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【第一部完】『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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白樺亭の昼、始まる

白樺亭に“昼食堂”の看板がかかった日、俺は少し早めに宿へ戻った。


玄関前には、マリアが緊張とワクワクを混ぜた顔で立っていた。


「修一さん! 今日、オークさん……すごいですよ!」


「もう仕込みしてるのか?」


「はい! 朝から一度も座ってません!」


その言葉に苦笑しつつ厨房を覗くと――


大鍋に向かって仁王立ちのオークがいた。


筋骨隆々なのに、包丁を握る手つきは驚くほど丁寧で、

鍋をかき回す腕は無駄がなく、

昨日までの“戦士感”が消えている。


「おーい、調子はどうだ?」


声をかけると、オークはぐるんと振り返り、満面の笑みを見せた。


「運転手よ!! 見てくれ! この野菜! 全部刻んだ!!」


「ま、まぁ……その山盛りはすごいけどさ……」


厨房のテーブルの上には、刻まれた野菜が大皿に山のように積まれている。


(いや、これ、昼だけじゃ使いきれないんじゃ……?)


と突っ込みかけたが、まぁ熱意は大事だ。


女将さんもエプロン姿で、どこか誇らしげに立っていた。


「すごいねぇ……あんたがこんな良い人材を連れてくるなんて思わなかったよ」


「褒めてるんですかそれ?」


「もちろんさ。……さて、開店時間だ」


 



初めての「昼食堂」は、最初こそ客足がまばらだった。


けれど――


一人目の客が、カウンターに座り、

オークが作った野菜と肉の煮込みを食べた瞬間。


「うまっ!」


その一言で、空気が変わった。


「なんだあれ」「いい匂いがするな」と通りの人が入ってくる。


さらにもう一人、もう一人と客が来た。


オークは厨房で汗を飛ばしながら鍋を振る。


「次の皿、行くぞ!!」


マリアが元気よく皿を運ぶ。


「はーい! 一番テーブル、煮込み追加です!」


女将さんは常連との会話で笑顔を見せ、

俺はその光景を入り口付近で眺めながら、

胸の奥がじわっと熱くなるのを感じていた。


(……すげぇ。ほんとに、動き出したんだな)


 


そんな中、一人の男が入ってきた。


背中に大きな荷を背負い、汗と土で服は汚れ、

頬はこけていて、見るからに疲れ切っている。


マリアが慌てて近づいた。


「だ、大丈夫ですか!? お席どうぞ!」


男は座った瞬間、テーブルに手をついて息をついた。


「……すまん。歩き疲れて……どこでもいい、なんか食わせてくれ……」


「オークさん、煮込み一つ追加!」


「うむ!!」


出された料理を一口食べた男の目が変わった。


「……これ……うまい……!」


その声は、さっきの誰よりも深かった。


涙が落ちそうなくらいの顔で、

男はゆっくり、ゆっくり噛みしめる。


「……久しぶりに……“温かい飯”を食った気がする……」


(……ああ、こういう時のための店なんだよな)


オークも、その言葉を聞いてにやりと笑う。


「もっと盛るか?」


「……頼む」


 



昼過ぎ。


片づけを終えたオークは、巨大な手で汗を拭いながら言った。


「……運転手よ。わし、今日……初めてわかった」


「何を?」


「料理は……“人の心を戻す”ことができるのだな」


その言葉は、彼自身を落ち着かせるようでもあった。


マリアと女将さんも並んで立つ。


「修一さん、本当にありがとうねぇ」


「修一さんの提案がなかったら、今日のこれは無かったですよ!」


俺は照れくさくて頭をかいた。


「いや……俺はちょっと口を出しただけで……」


でも胸の奥で、温かいものが確かに広がる。


(恩返しって、こういう風に少しずつでいいんだよな)


オークがぐいっと胸を張る。


「明日も来るぞ!! 昼食堂はわしに任せろ!!」


「はいはい、無理するなよー!」


白樺亭の昼が、今日から始まった。


小さな一歩だけど、確かに世界が動き出した――

そんな日だった。

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