表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/19

小さな花屋の少女

昼下がり。王都の中央通りは、行商人と冒険者が行き交い、今日も賑やかだ。


俺はタクシーを停めて昼飯代わりのパンをかじっていたところで——

コンコン、と控えめなノックが聞こえた。


窓の外を見ると、小さな少女が立っていた。

年の頃は七、八歳くらい。

胸に抱えた花籠だけが不釣り合いに大きい。


「あの……タクシー、ですか?」


「うん。どうした?」


少女はぎゅっと花籠を抱えたまま、小さな声で言った。


「お、お届けに行きたい所があるの。でも……ちょっと遠くて……」


「花の配達? もちろん運ぶよ。乗りな」


少女はホッとしたように微笑み、そっと座席に座った。


――と同時に、車内にふわっと優しい香りが広がる。


「いい匂いだな。どんな花なんだ?」


少女は照れくさそうに花籠を見つめながら答える。


「“ひだまり草”っていう花です。

 大切な人が元気でいられるように、って願いを込めて贈る花なんです」


「へぇ……いい花だな。でも、誰に届けるんだ?」


少女は少し視線を落とし——ぽつりと言った。


「……お母さんです。体が弱くて、ずっと家にいるから……

 今日は、はじめて私ひとりで届けに行くんです」


(ああ、これはもう絶対届けてあげたいやつだ)


「お母さん、喜ぶよ。任せな、すぐ連れていく」


少女はこくりと頷いた。



---


道中、少女はぽつぽつと話し始めた。


「……ほんとは私、お花屋さんでずっと手伝いしてるだけで……

 まだ一人前じゃないから、お母さんに“無理しなくていい”って言われてて」


「でも、今日は届けたいと思った?」


「うん……。

 お母さんね、最近ちょっと元気がなさそうで……

 “ひだまり草が見たいなぁ”って言ってたから……」


少女は胸に花籠を抱き直し、小さく息を吸った。


「私でも、誰かを元気にできるなら……って思って」


(……強い子だなぁ)


車は静かに住宅区へ向かう。



---


目的地の近くに着くと、少女はそわそわし始めた。


「……あの、運転手さん。

 よかったら……ちょっとだけ待っててくれますか?」


「もちろん。ゆっくり行っておいで」


少女は花籠を抱えて家に駆け込んでいった。


数分後——


「ただいま戻りました!」


少女が戻ってきた。

目の端がほんのり赤い。けど、くしゃっと笑っている。


「喜んでくれたんだな?」


「はい……!

 “お花、ありがとう”って、お母さん笑ってくれて……

 それだけで、胸がいっぱいで……」


少女はぎゅっとスカートを握り、続けた。


「私、お母さんのためだけじゃなくて……

 いつか、もっとたくさんの人を笑顔にできる花屋さんになりたいです」


その言葉に、思わず笑ってしまった。


「もうなれてるよ。今、ひとり笑顔にしたんだから」


少女は目を丸くして、ゆっくり頬を染めた。


「……えへへ」



---


少女を花屋の前まで送り届けると、彼女は深々と頭を下げた。


「運転手さん、ありがとう。

 私……今日のこと、ずっと忘れません!」


《乗客を送り届けました

 満足度:★★★★★

 料金:銀貨3枚》


「お前、ほんと子ども客に優しいよな……」


タクシーはゆっくりと動き出す。


今日もまた、小さな誰かの“少しだけ軽くなる悩み”を乗せて。

小さな花屋の少女

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