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【第一部完】『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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「白樺亭を救いたい」

白樺亭に泊まり始めてから、もうずいぶん経つ。

女将さんの優しさも、マリアの明るさも、俺にとってはもう生活の一部みたいなものになっていた。


――だからこそ、あの借金取りの姿が頭から離れなかった。


(……恩返し、少しずつでもやらないとな)


そう決意して迎えた翌朝。

俺は宿を出る前に、女将さんへさりげなく聞いてみた。


「その……最近、宿の入りはどうなんです?」


女将さんは苦笑いを浮かべて肩をすくめた。


「昔より減ったわねぇ。旅人が来なくなってねぇ……」


やっぱり、苦しいのは事実らしい。

でも、昨日の会話の感じから見て、借金についてはこちらから聞かない方が良さそうだ。


(よし、俺にできることをやるか)


 




仕事に出ると、運よく“宿を探している”というお客が来た。


「どこか落ち着いた宿ありませんかね? 市内は初めてで」


よし、これだ。


「静かでご飯が美味くて、料金も良心的な宿がありますよ。

白樺亭ってところですけど」


「いいですね、そこ連れてってください!」


よし一件。


その後、城下町へ来ていた書類持ちの役所の職員も、

「宿が見つからなくて……」と困っていた。


「じゃあ、白樺亭ってところが――」


「そこ、評判いいですね! 行ってみます!」


二件。


最後に乗せたのは、地方から来た商隊の手伝いをしている青年だった。


「とにかく安くて静かなとこ……寝たいんです……」


「白樺亭がおすすめです」


「お願いします……」


三件。

よし、今日はこれくらいで十分だろう。


毎回こんなタイミングよく宿探しの客が来るわけじゃない。

だから、紹介だけに頼るのは安定しない。


(別の方法も考えないとな……)


 




夕方、宿へ戻ると、ちょうど女将さんが帳簿にため息をついていた。


「今日、お客増えてましたよね?」


「あんたが紹介してくれたんだろう? ありがとうねぇ」


そう言われると、やっぱり嬉しい。


でも、今日のやつは偶然が多い。継続性がない。


そこで俺は、ちょっと勇気を出して切り出した。


「女将さん。

昼間は空いてる部屋、多いですよね?」


「まあねぇ。昼は泊まり客いないし……」


「じゃあ、昼間は“食堂”にしてみるのはどうです?

宿屋って夜のための商売だけど、昼の時間を使えれば収入増えますよ」


女将さんは驚いた顔をした。


「食堂……?」


「白樺亭、ご飯も美味いし。

旅の途中の人や商人が気軽に寄れたら、そこそこ来るんじゃないですか?」


マリアがぱっと目を輝かせた。


「いいじゃないですか! あたし、お手伝いします!」


「でも料理人が――」


「それなら紹介できますよ」


俺は思い出した。

以前タクシーに乗せた“料理修行中のオーク”のことを。


あのオークは筋骨隆々なのに不器用で、

「ワリは……うまい料理を作りたいだけなんだ……」

と涙目で語っていた、料理に本気なやつだ。


「腕は確かです。

強面ですけど、味は保証します」


女将さんはしばらく考え――そして、静かに頷いた。


「……やってみようかね。

昼の間だけの食堂なら、無理もないし」


マリアは拍手して喜んだ。


「やった!! 修一さん、すごい!!」


(よかった……少しは力になれたか)


 


その夜、俺は久しぶりに疲労感より“達成感”を感じながらベッドに倒れた。


白樺亭を立て直すのは俺一人じゃ無理だけど――

それでも、今日みたいに少しずつなら、恩返しはできるはずだ。


(……よし、明日もできることをやろう)


そんな気持ちで、静かに目を閉じた。

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