第二部 恵美 第二章 邪魔者と別れ
第二章 邪魔者と別れ
ヒロシと恵美は付き合ってひと月が経過したのだった。
恵美としては最高に幸せだったが、一抹の不安もあった。
それは3ヶ月足らずで別れてしまう・・それが過去の出来事であり、回避できるであろうか?そう考えヒロシをしっかりと見守るのであった。
「恵美!(呼び捨てになった)」
「うん。なに?ヒロシ!(こちらもだった)」
「今日からバンド練習忙しいから、先に帰ってくれる?」
「えー・・私が邪魔なの?酷い・・ヒロシは!」
「違うよ・・恵美はバンドのこと良く分からないだろ?だから・・ダラダラ待たせても悪いし。」
恵美は考えていた。この音楽活動で何度も苦しい目にあった。今回はそれを是が非でも避けたかった。
「ねえ!ヒロシのバンドにマネージャーは必要ない?いろいろ雑用もあるかと思うし、私もバンドに入れてよ。いいでしょ?それでも邪魔だったら、黙って見てるから」
ヒロシは「んー・・どうかな?俺が良くても・・メンバーがNGじゃないかな?」そう言った。
「分からないかもしれないわよ。いいって言うかも?」
ヒロシは仕方がなく恵美を連れて行った。
「はー!嵐山をマネージャー??ダメだね!」
早速だが、マコトが反対した。「どうして!」
「だって!彼女がマネージャーなんて、俺らの前でイチャイチャされたら・・たまんないよ!しかも・・美人だし、スタイルもいいから、俺たち焼けちゃうさ!!分かる?ダメ!絶対!」
ヒロシは「ね!恵美ダメだろう・・だから言ったのに」
しかし恵美は「マコト君!音楽には口出さないし、イチャイチャもしないわ!私も音楽好きだし、このバンドを支えたいの」
そう訴えたのであった。
「そうだよ。恵美だって、正々堂々とイチャイチャする訳無いし、俺が保証する。この場でイチャイチャは絶対にしない」
ヒロシはそう助言した。
「まあ・・ヒロシがそう言うなら仕方がないけど、本当に嫌だからねイチャつくの!・・だったら許可するけど・・」
「本当!良かった!やったー」とヒロシに抱きついた。
「ああ・・ごめんなさい。もうしません・・」
そう言うと少し赤くなり謝った。
かくして恵美はヒロシのバンドにマネージャーとして参加する様になった。
バンドではマコトがサイドギター、ササキがドラム、イトウがベースギターに、ヒロシがセカンドギターとボーカルの構成だったが、ヒロシはどうしてもキーボード奏者が欲しかった。
1980年台のロックバンドの洋楽は、キーボードが良い味を出して、楽曲の完成度が高まる・・そう考えていた。
それでも同じ学校内にできる奏者もおらず、長い間悶々としていたのだった。
練習は楽器の準備で始まる。
「恵美!そこのアンプ持ってきて!」「はーい!」
「嵐山!ベースのケーブル持ってきて!」「はーい!」
「嵐山!水持ってきて!」「はーい!」
恵美は言われることをきちっと実施し、みんなは助かっていたが、後ろに下がっては、登ってきたりと・・2時間程度だったが疲労困憊だった。
そに日の帰り・・
「恵美!大丈夫?忙しく動いて疲れたんじゃないか?」
「ううん、大丈夫だよ。」そう言いヒロシの手を握った。
ヒロシはバスの中で恵美の頭を自分の肩に乗せ休ませた。
恵美はいつか見た摩天楼の景色を思い出していた。
(綺麗だった・・あのニューヨークの夜景・・。でも・・ヒロシ君たら・・シャワーで私を抱いて・・うう気持ち良かった。その後も何度もしちゃったわ(恥)・・興奮しちゃうわ。だけど・・)恵美はいつの間にか寝てしまった。
「えっ?寝ちゃったんだ。」
ヒロシはそう言うと恵美に軽くキスして、自分の膝に頭を乗せバスに揺られ帰るのだった。
1981年4月・・高校3年
恵美とヒロシは勉学が忙しくなってきていた。
魔の3ヶ月はとうにすぎ、二人はいつも仲が良かった。
無論、勉強が忙しいのはヒロシが有名大学に行くからだった。
(ヒロシ君は猛勉強して、有名大学受かるけど・・辞めちゃうんだよね・・で翌年に静岡の大学に行くわ・・これが第一の人生だった・・これをどうすべきかだわ!)
