきなり叫び声。
見ると、ひとりの青年が両手を広げて仁王立ちしていた。
白マント、木彫りの剣、やたらキラキラした自作エンブレム。
完全に中二病全開だ。
「我が名は——勇者ライトニング・スター・カイザー!!」
(名前が濃い!!)
俺がぽかんとしていると、青年は胸をドンと叩いた。
「闇の波動が王都に満ちている……! 我はこれより“魔王の影”を追う!!
貴殿の魔導車で、北街の廃教会まで運んでほしい!」
「……タクシー利用はまともで助かったわ」
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青年は満足げに後部座席へ乗り込む。
それだけでも面白いのに、乗車直後、
「おお……この鉄の箱庭、魔力の脈動が渦を巻いておる……!」
(ただのエンジン音なんだけどな)
《乗客のテンション、平均値の220%を記録しました》
「余計な分析するな!!」
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走り出すと、青年は窓の外を真剣な顔で見つめている。
「……この気配……魔物が潜んでおる……!」
「いやただのパン屋の匂いだと思う」
「否! あれは“焦がし影竜”の匂いだ!」
(パン屋に謝れ)
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北街へ向かう途中、露店の前に腰が抜けたおばあさんが座り込んでいた。
「おや? 大丈夫ですか?」
俺が声をかけようとすると——
青年が叫んだ。
「まさか! 魔王の呪いにやられたか!?」
「いや、荷物重くて疲れただけだろ」
「任せろ! 我が浄化の力で癒してくれる!!」
青年は勢いよく木剣を掲げた。
「“光よ、我が手に宿り——”」
パァン!!
木剣が手から滑って地面に落ちた。
(たぶん呪文より握力の問題)
だが青年はすぐにおばあさんの下へしゃがみこみ、
「……立てるか? 腰が痛むなら、荷を持つぞ」
と、素の声で言った。
おばあさんは驚きつつも微笑んだ。
「まぁ、ありがとうねぇ……」
青年は荷物を軽々と持ち上げて、台車まで運んであげた。
(あ……いい奴なんだ、根は)
戻ってくるときだけまた勇者モードに戻っていたけど。
「ふっ……“闇の欠片(腰痛)”を浄化しておいたぞ」
「完全に物理だったけどな」
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タクシーは廃教会に到着し、青年は勇者ポーズで降りた。
「運転手よ。汝の協力、感謝する!」
「料金、銀貨四枚ね」
「むっ……魔王討伐の協力者には減額など……」
「いや普通に払って」
渋々銀貨を渡してくる青年。
そのあと、唐突に真顔で言った。
「……我のこと、笑ったろう?」
「まぁ……ちょっとね。名前が長いし」
青年は照れたように目線をそらした。
「……だが、誰かの役に立ちたいという気持ちだけは本物だ」
「その気持ちがあれば十分だろ」
青年は目を丸くし——
その直後、めちゃくちゃ良い笑顔を見せた。
「貴殿、良き理解者だな! 次も呼ぶぞ!!」
「お手柔らかに頼むわ」
青年はマントをばさっと翻し、廃教会へ突入していった。
……中から「コウモリィ!?」「ひぃぃ!!」みたいな声が聞こえたが、
まぁ、あいつならきっと大丈夫だろう(多分)。
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《乗客満足度:★★★★★
コメント: “また乗りたい!”
※叫び声により振動センサーが誤作動しました》
「だから余計な機能いらないんだって」
俺は苦笑しながら、再びエンジンをかけた。
次はどんな客が来るか——
異世界タクシーは今日も元気に走り出す。




