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【第一部完】『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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31/69

風がいなくても、街は回る

ジンと別れた翌日。

 湖での出来事がずっと胸に残っていたせいか、俺はいつもより少しだけ静かな気分でタクシーを走らせていた。


「……さて。今日は普通の仕事だといいけどな」


 昨日が濃すぎた。

 魔王、ジン、オーク料理人……

 最近の俺の客層、完全に“普通”から外れている。


 そんなことを考えていると、道ばたで手を振る影があった。


 ……あれ?

 なんか、見覚えのある――


「お兄さん! 今日は、空いてますか!?」


 自称“トップ商人見習い”の少年レオだった。


「あれ、学校は?」


「今日はお手伝いの日なんです! 市場に荷物を届けるんで、乗せてください!」


「市場なら近いじゃん。歩けよ」


「えっ……歩くと疲れます」


「お前、将来絶対太るぞ」


「太りません!」


 言い返しながらもにこにこ笑っている。

 ああ、こういうのでいいんだよ。

 こういう普通の客が一番落ち着く。



---


 レオは荷物を抱えたまま後部座席でそわそわしていた。


「お兄さん……顔疲れてます?」


「昨日ちょっとな。湖で風の精霊の友達と話し込んでさ」


「え、風の精霊!? 友達!? お兄さん、いつの間にそんなハイレベルな交友を……!」


「いや、あいつは……まあ、友達でいいのかな」


 言葉にした途端、胸に温かさが広がった。


 レオは目を輝かせながら身を乗り出した。


「精霊って本当にいるんだ……!

 会ってみたいなぁ……話したら、どんな感じですか?」


「フワッとしてて、自由で……でも、寂しがり屋なんだよな」


「寂しがり屋の精霊……かわいいですね!」


「まあ、可愛かったよ」


 レオはにやにやしながら俺を見る。


「お兄さん、もしかしなくても……精霊さんのこと、好きなんじゃ?」


「おい待て。どんな解釈だよ」


「ふふーん。お兄さんにもそういう相手が……」


「ちげぇよ!!」


 こういうくだらない会話が、妙に落ち着く。



---


 市場に着くと、レオは荷物を受け取った店主に頭を下げられていた。


「毎度ありがとよ、坊主。……って、タクシーで来たのか?」


「はい! 足が疲れると商人は務まらないらしいんです!」


「そんなわけあるか!」


 店主が笑い、レオも笑い、つられて俺も笑った。


 ……ああ、こういう日もちゃんとあるんだな。



---


 レオは降り際、ぽつりと聞いてきた。


「お兄さん。精霊の友達って……また会えるんですか?」


「さぁな。でも、風ってのは……

 呼べばいつか吹くもんだよ」


「お兄さん、なんか今日カッコいい」


「普段は違うみたいに言うな」


「違いますよ? いつもかっこ……いや、時々!」


「今の取り消せ!」


 追いかけようとしたら、レオは笑いながら逃げていった。



---


 車に戻ると、風が窓を軽く揺らした。


 ひゅう――


 まるで「ちゃんといるぞ」と言うみたいに。


「……そっか。

 寂しくなったら、また乗りに来いよ」


 俺はそう呟いて、エンジンをかけた。


 今日の街はいつもどおりで。

 それがなんだか、やけにありがたかった。


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