小さな花屋の少女
昼下がり。王都の中央通りは、行商人と冒険者が行き交い、今日も賑やかだ。
俺はタクシーを停めて昼飯代わりのパンをかじっていたところで——
コンコン、と控えめなノックが聞こえた。
窓の外を見ると、小さな少女が立っていた。
年の頃は七、八歳くらい。
胸に抱えた花籠だけが不釣り合いに大きい。
「あの……タクシー、ですか?」
「うん。どうした?」
少女はぎゅっと花籠を抱えたまま、小さな声で言った。
「お、お届けに行きたい所があるの。でも……ちょっと遠くて……」
「花の配達? もちろん運ぶよ。乗りな」
少女はホッとしたように微笑み、そっと座席に座った。
――と同時に、車内にふわっと優しい香りが広がる。
「いい匂いだな。どんな花なんだ?」
少女は照れくさそうに花籠を見つめながら答える。
「“ひだまり草”っていう花です。
大切な人が元気でいられるように、って願いを込めて贈る花なんです」
「へぇ……いい花だな。でも、誰に届けるんだ?」
少女は少し視線を落とし——ぽつりと言った。
「……お母さんです。体が弱くて、ずっと家にいるから……
今日は、はじめて私ひとりで届けに行くんです」
(ああ、これはもう絶対届けてあげたいやつだ)
「お母さん、喜ぶよ。任せな、すぐ連れていく」
少女はこくりと頷いた。
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道中、少女はぽつぽつと話し始めた。
「……ほんとは私、お花屋さんでずっと手伝いしてるだけで……
まだ一人前じゃないから、お母さんに“無理しなくていい”って言われてて」
「でも、今日は届けたいと思った?」
「うん……。
お母さんね、最近ちょっと元気がなさそうで……
“ひだまり草が見たいなぁ”って言ってたから……」
少女は胸に花籠を抱き直し、小さく息を吸った。
「私でも、誰かを元気にできるなら……って思って」
(……強い子だなぁ)
車は静かに住宅区へ向かう。
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目的地の近くに着くと、少女はそわそわし始めた。
「……あの、運転手さん。
よかったら……ちょっとだけ待っててくれますか?」
「もちろん。ゆっくり行っておいで」
少女は花籠を抱えて家に駆け込んでいった。
数分後——
「ただいま戻りました!」
少女が戻ってきた。
目の端がほんのり赤い。けど、くしゃっと笑っている。
「喜んでくれたんだな?」
「はい……!
“お花、ありがとう”って、お母さん笑ってくれて……
それだけで、胸がいっぱいで……」
少女はぎゅっとスカートを握り、続けた。
「私、お母さんのためだけじゃなくて……
いつか、もっとたくさんの人を笑顔にできる花屋さんになりたいです」
その言葉に、思わず笑ってしまった。
「もうなれてるよ。今、ひとり笑顔にしたんだから」
少女は目を丸くして、ゆっくり頬を染めた。
「……えへへ」
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少女を花屋の前まで送り届けると、彼女は深々と頭を下げた。
「運転手さん、ありがとう。
私……今日のこと、ずっと忘れません!」
《乗客を送り届けました
満足度:★★★★★
料金:銀貨3枚》
「お前、ほんと子ども客に優しいよな……」
タクシーはゆっくりと動き出す。
今日もまた、小さな誰かの“少しだけ軽くなる悩み”を乗せて。
小さな花屋の少女




