弟子魔法使い、初めてのお使い
昼過ぎ。王都の中央通りをゆっくり流していると、
小柄なローブ姿の少年が道路ぎわで必死に手を振っていた。
「タクシーさん! 市場までお願いします!」
「おう、乗りな」
少年は緊張した様子で乗り込んできた。
「買い物か?」
「はい! 師匠に“煉獄トカゲの尻尾を十本買ってこい”って頼まれたんです!」
名前は物騒だが、串焼き用の人気食材らしい。
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タクシーで市場の近くまで到着すると、入口は今日も大混雑していた。
「う……人、多い……」
背の小さな弟子には、押されれば転んでしまいそうだ。
「市場の入口くらいは、一緒に行ってやるよ」
「えっ……ほんとに!?」
「運転手の親切サービスってやつだ」
少年はほっとしたように肩をゆるめた。
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呼び込みの声と人波が渦巻く市場入口。
弟子は完全に埋もれそうなので、私は軽く肩を添えて誘導する。
「ほら、流れに逆らうなよ。足元注意な」
「は、はいっ!」
串焼き屋に辿り着いたところで、私は立ち止まった。
「店はここだ。ここから先は一本道だから迷わないさ」
「……行ってきます!」
少年は意を決して店主に声をかける。
「煉獄トカゲの尻尾、十本ください!」
「おっ? お使いか。えらいじゃねぇか」
店主はにやりと笑い、丁寧に包んだ袋を渡す。
「師匠によろしくな」
「はいっ! ありがとうございます!」
包みを抱えて走って戻ってくる少年。
「買えました!」
「よし、タクシーに戻るか」
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帰りの車内では、包みからいい匂いがただよい、
少年は足をぶらぶらさせながら笑っていた。
「僕……師匠に褒めてもらえますよね……?」
「褒められない理由がないだろ。立派なお使いだ」
「えへへ……!」
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塔の前に到着すると、扉が開き、大柄な魔法使いが出てきた。
「お、買ってきたか。……おお、ちゃんと十本そろってる!」
「がんばりました!」
「よし、よくやった!」
頭をぽんぽんと撫でられる少年。
その笑顔を見届けて、私はメーターを止める。
「さて、次の客を拾いに行くか」
異世界タクシーの一日は、まだまだ続く。




