表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完】『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/69

「令嬢、焼き鳥を賭けて勝負を挑む」

昼下がりの王都。

客待ちで大通りに車を停めていると――


「そこのタクシー! 止まりなさい!!」


また聞き覚えのある声だ。


青いドレス、気高い立ち姿、そして視線だけで人を威圧できる気位の高さ。

だが俺は知っている。

その実態は――


(焼き鳥に弱すぎる令嬢)


「……どうぞ、お嬢様」


令嬢はツンと顎を上げたまま乗り込む。


「今日は、たまたま近くを歩いていただけですわ。

別に、あなたのタクシーを狙っていたわけではなくてよ?」


「はいはい」


《心拍数:平常より20%上昇

 推測:ツンデレモード中》


「その分析やめろ」


 



---


走り出してすぐ、令嬢は視線をそらしたまま言った。


「……その、前回……ハンカチ、忘れていきましたわよね」


「ああ。ちゃんと保管してあります」


「で、では後で返してもらいますわ。

け、決してあなたに“言い訳の余地を与えた”わけではなくてよ?」


「誰もそんなこと言ってないけど」


 


令嬢は咳払いをして姿勢を正した。


「今日は市西区の貴族街へ。

お茶会があるのですけれど、その前に……」


ちらっ、と横目。


「……途中で屋台の前、通りますわよね?」


きた。


「寄っていきます?」


「よ、寄らなくてもよくってよ!

ただ、あなたが“お腹がすいた”とでもいうのなら……少しだけ、ね?」


「じゃあ寄りましょう」


「早いですわ!!」


 



---


屋台に寄り、タレ一本を買って戻る。


令嬢の目が、うっかりキラキラしている。


「……い、いただきますわ」


ぱくっ。


「…………………っふ」


「声!!」


「ち、違いますの! これは……武器で……!」


今日も変わらず焼き鳥に弱い。


だが、食べ終わった令嬢は、いつもの自信家の表情に戻った。


「さて、運転手。

わたくし……あなたに勝負を申し込みますわ」


「勝負?」


「ええ。

この後、貴族街に着いたら――

“誰が最も優雅に馬車を降りられるか”という嫌味ったらしい遊びがあるのです」


(絶対めんどくさいやつだ)


「わたくし、その勝負に勝ちたいのですわ」


「それと俺がどう関係あるんですか」


「決まってます。

あなたの運転が良ければ、わたくしの降り方も美しくなるでしょう!」


(なんだその理論)


令嬢は胸を張って続けた。


「もし勝てたら……あなたには“特別なごほうび”をあげますわ」


「……焼き鳥奢り?」


「違いますわ!! ……違いませんけれど!!!」


 



---


貴族街に入ると、令嬢は緊張した声を出した。


「……あ、あそこです。

あの噴水前にライバルがいますわ」


別の高級馬車が停まっていて、ドレス姿の令嬢たちが集まっている。


令嬢は深呼吸。


「運転手……頼みますわ。

最高の停車を」


「了解」


俺はゆっくりと速度を落とし、

滑るように車体を寄せ――


キュッ、と美しい角度で停止。


令嬢は目を見開いた。


「こ、これは……っ!」


「行ってらっしゃい」


令嬢はドレスを翻し、優雅に降り立った。


貴族たちがざわめく。


「あの降り方……」

「なんて美しい立ち姿……!」


その声を受け、彼女は小さくガッツポーズしていた。

(気づかれないように、手の下で)


 



---


しばらく待っていると、令嬢が戻ってきた。


顔が赤く、でもどこか誇らしげ。


「……勝ちましたわ」


「おめでとうございます」


「ええ。

約束通り、ごほうび差し上げますわ」


令嬢は小袋を差し出す。


「これは?」


「焼き鳥の……“回数券”ですわ!」


「強すぎるごほうびだな!」


 


乗車する前、令嬢はふと真顔になった。


「……運転手。

最近、王都のギルド付近で“妙な男”を見かけません?」


「妙な男?」


「ええ。

老齢で、目が鋭くて……

わたくしをじっと観察してくるのです」


突然の不穏な話。


「……気をつけてください」


「あなたも、ですわ。

どうにも……“誰かを探している目”でしたもの」


焼き鳥令嬢の笑顔に少しだけ影が差した。


その影が、次の騒動の前兆だとも知らずに――

俺は回数券を握りしめて車を出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