表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完】『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/69

老騎士とタクシーと、一本の道

昼下がり。

 タクシーを流していると、街の門の近くで見慣れない甲冑姿が手を上げた。


「乗合馬車……いや、これは“タクシー”と言うのだったな?」


「どうぞ、乗れますよ」


 乗り込んできたのは、白髪に筋張った腕を持つ“老騎士”だった。

 鎧は手入れされているが、歩き疲れた様子がにじむ。


「どちらまで?」


「北の丘陵地帯まで頼みたい。……昔の弟子がおるのだ」


「弟子さんのところへ?」


「うむ。結婚したと報せが入ってな。祝いを届けに行く」


 渋い。

 それだけで“良い話の匂い”がする。


 



---


 しばらく走ると、老騎士が外を眺めながら言った。


「……便利なものだな、タクシーというのは」


「馬を使わない移動手段ですからね」


「昔は何里も歩いたものだ。

 道中で魔獣に襲われたことなど、数え切れぬ」


「今は少し変わりましたね」


「変わった。だが……悪くない」


 老騎士は少し目を細めた。


「わしの時代は、“力がすべて”と言われたものだ。

 だが、今は違う。

 便利な道具があれば、老いぼれでもこうして弟子を祝ってやれる」


 その言葉に、妙に胸が温かくなる。


 



---


 丘陵地帯が近づくと、老騎士は懐から布袋を出した。


「……運転手よ。頼みがある」


「何でしょう?」


「弟子の家へ向かう途中に、一本だけ古い街道がある。

 わしは……ここをどうしても通りたい」


「思い出の場所ですか?」


 老騎士は静かに頷く。


「若い頃、弟子と共に“どちらが早く頂上へ着くか”と競い合った道だ。

 あやつは小僧で、わしより先に走り抜いた。

 ……悔しかったが、嬉しかった」


 その声は、父親のように優しかった。


「なら、行きましょう。迂回にはなりますが」


「構わぬ。礼は弾む」


 



---


 古い街道は、いまは誰も通らないらしく草が揺れている。


 タクシーがゆっくりと前へ進むと、老騎士は懐かしそうに窓へ手を当てた。


「……老いは、あっという間じゃな」


「でも弟子さん、きっと喜びますよ」


「うむ……。

 だが、弟子の晴れ姿を見る前に、わしの足がもつかどうか……」


「安心してください。家までちゃんと送ります」


 老騎士は小さく笑った。


「タクシーとは……良いものだな」



---


 やがて家に到着すると、庭で作業していた若い夫婦が顔を上げた。


「師匠!? 本当に……来てくれたのですか!」


「当たり前だ。……祝福を伝えねばな」


 弟子は目を潤ませながら老騎士に駆け寄り、

 老騎士はそっと手を置いた。


「幸せになれ。……わしの、誇りの弟子よ」


 その背中は、年老いても尚、大きかった。


 



---


 戻ってくると、老騎士がそっと袋を置いた。


「運賃のほか、少しばかり礼をな。

 思い出に付き合ってくれて感謝する」


「こちらこそ、いい道を走れました」


 老騎士は深く頷き、弟子夫婦の待つ家へ戻っていった。


 静かな風だけが車内を抜ける。


「……こういう日も悪くないな」


 エンジンをかけ、俺はまた街道へ戻った。


老騎士とタクシーと、一本の道

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