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【第一部完】『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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26/69

魔王、まさかの“アレ”に弱かった

翌朝。

 俺は魔力タクシーを魔王城前に停めて、しばらく待っていた。


 ……来ない。


「遅いな。珍しい」


 昨日の“深部の脈動”の話が頭をよぎり、少しだけ胸がざわつく。


 その時。


「修一ぃぃぃ……っ!!」


 門の影から魔王が転がるように出てきた。

 なぜか目が赤い。


「ど、どうしたんですか!? 何かあったんです!?」


「乗る!! 早く発進じゃ!!」


 言われるまま急いで乗せる。

 魔王はシートに飛び込み、ドアをバタンと閉めた。


「な、何から逃げてるんです!?」


「アレじゃ……!!」


「アレって……何!?」


 魔王は震えながら左手を俺に見せた。


 指先に――黄色い花びらがついている。


「……花、ですね?」


「そう!! “魔王花粉症”じゃ!!!」


「全然勇ましくない!!」


 まさかの理由だった。


 



---


 道中、魔王はくしゅんっ、と小さくくしゃみをした。


「昨日の夜から、地下の脈動が強まってな……

 魔物どもが慌てて花粉を撒き散らしおった……」


「そんなドミノ式で花粉来ます?」


「来るのじゃ!!

 ワシは魔王じゃが、花粉には勝てん!!」


 魔王は鼻をすすり、情けない声で続ける。


「ガーゴイル共は石のくせに“花粉バリアあります”と自慢してきおって……

 腹が立つから評価を下げてやったわ!」


「私情入ってる!!」


 



---


「……でも大丈夫なんですか? 昨日の脈動の件」


 花粉はさておき、気になるのはそっちだ。


 魔王は鼻を押さえつつ、少し真剣な目をした。


「脈動そのものは収まった。

 ただ、原因がわからん……」


「魔王でも?」


「わからん。だから余は、下手に調べるより……まず逃げた」


「逃げたんですか」


「そうじゃ!! ワシはこう見えて慎重派なのじゃ!!」


 胸を張る魔王。


 花粉で真っ赤な目のくせに。


 



---


「それに……今日はどうしても外へ行きたかったのだ」


「え? どうして?」


 魔王はもじっとし、そっと言った。


「……花粉の薬を買いたい」


「人間界に売ってますね」


「うむ。しかし“魔王が薬局に行くのは威厳が下がる”と皆に止められてな……」


「いや、むしろ常備しとけよ!!」


 どうやら魔王軍の“威厳部署”とかいう謎の部署が止めたらしい。


「鼻水ずびずびのまま城で過ごせと言うのじゃ!

 余はつらい!!」


「そりゃつらいですよね」


「な? ワシは悪くないじゃろ?」


「はいはい。悪くないです」


 



---


 人間の町に着くと、魔王は帽子を深くかぶり、マスクまでつけた。


「……完全に子どもですよ、それ」


「静かにせい! いくぞ!!」


 小走りで薬局へ消えていく魔王。

 数分後――。


「買えた!!」


 戻ってきた魔王は、誇らしげに袋を掲げた。


「ほら見よ、これが文明の力じゃ!!」


「いやまあ……普通の市販薬ですけど……」


「余は感動しておるのじゃ!!」


 



---


 帰りの車内。


 薬を飲んだ魔王は鼻づまりが取れ、すっかり機嫌がよくなった。


「修一。今日の分の支払いじゃ」


 袋から取り出したのは――


薬局のポイントカード。


「……これ、お金じゃないですよね?」


「違うのか?」


「違います!!!」


「むぅ……ではこれではどうじゃ?」


 次に取り出したのは――


“魔王軍・威厳部署”の改善要望書。


「いやいやいや! それも違う!!」


「なんじゃ……昨日までは喜んで受け取っておったのに」


「昨日渡してませんよね!!!」


 



---


 結局、魔王は正しい金額をちゃんと払って降りていった。


 薬袋を大事そうに抱えて、鼻歌まで歌って。


(……魔王なのに、花粉に弱いって)


 ちょっと可愛いじゃないか。


 そう思いながら、俺は再びタクシーを走らせた。魔王、まさかの“アレ”に弱かった

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