恵美は補習に忙しいヒロシを見つめて思うのであった。
ヒロシと恵美と牛山は同じ、進学クラスに進んでいたが、恵美は課題をこなすことだけでいっぱいだった。
「恵美!」「なに?牛山」牛山が話しかけてきた。
「ねえ・・恵美はどの大学受けるの?やっぱり今度こそ神聖大学?この高校からだったら推薦でもいけるんじゃない?」
「ううん・・神田大学受ける・・」
「えー!恵美!正気なの?無理だよ。ヒロシだってギリギリだと思うよ。無謀は辞めな!」
「だって・・ヒロシと離れ離れになっちゃうわ・・」と。
牛山は暫く考え言った「だったら、短大にすれば・・神田短期大学って、同じ敷地内だし、いつでも会えるよ!」
恵美はふーと息をして「そうか・・その手があったのか?じゃそうしようかな。無謀な賭けは辞めて・・」
恵美は牛山の助言に正直助かった・・今の成績だと無理だったのであった。
ヒロシは勉学の合間にバンド練習もしていた。
秋の最後の学園祭はあるが、その前に5月の定期演奏会に向け頑張っていた。
そんな5月のある日の夕方だった・・
「ヒロシ・・誰が来るんだって!中学生らしいじゃないか?」
「ああ・・キーボードができる中学生だけど、結構うまいから驚くと思うよ!」
ヒロシは長らく考えていたキーボードの演奏者を見つけてきたと言うのだった。
恵美は(まさか・・朱音じゃないよね・・だったら波乱あるわ)
そう思っていたが、部室に来たのは全く見覚えのない女の子だった。恵美は初顔だと思ったが、名前を聞いて驚いた。
「初めまして!佐藤エミリ、中学3年生です。よろしくお願いします。」
(エミリ・・あのエミリ?ヒロシが最初の大学を辞め、お世話になっていた新聞店の娘さん・・確か、佐藤エミリだったわ)
マコトは「へーえ、中学生なんだ。なんか大人っぽいよね。」
と上から下までじろじろ見ていた。
「私、実はもう17歳でみなさんとは一つ違いです。2年ほどアメリカに住んでいて、小学校の入学が8歳で2年遅れでした。でも・・昨日に飛び級が認められて、来週からこの高校の2年生になります!よろしくお願いします。」
「そう言うことか?どうりで中学生っぽくなかったんだ。でも・・キーボードだけど大丈夫なの?」
ヒロシは「問題ないさ。佐藤さんは俺が教えたことがあって、結構当時から実力あったよ!ねえ!」
エミリは「なんか恥ずかしいです。先生にそう言われると下手だったらクビですね・・・」そう言った。
「先生・・」恵美は思い出していた。
(中学生のバイトと思って紹介した音楽教室で一年くらい講師をしていたわ。そこに確かに居たかもしれない・・は〜またやってしまった。あの時の事が今になって変化を作ったわ)
恵美の心は不安だった。19歳で会うはずのエミリに1年以上前に会ってしまった。しかも当時のヒロシの話では、エミリはヒロシに気があった・・と聞いた事があった。
「じゃあ!みんな練習しようか。恵美!ギターのピックアップ持ってきてくれる?」「はーい!」
「嵐山!そこのベースの弦もお願い!」「はーい!」
「嵐山!前に立ってアンプの音確認して!」「はーい」
相変わらず雑用係のマネージャーだったが、ヒロシと一緒に居られれば耐えられた。
先ずは音合わせからと言い、各自G音から音出しを行いスネアがパタパタと鳴っていた。今回はレッドツエッペリンを練習していた。
「マコト!そこの出だしだけど、Dのところで2弦目の音がおかしいから、チューニングしてみて。恵美!ギターのチューナー持ってきて?」「はーい!」
「とは言ったものの・・チューナーってどれのこと?」
恵美はギターのチューナーが分からなかった。そこにエミリがきて機器を取り出して「先生!これでいいですか?」と。
「そうそう!持ってきてエミリ!」「はい!」
