駆け出し冒険者ジン、初乗車
王都・エルネアの午後。
冒険者ギルドの前をゆっくり流していると、
入口付近で一人の青年がふらふらと立っていた。
「おーい……タクシー……止まれ……!」
ひどく弱々しい声で、手を振っている。
その青年は、
革鎧はボロボロ、髪はちょっと焦げている。
恐らく、初めて見るタイプの“駆け出し冒険者”だ。
「乗るのか?」
「の、乗ります……ギルドの医務室まで……」
ギルド前からギルド医務室まで乗るヤツ、初めて見た。
青年は乗り込むと、シートに倒れこむように座った。
「……はぁ、生きて帰れて良かった……」
「大丈夫か? 魔物にやられたのか」
「いや……依頼内容が“スライム探索”だったんですけど……
思った以上にスライムって……危険なんですね……」
「ああ……危険なスライムもいるからな」
(1話のスライムを思い出す。あの子は優しいタイプだった。)
「しかもこの前は“令嬢護衛”に挑戦したんですが……
なんというか……悪徳? でした……」
「……まあ、色々あるよな」
(2話の悪徳令嬢の顔が脳裏をよぎる。)
「その後オークの護衛も受けたんですが……
やっぱオークって、筋力が桁違いで……振り回されて……」
(3話のオークのパワーを思い出す。あれは確かに強い。)
「なるほどな。お前、駆け出しで色々挑戦してるんだな」
「いや、その……挑戦しないと生き残れないんですよ。
ギルドの登録料、もう払ったし……後には引けなくて」
青年の手は、震えていた。
「名前は?」
「ジン。三日前に冒険者になったばかりです……!」
三日前……
スライム→悪徳令嬢→オーク……
毎日なにかしらに振り回されていたわけか。
「で、今日はどうした」
「裏通りで……変な黒いローブの人たちを見ちゃって……
目が合った瞬間、全力で逃げました……」
「黒いローブ?」
それはただの街のならず者かもしれない。
だがジンは続けた。
「魔法陣みたいなのを描いてて……
なんか、魔族みたいな雰囲気で……」
カーナビがピコンと光る。
《新規情報を検知:王都裏通りの謎のローブ集団》
《危険度:未解析》
——なんだその危険アラート。
「そいつら、見られたことに気付いたのか、
“逃げたぞ”って声が聞こえて……
死ぬ気でギルドまで走りました……!」
「まあ……生きてるならよかったな」
「はい……修一さん……?」
「名札に書いてあるだろ」
「あ、本当だ……
修一さんって……なんか、落ち着く声してますね……」
「初対面で何言ってるんだお前は」
「いや、もう限界で……生きた心地しなくて……
ちょっとでも安心したくて……」
そう言いながら、ジンは少しだけ笑う。
「いつか……強くなれるかな……」
「なれるさ」
即答した。
ジンは目を丸くする。
「お前、負けるのが怖いってだけで、
冒険は全部ちゃんとこなしてんだろ」
「全部……失敗しましたけど……」
「でも生きて帰ってきてる。
生きてるってことは、次に挑戦できるってことだ」
ジンは、ぽかんと俺を見つめた。
「……なんか、心に来ますね……
運転手さんなのに……冒険者みたいなこと言う……」
「お前が勝手に冒険者にしようとするな」
タクシーはギルド医務室に到着する。
「ほら、行ってこい」
「……ありがとう、修一さん。
俺、また……乗ってもいいですか?」
「好きにしろ」
「絶対また乗ります! 今度はもうちょっと……
胸張って!」
そう言って走っていく背中を、俺は見送った。
カーナビが光る。
《新規常連候補を登録しますか?》
「……知らねえよ、勝手にやれ」
満足度は——星4つだった。




