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『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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18/22

ベテラン鍛冶師と折れた剣

夕方前の王都・職人区。

金属を打つ音があちこちから響いている。


タクシーの前で一旦停車していると——

ガラガラッ! と勢いよく工房の扉が開いた。


「お、おい若ぇの! そこの箱車はタクシーか!?」


ひどく渋い声だ。

顔を上げると、白い髭を蓄えた小柄な老人が立っていた。

エプロンは煤まみれ、腕は筋肉質。

いかにも“名匠”って雰囲気だ。


「タクシーです。どちらまで?」


老人はズイッと折れた剣を突き出してきた。


「これを直してくれる鍛冶屋まで連れてってくれ!」


「……鍛冶屋が鍛冶屋に行くんですか?」


「わしより腕のいい奴が、いるんじゃよ!」


(職人界にもプライドの上下があるんだな……)


「乗ってください」


老人は後部座席にひょいっと乗った。


「ふむ……馬車じゃないが、なかなか乗り心地がいいな」


「タクシーですよ」


「タクシーという“馬車”なんじゃな?」


「……はいはい」



---


老人は折れた剣を大事そうに膝に置いた。


「それ、大切な剣なんですか?」


「大切どころじゃないわい。

 わしが若いころに打った剣でな……

 冒険仲間と戦って、笑って、泣いて……

 いろんなものが詰まっとる一本じゃ」


老人の指が、小刻みに震えていた。


「じゃがの……

 年をとったのは、わしだけじゃないらしい」


その言葉の重さに、一瞬だけ車内が静かになった。


「折れちまったとき、思ったんじゃ。

 “ああ、本当に幕引きなんじゃな”ってな」


(なるほど、折れたのは“刃”だけじゃなくて……気持ちもか)


「で、その……腕のいい鍛冶屋に頼むわけですね」


「ああ。

 最後にもう一度だけ、あいつと歩きたいんじゃ」


老人の瞳は、若いころの輝きを少し残していた。



---


タクシーは静かに走る。

ほどなくして、目的の工房へ到着した。


工房の前で、壮年の男性が待っていた。


「おやっさん、来たんですか。

 ……その剣、本当に持ってきたとは」


「頼む。あいつをもう一度だけ……」


男は剣を優しく受け取った。


「分かりました。

 明日までに、できる限りのことをします」


老人は深々と頭を下げた。


「恩に着る……」


そのまま振り返ってタクシーに戻り、ゆっくり乗り込む。


「さて、帰るかの……」



---


帰りの道。


老人はぽつりと呟いた。


「若ぇの」


「はい?」


「お主の車……いや、タクシーだったか」


「そうです」


「不思議と、気持ちが落ち着くわい。

 こういう乗り物、昔はのう……」


言いかけて、少し笑った。


「……いや、昔にこんな便利なもんはなかったわ!」


「ですよね」


老人はしばらく外の景色を見つめていた。


「剣も人生も、折れたら終わりじゃと思っとったが……

 直るんじゃな。誰かが、支えてくれれば」


その言葉は、老いた職人の背中に似合わず、どこか少年のようだった。


タクシーが工房前に着くと、老人はゆっくり降りて言った。


「若ぇの。わしはまた、鍛冶場に立つわい。

 剣が戻ってくるなら、わしも戻らねばの」


「その調子です。きっとまだまだ鍛えられますよ」


老人は笑い、手を振った。


《乗客を送り届けました

 満足度:★★★★★

 料金:銀貨4枚》


「……いい話だったな。満足度も素直だな今日は」


タクシーは静かに次の客を探す。

ベテラン鍛冶師と折れた剣

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