恵美は「なによ!自分が少し楽器慣れしてるからって!それに何?あの短いスカート?見て下さい!って言っているも同然だわ。持って行く時の彼女の私への目・・対抗心ありだわ」
暫くするとヒロシはエミリのそばに行き「ここの・・連打じゃなくてチャチャン・・て感じで、二つに割る様に弾いてみて」
「分かりました。ありがとう先生!」
「じゃあ!全体通して一度演奏しよう!」「ハイハイ・・」
恵美はエミリが気になっていたがキーボードのソロ演奏を聴き、更なる不安を感じた。
「昔の・・朱音ちゃん・・みたいだわ。彼女の演奏に似ているし、何処かヒロシを彷彿させる似たところ・・ある」
演奏後に「驚いたよ!どこで習ったんだ。指使いがうまいからびっくりしたよ」とマコトが言った。
「まあ・・幼い頃に先生に教えてもらった旋律です。まだまだですけど・・ねえ!先生!」
「うむ・・まあ・・そう言うことかな?」
第五の人生時にヒロシが朱音に厳しい練習を課して、倒れ病院に行った事があったが、その時のヒロシは恋愛心からの心配ではなく、練習をし過ぎた事を気にした目だった。
だが・・今のエミリを見る目はまるで妹か恋人の様に優しい目だった。音楽教室時にきていたエミリは小学生だったから、無論だが恋愛になる筈はない。
恵美は今までのヒロシの行動や言葉を思い出して、朱音の何がヒロシを動かしたのか?考えていた。
5月の公演になり、恵美の仕事はステージが整い終わり、客席から音の確認だけだった。
30人程度の椅子が用意されたが、立ち見の生徒もいた。
「こんにちは!谷です。今日はありがとうございます。・・今日は新しいバンド仲間を先ずは紹介します。今日からキーボードを担当する佐藤エミリです!」
「よろしくお願いします!エミリです!」
「それと俺の大事なマネージャーでもある、嵐山恵美です!」
「嵐山です!よろしくお願いします!」
会場からは「よ!理想的カップル!」など声がかかった。
エミリは少し膨れ顔で、悔しがったのだった。
「今日は少しいつものハードロックを辞め、心に響く名曲を演奏したいと思います。」
ヒロシはそう言うとエレキギターで、アルペジオを弾き始めた。曲はイーグルスのホテルカルフォニアだ。
ボーカルはドラムのササキが担当した。コーラスも素敵なこの曲の見せ場はなんと言ってもギターソロだ。マコトとヒロシはツインギターで真似せ見せた。
次はレッドツエッペリンのノー・クウォーターで、ギターの激しいエフェクトで始まるが、見せ場はキーボードの穏やかな演奏だった。エミリはそれを完全コピーしており、ヒロシの歌とマッチングしていた。
会場からは拍手喝采であった。恵美も「良い感じだわ・・」
そう思ってみていたが、ヒロシがエミリの横に立ち歌い出し、会場も盛り上がった。エミリのキーボードの低い方をヒロシが弾き、エミリが高い方を弾いた。原曲にはない、アレンジをヒロシがしたのだった。
曲が終わるとヒロシにエミリが興奮して抱きつき、ヒロシも恵美も驚いた。「ちょっとエミリ!俺の彼女が見ているんだからよしてくれ!」そう言うとエミリをつけ放したのだった。
エミリは「ステージの流れですよ!別に深い意味はないです。気にしすぎです!」そう言うのであった。
恵美は下を向き我慢していた。
最後の曲はディープパープルの紫の炎で締めた。
会場は大盛り上がりでアンコールもあったが、会場の使用できる時間が迫っていたので、定期演奏会は終了した。
みんなで後片付けをしていたが、エミリがヒロシに近づき
「先生?どうして恵美さんとお付き合いしてるんですか?」
ヒロシはエミリに「内緒だよ。俺と恵美には離れられない絆があるんだ。それだけ・・」
「なんだ・・もうエッチとかして、それが良くて離れられないのかと思ったわ」
