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『異世界タクシーは今日も営業中!〜乗せた相手の悩みが少しだけ軽くなる車〜』  作者: 済美 凛


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12/31

小さな魔法花と、おばあちゃんの約束

昼前の王都は、いつもより静かだった。


 市場の通りをゆっくり流していると、

 道の端で小さな影がこちらに向かって手を振っていた。


 少女──といっても、まだ七歳くらいか。


「タクシーのおじちゃん!」


「……おじちゃんは余計だが、乗るのか?」


「うん! おばあちゃんの家まで連れてって!」


 元気よく後部座席に乗り込んだ少女は、

 大事そうにかばんを抱えていた。


「どこまで行く?」


「北の丘の上のおうち! 花を届けるの!」


「花か?」


「うん! “ピュアリスの花”だよ。魔法で光るの!」


 かばんを少し開けると、中で淡い青い光が揺れていた。


 なるほど、魔力のこもった花か。


「おばあちゃんがお見舞いでもらった花なんだけどね、

 もうすぐ枯れちゃうの。だから返しに行くの」


「返す?」


「うん。

 “お花はね、枯れる前に土に返してあげると

 来年また会いに来てくれるんだよ”って。

 おばあちゃんそう言ってたの」


 なんだ、やけに良い話だ。


「でね、私、その……おばあちゃんが言った“約束”を

 守りたくて……」


 その声は、さっきまでの元気さとは違って、

 少しだけ震えていた。


「……おばあちゃん、最近ずっと寝てるから。

 だから、その代わりに私が……返しに行くの」


 そうか。そういうことか。


「じゃあ、少し急ぐか。花は枯れるのが早いんだろ?」


「うん!」


 タクシーは丘へ向かって走り出す。



 道を登りきると、静かな草原に囲まれた一軒家が見えた。


「ここだよ!」


 少女が降りると、玄関から中年の女性──母親だろう──が出てきた。


「ミナ! どこ行ってたの!? 探したのよ!」


「ごめんなさい……でも、大事なことだったの!」


 少女はかばんから花を取り出し、家の裏へ走っていく。


 俺は母親に軽く会釈し、少し離れてついていった。


 裏庭には小さな花壇があった。


 少女は膝をつき、そっと花を置いた。


「おばあちゃんの大好きだった場所だから……

 ここなら……また来年、会えるよね?」


 魔法花は最後の光を弱く放ち、静かに青白く揺れた。


 やがて光は薄れ、花はしぼむように形を変えていった。


 少女は泣くかと思ったが──


「……ありがとう。また来てね」


 優しく笑って、土をそっとかけた。


 母親も、その肩に手を置いていた。


 俺は声をかけるべきか迷ったが、少女が振り返る。


「タクシーのおじちゃん」


「だから“おじちゃん”は──まあいい」


「連れてきてくれてありがとう。

 私、ほんとは一人じゃ怖かったけど……

 でも、お花……ちゃんと返せた」


「ああ。えらいな」


 少女はくしゃっと笑った。


「また、乗ってもいい?」


「いつでもどうぞ」


 少女と母親が手をつないで家へ戻るのを見届け、

 俺は静かにタクシーに戻った。


 カーナビが小さく光る。


《心温度:上昇》


《“穏やかな午後”ポイントを獲得しました》


「……そんなポイントいらねぇよ」


 しかし、悪くない気分だった。


 たまには、こういう仕事もいい。


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