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『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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13/22

「未練が歌になる夜」

夜の酒場街は、今日も騒がしい。

私はタクシーを店前につけたまま、酔っぱらいが倒れていないか見回っていた。


そのとき、店の前でリュートを抱えて泣いている男が目に入った。

肩まである金髪、つやのあるマント……見た目は立派な吟遊詩人なのに、地面に座り込み号泣している。


「……タクシー、か?」


顔を上げた彼は、涙でぐしょぐしょになりながら私を見た。


「家まで……頼む……足がもう、動かん……」


「酔ってますね。乗れますか?」


「歌、聞きたい?」


「いや、今日はちょっと静か──」


「よし! 歌おう!!」


止める暇もなく、彼は勢いよく後部座席に乗り込んだ。


 



---


走り出すとすぐ、車内にリュートの音が響く。


「♪エルザ〜〜〜戻ってきてくれ〜〜〜!」


「ちょっと歌うんですか!?」


「歌うのが吟遊詩人の生きる道だぁぁぁ!」


彼は完全に酔っていて、感情が爆発している。


「元カノですか?」


「元……いや、まだ諦めてはおらん!

だが、きついのだ……エルザの料理は……正直、まずい……!」


「そこは心にしまっといたほうが」


「本音を歌うのが使命!!」


そう叫んでさらにリュートをかき鳴らす。

すると、急にカーナビが光った。


《音楽魔力を検知。魔力共鳴率、上昇中》


「は? 共鳴?」


次の瞬間、窓の外に光の粒が流れ始める。

まるで走るタクシーを星が追いかけてくるようだ。


「お、おお……俺の歌が……?」


「魔力に反応してるんじゃないですかね……?」


吟遊詩人は勢いづき、さらに声を張り上げた。


「♪エルザ〜〜

君の笑顔は朝日のよう〜〜

君の怒りは隕石のよう〜〜

君の実家は遠すぎる〜〜〜!!」


「最後のは関係ないでしょ!!」


車内は光の粒で満たされ、

空中に小さなステージのような幻が浮かび上がる。


《ライブモード、起動しました》


「そんな機能ある!? 聞いたことないんだけど!」


吟遊詩人の歌はどんどん情緒的になり、

車は星空の中を走っているようだった。


 



---


やっと家に着くと、吟遊詩人は静かにリュートを抱えて降りた。


「……すまなかった。

歌わせてくれて……ありがとう」


さっきまで泣いて騒いでいた酔っ払いとは別人のように、

落ち着いた声だった。


「エルザとは……縁があればまた会える。

少し……踏ん切りがついた気がする」


そう言って、彼はふらつきながら家の中へ消えていった。


 



---


翌朝。


車を確認すると、フロントガラスに

星屑のような模様がうっすら残っていた。


《未練魔力の残留を確認》


「未練魔力って何……。消えるの?」


《三日ほどで自然消滅します。

ただし、悲しい歌を聞くと再発の可能性があります》


「うちのタクシー、そんなデリケートなの……?」


そんなわけでその日一日、車内には

ほのかな“センチメンタル香”が漂っていた。


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