「おいおい!なんて事言うんだよ!俺と恵美はそんな嫌らしい関係じゃないよ。純粋に好き同士ってこと」
ヒロシはエミリが唐突もない話をしてくるのに、困惑をしたが恵美との関係性の確実性も薄らいでいた。
帰り道・・ヒロシと恵美
「なあ、恵美・・」
「なに?ヒロシ・・お腹空いた?」
「違うよ。俺たち後数ヶ月で高校卒業だろ。その先って考えている?俺たちのこと・・大学行く俺と、短大生を目指す君が卒業後も一緒にいられるかな?最近ふと思うんだ。」
恵美はきた!と思った。第一の人生では、互いの道に進むために恵美自身がヒロシを振った。この事でヒロシの人生は大きく変化していった・・。もう一度、もし同じ道になったら・・恵美の心中は不安で仕方がなかった。
「ヒロシは無理だと思う?私たちがこの先もずっと一緒に歩く事・・初恋は実らない・・そう思ってる?」
ヒロシは少し考えた「・・今は分からない・・互いに子供だし、親に養ってもらってるから。一緒に歩きたい恵美と・・でも、どこかで障壁が現れ二人の前に立ちはだかる気もする。」
恵美は思った。やはり・・ヒロシにはまだ自分(私)の必要さを
分からない。時間が経過して苦楽を繰り返した時・・互いに必要さを思い知る。今のヒロシにはもっと経験が必要であり、挫折することも必然的に必要かもしれない・・そう思った。
「じゃあ・・私たち少し距離を置く?私も考えるわ・・私にはエミリちゃんのように楽器を演奏して、ヒロシと共感できないわ。マネージャーとして近くにい過ぎたみたいね。ごめんね」
ヒロシは「別にそんなこと言ってる訳じゃないよ!俺は恵美と別れたくないし、ずっと一緒に居たい・・ただ・・ただ先々の話が気になっただけだよ」
「ううん・・いいの。私たちはまだ高校生だから・・もっと互いに責任を持てる歳になったらいいかもね。だから・・少し・・距離を置こう・・。嫌いになった訳じゃないわ」
ヒロシは髪を掻きむしり「ああっ!分かったよ。そうするよ!君が俺をなんとも思っていないと分かったよ!じゃあ!」
そう言うとヒロシはバスに乗らず走って行ってしまった。
次の日からは、恵美とヒロシが別れたと言う噂話が広がり、女子たちが逆に喜んでいた。
「ねえ・・知ってる。嵐山さんたら、あのヒロシ君を振ったらしいわよ。・・どこまで上から目線なの?バカじゃない。」
そんな噂が下級生まで広がっていた。無論、エミリにも伝わり「やっぱりだわ。先生達って仮面恋人同士だったんだわ。」
そんなことを考えていた。
恵美は・・昨夜のことだった。
「1981年5月19日の夜、第一の人生の時と同じように、ヒロシ君を振ってしまいました。うう・・恵美は悲しすぎ。
ヒロシ君を大好きだよ。でもね、今・・ヒロシ君を縛り付けたら次元が変わる。だから・・死ぬほど辛いけど別れました。
きっと・・絶対にヒロシ君を助けるわ!あなたが苦しくなって、息ができないくらいな時に、私は行くわ!そしたら・・プロポーズして下さい。ヒロシ君を愛してるから、私は絶対に諦めないからね!」カシャ!
前のようにラジカセに録音をした。決意表明でもあった。
過去にヒロシと別れた理由に近い感情を持った恵美だったが、今回は前のように引き下がりなどしない覚悟だった。
放課後のバンド練習に恵美は現れなくなった。恵美は見つからぬように、遠目からヒロシを見守っていたが、大学入試に合格するにはどうしても神田短期大学を狙うしかなくなっていた。
「ヒロシ!嵐山どうしたんだよ?今日は休みか?」
ヒロシが答える前にエミリが先に「先生・・恵美さんと別れたんですか?」と聞いてきた。
「・・だったら何?俺たちのことに構わないで!」
ヒロシは憤激して部室を出て行ってしまった。
(まったく・・恵美の奴。俺を振りやがって!くそ!)
