黒ローブの目的(前編)
昼下がりの王都・北区。
「はぁ……また面倒なことになりそうだ」
昨日のジンの“調子に乗り→即撃沈”事件のせいで、
私のカーナビはまだ定期的に警告を出していた。
《黒ローブ集団:ジンの位置情報を断続的に探索》
……ほんと余計なことをしてくれた。
そんなときだった。
「修一さーん!!」
声は元気だが、走り方が明らかに怯えている。
案の定、ジンがタクシーに飛び乗ってきた。
「どした」
「や、やっぱり追われてるかもです!!」
「また裏通り行ったのか」
「行ってません!! 今日は真面目です!!」
どうやら本当に仕事をしていたらしい。
「で、どうした」
「仕事帰りに、後ろから視線感じたんです。
振り返ったら……いなかったんですけど……」
「それだけじゃ分からんだろ」
「でも、カーナビさんもなんか言ってません!?」
《黒ローブ反応:遠距離で停滞》
遠距離……嫌な言い方だ。
「修一さん……俺、どうしたら……」
「慌てるな。まずはギルドだ」
「はい……」
走り出してすぐ、カーナビがまた光る。
《黒ローブの探索魔法:王都全域に広がり始めています》
「おい、広がってるらしいぞ」
「ひいぃっ!!やめてくださいよ!!」
「俺に言っても仕方ねぇ」
と、私の視界に見慣れた建物が映った。
冒険者ギルド。
今日も人で賑わっているが——
その入口前に、見たことのない光景があった。
「なんだあれ」
ギルド前の広場に、
淡く輝く“魔法陣の膜”のようなものが張られていた。
ギルド職員が数名、必死に調整している。
「修一さん……あれって……」
《魔力障壁:ギルドによる一時的防御展開》
「つまり……本当に“何か”あるってことだ」
私たちが近づくと、ギルド職員が駆け寄ってきた。
「修一さん、ジンさん! ちょうどいいところに!」
「どうした」
「あなた方、黒ローブに“マーキング”されていました」
「マーキング……?」
「目印です。
昨日ついた魔法陣の破片は取りましたが……
その時点で“あなたの魔力反応”を覚えられていたようです」
「覚えた……?」
「黒ローブは、特定の魔力を追跡できます。
つまりその……ジンさん」
「ひぃっ!」
「あなたが見た“魔法陣の下書き”は——
《召喚儀式の前準備》でした」
「召喚……儀式……?」
ジンの顔色が真っ白になる。
「奴らにとって、あなたは“計画を見た証人”です。
消すにしろ、利用するにしろ、追ってくる理由は十分」
「……ジン、逃げても無駄っぽいぞ」
「ぎゃあぁぁぁ!!」
私の肩を掴んで揺さぶるのはやめてほしい。
「ギルドは今日から本格的に保護へ入ります。
ですが……奴ら、王都内での活動が激しくて」
職員は眉をしかめ、続けた。
「修一さんのタクシー……
“儀式の魔力”に反応する特性があるようで。
追跡にも逃走にも有効です。
つまり——協力してほしい」
「はぁ……面倒ごとに巻き込まれたな」
「ごめんなさいいいい!!」
ジンが土下座しそうな勢いで謝りだす。
「いいから。
どうせここまできたら、尻拭いくらいはするさ」
「修一さん……!!」
「ただし」
「ただし……?」
「俺はあくまでタクシー運転手だ。
戦わねぇし、倒さねぇし、危険は最小限だぞ」
「はい!! はい!! なんでもします!!」
その瞬間。
《黒ローブ反応:ギルド結界の外側に複数出現》
カーナビの表示が真っ赤に変わった。
ギルドの入口前、石畳の向こう。
黒い影が数人、立っていた。
無言で、ただこちらを見ている。
「……始まるか」
私も、ジンも息を呑む。




