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『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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24/64

「ダンジョン前にて

昼前。

私はいつものように王都の大通りで客待ちをしていた。


と、冒険者ギルドの前から、やけに装備の派手な四人組がこちらへ向かってくる。


「そこのタクシー! ダンジョン前までお願いしたい!」


元気いっぱいの戦士が叫び、仲間たちもペコリと頭を下げた。


「了解。乗ってください」

「おお……これが噂の異世界タクシーか」


彼らはワイワイしながら乗り込んでくる。



---


タクシーが走り出して数分。


「なぁ運転手さん。最近のダンジョン……なんかおかしいんだよ」


戦士がぼそっと言った。


「おかしい?」


「うん。日によって敵の強さが全然違うんだ」


後ろの魔術師が言葉を継ぐ。


「昨日なんて、入ってすぐのスライム階層に……ドラゴンが迷い込んでたんですよ!!」


「ありえないって!! あれは絶対おかしいって!!」


後ろの盗賊が震えている。


いや、それはめちゃくちゃおかしい。


「逆にさ、今日は弱いやつばっかだったりするんだよな」

「モンスターが薄い日と、濃すぎる日があるのよ」


僧侶の女性がそう説明した。


「ま、今日もどうなるかは……入ってみないと分からん、ってわけだ!」


戦士の明るさだけが頼もしい。


(ダンジョンの敵が日替わりで強かったり弱かったり……?

 そんなことが起きるもんなのか?)



---


ダンジョン前に到着すると、冒険者たちは私に礼を言って降りていった。


「ありがとな! 帰りも乗せてくれよ!」

「生きてたら、ね……」

「怖いこと言うな!!」


ワイワイ騒ぎながら、四人はダンジョンへ消えていく。


私はタクシーを木陰に停め、待機に入った。



---


《出待ちモードに入ります

乗客が来るまで、休憩をご自由に》


車内にアナウンスが響く。


「さて……次のお客さん、すぐ来るかな」


窓の外では、木々がサラサラと揺れていた。



---


十数分後。


「……ん?」


ダンジョン入口の向こう側――森の方から、

小さな影がヨロヨロと近づいてくるのが見えた。


白い髪。

頭には、二本の小さな黒い角。

背丈は、人間の子供くらい。


でも、その目だけが――妙に老成していた。


「……タクシー、これか?」


「えっ、はい。そうですけど」


影――いや“その子”は、よろよろと助手席のドアを開けて座り込んだ。


「どちらまで行かれます?」


「魔王城まで頼む」


「え?」


……今なんて言った?


「魔王城までだと言ったのじゃ。聞こえなんだか?」


「えぇと……かなり遠いですよ?」 「うむ。分かっとる」


まるで「近くの街まで頼む」みたいなノリだ。


「……冷やかしじゃないですよね?」


「冷やかしでこんな場所には来ぬわ」


子供の姿なのに、言い方だけ妙に威厳がある。


「そもそもワシは魔王じゃ」


「……はい?」


「魔王じゃ」


二回言った。


私は思わず頭を抱えた。


(今日は……変な客が来る日だな)



---


《乗客情報を確認します……

推定種族:魔族(高位)

推定危険度:不明

推奨:安全運転》


「いやいやいやいや……!」


「行くのか行かぬのか、どっちじゃ」


困ったように眉を寄せる“魔王の子供”。


……どう見ても悪い子じゃない。


むしろ、どこか寂しげだ。


私はため息をつき、シートベルトを確認した。


「分かりました。行きますよ。魔王城まで」


魔王は満足そうに頷いた。


「うむ。頼んだぞ、運転手」


こうして、

私と小さな魔王の長い旅が始まった。


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