ヒロシはバンド練習を辞め、図書館で勉強し始めた。恵美もそっと遠目に座り一緒に勉強していた。
ヒロシは暫くバンド練習をさぼり、図書館で遅くまで勉強をしていた。ヒロシは心の傷を勉強することで埋めたかった。
(そうさ!俺は本来こういう人間だ。イジメから抜け出したいために勉強してたんだ。恵美もみんなと同じだった・・俺を好きでもなかった。興味本位だったんだ。裏切りには慣れてるけど・・今回は結構厳しい)
ヒロシは一週間ぶりにバンド練習に来た。
(・・俺のもう一つの居場所だ。これも俺を救ってくれた・・)
ヒロシはとにかく恵美を忘れる為に、遅くまで練習をしていた。部室の周りにはヒロシの姿や歌を聴こうと、下級生女子がたくさん集まっていた。
恵美も遠くからヒロシの演奏と歌をかすかに聴き「寂しい音・・歌も・・私のせいだわ。ごめんね・・ヒロシ君。でも・・今はこうするのが一番なの。そうしないと互いのストーリーが走らないから」そう独り言を言い泣いていた。
牛山も恵美を見て心配していたが、その状況をヒロシには伝えなかった。恵美から止められていたからだった。
1981年9月・・学園祭の日
ヒロシと恵美にとって最後の学園祭だった。
恵美は組のみんなと焼きそばの露天を出していたが、ヒロシは来ることもなく体育館で最後のステージの準備をしていた。
「さあ!みんな今日で終わりだ。後悔なく終わろう!最高の3曲にしようぜ!」
「今日はディープパープルとレインボーでいくか?」
マコトが聞いてきた。「無論・・Kill the kingから行くから、最初の幻想的な虹のかなたのオープニング頼むよ!特にエミリ!出だしが大切だからな!」
エミリも気合いいっぱいに「はい!先生!」
そう言いイコライザーの調整に余念がなかった。
ただヒロシの心の中では・・(恵美見てくれるかな?・・来ないかもな・・そんな感じだよね。最後まで・・)
エミリは「先生・・今日の夕方いいですか?前にも言いましたけど忘れていませんよね?」
「うん。覚えてるよ。大丈夫」
午後1時になりヒロシ達の最後のステージが始まった。
レインボーのKill the kingが始まり、エミリのキーボードでの虹のかなたに体育館はシーンとしたが、ドラムの響きでジャーン!!マコトの激しいギターソロからドラムが重なり、観衆から大きな声援が起きた。そしてヒロシのボーカルが加わり、コピーとはいえ完成度は高かった。
会場からは「ヒロシ君!」「ヒロシ先輩!」「きゃー素敵!」などの歓声が起きた。その頃恵美は・・
「ねえ、本当に行かなくていいの?ヒロシの最後のステージだよ。後悔するわよ」牛山が恵美にそう言ったが・・
「ううん・・いいの。私たちお別れしたから、行ってもヒロシ君が迷惑よ。それに焼きそば売れてるし!」
「あら、そう・・じゃこれ以上は言わない」
恵美はここで動いてしまったら、元の木阿弥と思っていた。
今は一度ヒロシを突き放し、彼本来の挫折から生まれる本能を求めていたのだった。
体育館のステージは最後の一曲になっていた。ヒロシはバンドメンバーをセンターに集め話し始めた。
「最後は天国への階段だったけど、最後の一曲を俺にくれないか?みんなには悪いけど。俺の最後の曲にしたい」
「いいけど・・独りで歌うのか?」マコトが聞いた。
「うん。そうだよ。」
「いいけど・・俺はね。」「俺もいいよ」「俺も、このバンドはヒロシがいてくれてここまで出来たんだから、当然いいよ」
「先生は何をしたいんですか・・」
「うん。全てをここに置いていくつもりで歌いたい。この先きっと後悔しないため、ここに思い出と共に歌で置いていく」
「よく分からないけど、いいわ先生!頑張ってください」
みんなを納得させヒロシは珍しくキーボードの椅子に座ると
「皆さんありがとうございます。ヒロシバンドは今日で解散しますが、みんなの思い出と共に、僕の思い出もここに置いていきます。聞いてください
ARASHI
<傷つき 失った心に風が吹き
守ってくれた 君の音という声・・>
<目を瞑る俺に 優しく口づけした君
忘れていた 生きることと愛すること
First Love 僕の心の迷いが解け・・満ちる
あゝ 好きだよ・・
あゝ 一緒にいて欲しい 抱きしめるから
怖くない 君といれば
