オーク戦士、進路に迷う
悪徳令嬢(※実際は誤解)の涙を湖に預けて送り出したあと、俺は王都の北門付近で車を停めて休んでいた。
そろそろ夕方。
異世界二日目にして、軽く仕事に慣れてきてしまった自分が怖い。
「スライム乗せて、令嬢乗せて……。今日はもう、変な客来ないだろ」
そう呟いた瞬間——。
ドスンッ!!!
車体が揺れた。
(え、今なんかぶつかった!?)
「す、すまぬ!! そなたが乗り物の主か!?」
車の後ろ、巨大な影。
筋肉と牙でできたような、でっかい緑色の男——オークの戦士だった。
身長は二メートル超。
鎧はボロだが、何故か瞳だけは妙に澄んでいる。
「え、えっと……タクシーですけど……」
「タクシー……というのか。乗ってもよいか?」
「もちろん。ただ、壊すのだけは勘弁してくださいね」
「心得た!!」
オークはドアを開けようとして固まった。
「……小さい」
「ですよね」
結局、後部座席のシートを目一杯下げ、ぎゅうぎゅう詰めになりながら乗り込んできた。
《重量オーバーですが、一時的に魔力補強します》
「お前ほんと優秀だな……」
「うむ! 何やらすごい馬車だ!!」
車内は、もうオークの肉体だけで満杯だ。
「えっと、行き先は?」
「……決まっておらん」
「え?」
オークは大きく息を吐いた。
「わし、実は……“強くなりたいのか、暮らしを安定させたいのか”……道に迷っておる」
(なるほど、将来の進路相談パターンか)
オークは続けた。
「オーク族は、皆戦う。誇りでもある。
じゃが……正直、戦は得意ではない。
昨日も模擬戦で若い者に負けてしまった……」
「なるほど」
「一方で、わしには“料理の才能”があると皆に言われる。
だが、それを極めれば……戦士としての誇りを捨てることになる……」
繊細すぎる悩みと大柄な体格のギャップがすごい。
「……どっちを選べばよいのかわからん……。だから、気がつけばここまで歩いてきてしまった」
落ち込む巨体。
このサイズの生き物がしょんぼりしていると、妙に罪悪感がある。
「オークさん」
「む?」
「アンタ、なんで料理が好きなんだ?」
「……うまいものを作れば、皆が笑う。
戦で勝っても、誰も笑わぬ。
それが……なんだか、寂しくてな」
(あー……もう完全に“向いてる方が答え”じゃん)
「じゃあさ。料理で生きる道、選んでみたら?」
「……いいのか? オークが……料理人など……」
「スライムだって頑張って、自分の居場所探してたぞ。
令嬢さんだって、誤解を解こうと歩き出した。
種族とか誇りとか関係なく、“やりたいほう”を選べばいい」
オークはしばらく黙ったあと——。
「……わし……料理をしたい!!」
「じゃあ店を探すか。弟子を募集してる食堂があれば紹介してやるよ」
その瞬間、カーナビがピカッと光った。
《推奨:王都南区〈大鍋食堂〉
料理人見習い募集中》
「お前、何でも知ってるな……」
「おお!! そこへ!!」
タクシーは巨体の重みをこらえながら街道を走り、
南区の食堂に到着した。
店の前に出ると、オークは深々と頭を下げた。
「運転手よ。感謝する!
わし……ようやく、自分の道を選べる!」
「頑張れよ。うまい飯、いつか食わせてくれ」
オークは満面の笑みで店へ向かっていった。
《乗客を送り届けました。
満足度:★★★★★
料金:銀貨8枚》
「……また満足度つけてる」
苦笑しながらエンジンを切る。
「さて……次の客は、どんな悩みを持ってるんだろうな」
異世界タクシー、三日目の夜が静かに始まった。




