『タクシーの評判が招いた、なんちゃって馬車』
王都での営業にも慣れてきた頃だった。
昼下がり。いつものように客を降ろし、車を走らせていると――
妙にカラフルな旗を立てた馬車が、私の横にピタッと並んできた。
「……ん?」
「おい兄ちゃん! そこの“鉄の車”!」
と、その御者が声を張り上げる。
「んん? なんでしょう?」
「最近評判になってるタクシーってのは、お前さんだな!?」
(あ、噂……広がってたのか)
「そうですけど……」
「俺たち、“タクスィー馬車”だ!!」
「タク……スィー……?」
馬車の横には大きく、雑な字でこう書かれていた。
【たくすぃー / はやい・やすい・まあまああんぜん】
(“まあまあ”って正直だな)
御者は鼻息荒く胸を張った。
「お前さんの人気がすごいって聞いたからよ、ウチらも同じこと始めてみたんだ!」
「いや、同じと言われても……馬車ですよね?」
「違う! “タクスィー馬車”だ!」
「いや馬車ですよね?」
「……馬車だな!」
(あ、認めた)
御者は得意げに続けた。
「見ろ、この“ほにゃららメーター”!」
見ると、料金表を描いた木の板を紐でぶら下げている。
御者が手で板をガチャガチャ動かすと、数字が微妙に変わる仕組みだ。
「……自作?」
「そうだ! 移動距離で変わる“つもり”の料金表だ!」
(つもり……)
御者はさらに興奮して言った。
「でな! せっかくだから“勝負”しようじゃねぇか!」
「勝負?」
「向こうの市場まで“どっちが先に客を届けられるか”!
俺らが勝ったら、タクスィー馬車の名前を王都に広めてもらうぜ!!」
(……いや完全に売名じゃん)
私は少し考えた。
本来なら断ったほうがいいんだろうが――
背後で、私の車が小さくピピッと鳴いた。
《注意:非公式競争は想定外ですが……
勝率:100%》
(え、何その自信)
「……いいですよ。でも安全第一でいきますからね」
「よっしゃあ!! なら乗れ、客!!」
見ると、近くに買い物帰りのご婦人が立っていた。
「えっ、あたし!?」
御者が無理矢理乗せようとするので、私は慌てて制止した。
「すみません奥さん! 乗車は自由選択でお願いします!
危険な乗り方はしませんので!」
ご婦人は少し迷って――私のタクシーを指差した。
「こっちが揺れなさそうだから……タクシーに乗るわね」
「……マジか!?」
御者の膝がガクッと落ちた。
「よ、よし……競走は……やめとこうか……」
「安全に勝るものはありませんから」
「ぐぬぬぬ……!
でもな、兄ちゃん!」
御者は突然、にっと笑った。
「これから王都に“なんちゃってタクシー”が増えるぜ!
覚悟しとけよ!」
「そ、それ脅しじゃなくて業界の健全化にしてください……」
御者はどこか満足げに馬車を走らせていった。
《乗客を送り届けました
満足度:★★★★★
料金:銀貨4枚》
ご婦人は降り際、にこりと笑って言った。
「本物と偽物、乗ればすぐ分かるものね」
私は苦笑しながら天を仰いだ。
「……異世界でタクシーの苦労まで味わうとか思わなかったよ」
王都の路地裏では、今日もどこかで“たくすぃー馬車”が走っていた。