怖いのは 失うこと 君が涙すること
きっと・・分かってくれるさ>
「恵美!来なさい!!」牛山が突然、恵美の手を引っ張っていった。
「なんなの!牛山!痛いわよ!」
牛山は恵美を体育館に連れてきた。
そこにはあの歌をキーボードで歌うヒロシが見えた。
ヒロシはなんと最後の曲を恵美のために作ったオリジナル曲を歌ったのであった。
恵美は「どうして?この曲は何年も経ってから歌うはず。なのにこのタイミングで・・」恵美はハッとした。
(また次元が歪んでいる。方向性が変わっていくわ)
そう思いながらも、涙が止まらなく堪え切れず大泣きした。
ヒロシは歌いながら恵美を発見していた。
恵美はこのままだと違う次元となり、もっと恐ろしい事象が発生すると確信して、その場を走って逃げ出した。
ヒロシは恵美が立ち去る姿を確認して(終わった・・)そう観念したようだった。
歌が終わりヒロシは急いで外に出たが、恵美を発見することは出来なかった。「恵美・・観ていたよね。牛山さん。」
「うん。観ていたけど、急に慌ててどっか行っちゃたわ。変な子だわ。ヒロシにもう興味ないんじゃない。」と牛山が言った。ヒロシはがっくりして体育館に戻るのであった。
「ヒロシ!急にどうしたんだ。走り出して・・」
「ううん。なんでもないよ。便所に行っただけ。漏れそうだったから(笑)。」即、嘘を付いた。
「先生!恵美さんは居ませんでしたよ!きっと人違いですよ!」そうエミリが言うのであった。
恵美は帰り支度をして、早々にバスで帰ったのだった。
(私・・最低だったわ。行くんじゃなかった・・ヒロシ君を余計に迷わせたみたい。)
恵美はとにかく、今は避けるべきと考えるのでであった。
一方ヒロシは・・(俺の見間違いで良かった。あれが恵美だったら、迷いに迷っていた。)
「先生!さあ行きましょう!」エミリが言うのであった。
「・・・あゝそうだったね。行こう。」
エミリはヒロシを連れて、懐かしい音楽教室に来たのだった。
「オーナーお久しぶりです。」
「おおー谷君!久しぶりじゃないか?・・そっちはエミリか?」「そうです。お久しぶりです。」
「二人揃って今日はどうしたんだ?」
「なんか、エミリが来たい・・というので来ました?」
「珍しいなあ・・というかエミリもここ卒業して初めてだろう・・久しぶりではないか?」
「バレました?・・ここに来ると落ち着くんです。そう思っていましたけど、ここに来なかったのは、先生が居なかったからで、今・・落ち着きました。」
エミリはヒロシを音楽教室に連れて行き、恵美との別れを少しでも忘れさせようと考えたのだった。
二人は昔のように、練習曲を弾きその後にビートルズのレッドイットビーを弾いた。「懐かしいよ。良くエミリが最後の一小節を間違えて、C♯mをD♯mで弾いてたな・・」
「先生!そんな事だけ覚えてるんですか?まったく!」
「ああ、ごめんごめん・・余りにも懐かしいから、つい」
二人は1時間程滞在して帰るのだった。
「エミリ・・ありがとう・・気を使わせたね」
「いいんです。先生が少しでも元気になってくれれば」
「うん。少し元気になったよ。本当にありがとう」
エミリは少し歩いたところで立ち止まり、急にヒロシの手を握りしめた。「どうしたんだエミリ?」
「先生・・ここ私のアパートです。父が地元に先月帰って、おじいちゃんの新聞店を継ぐんです。だから今はひとり」
「エミリは地元に帰らないのか?ひとり暮らしは危険だよ」
「うん。だから来月に私も地元に帰ります。そうしたら・・先生にもう会えない・・だから、今日は私の部屋に泊まって下さい。先生の思い出が欲しい・・」
「いや・・さすがにそれはまずいよ。高校生だし・・」
「私・・先生のこと好き。ずっと前から好きだった。でも話せなかった・・彼女も致し。でも最後だから、勇気持って言いました。先生が好き・・」そう言うとヒロシにキスをした。
ヒロシは誘われるままエミリの部屋に上がってしまった。
暗い電気の下で「先生・・私は今日でバンドを去って、10月からは地元の高校に転校します・・先生・・先生のxxx欲しい。もう会えないから」
エミリはそう言うと制服を脱ぎ、ブラウスを脱ぎ・・スカートも脱いだ。「先生・・私に最後の愛を下さい・・お願い」
そう言うとエミリはヒロシの手をショーツの中に入れた。
さすがのヒロシは我慢できずエミリを抱いてしまった。
「エミリ・・ごめん。こんな場面で。俺こんなことして」
「いいんです・・私・・先生だったらあげるつもりでした」
二人は狭いベッドの中で裸で抱き合った。
「後悔していない?」「先生の方こそ・・」
二人はそのまま抱き合い眠るのだった。
翌朝、ヒロシが起きるとエミリは居なくなっていた。
テーブルには手紙があった。
<先生・・先生に抱かれてエミリは嬉しかった。長年の夢で先生にして欲しかったから・・エミリは今日地元に帰ります。学校には実は先月に転校の手続きを出してました。
昨日までの約束だったの両親にも。だから・・先生を無理矢理に誘いました。昨日しかチャンスがなかったから、ごめんなさい。嘘ついて・・。先生・・感じるくらい暖かかった・・凄くエミリ嬉しくて。先生のこと一生忘れない。すごい気持ちが高揚して・・この気持ち良さ忘れない。また会えたらいい先生に。ありがとうございました。鍵はポストの中へお願いします。不動産会社さんが残りの荷物を引っ越し屋さんに頼んでいるから・・そのまま帰って大丈夫・・一応一度さよなら。先生・・愛しています エミリ>
ヒロシは驚愕してしまった。エミリとの一夜もそうだが、簡単に人が自分から離れいなくなっていくこと・・。
エミリは好きだったのか?愛していたのか?そう考えたが、正解は出そうになかった。
ヒロシはこの事件後というより、エミリを抱いてしまったことから自暴自棄に陥った。自分を思っていてくれたエミリの思いやり、簡単に自分を捨てた恵美に対する気持ちが交差して、「好きになると・・みんな去ってしまう。」そう考えるようになっていった。
1982年3月・・高校の卒業式
ヒロシは前と同じように生徒代表で挨拶をし、高校から奨励賞の賞状も頂いた。結局は成績で一番は最後まで譲らず、学級委員長も3年間、生徒会役員も卒業まで勤め、学校からも優秀生徒として表彰されたのであった。
大学受験も成功し見事、神田大学に合格した。母校では15年ぶりの快挙だった。
一方で恵美は、神田短期大学に受からず、地元のメーカーに就職した。牛山も父親の病気を心配して家業の自営業を継ぐことになった。ストーリーは必然となった。
ヒロシは神田川沿いの安アパートに部屋を借り、引越し早々にバイトを探し働き始めたのだった。
恵美は慣れない現場での仕事に戸惑いながら、ヒロシのことばかりを考えていた。
「ヒロシ君・・そろそろ自分の限界になる頃だわ。確か4月の20日あたり・・でも見えないから分からない!」
ヒロシは講義での課題の難関とアルバイトの不慣れから、アパートに帰るとクタクタになっていた。課題を進めるも自分が経験したことのないような英文の読解や、社会学の授業も一度に20ページも進んで、ノートにまとめることが難しかった。
そのうち各講義からの宿題も併せて、バイトをする気力も奪われた。「あゝ・・全然ついていけない!俺がしてきた勉強はなんだったんだよ!田舎の県立校じゃ無理なのか!」
この気持ちが毎日になりやがてヒロシは自暴自棄に陥った。
大学を休みがちになり、ヒロシは部屋で壁ばかりを見ていた。
「こんな筈はない!俺はできる!俺は頑張ってきたんだ!」
そう思うほど自分の無力に挫折感を感じ動けなくなった。
ついにヒロシは実家に帰り、両親に大学を辞める話をした。父親は世間体を気にし、家には居られないから、どこかで次を目指せ!と話をしてくれたが、とんとあても無かった。
ヒロシは困っていたが、東京の新聞会社のチラシが目に入り新聞配達をしながら勉強できる・・そんな募集を見た。早速問合せをしたが、4月からの学生募集で締め切っていた。それでも諦めずに探したところ、埼玉県に予備校生でも可の募集を発見して連絡を取り、住み込みではあるが居住できる場所を確保したのだった。
一方で恵美も現場の社員からセクハラや、パワハラを受け会社に通える精神ではなくなっていた。
「お前は少しくらい美人だと思って!どうせ顔でこの会社に合格したんだろう!」や、「いい体だから部長秘書に転身しては?」等々・・耐えきれず会社を辞めてしまった。恵美の父親と母親は心配して、早めのに結婚でもさせたら?と思うようになり、家業の手伝いをさせて、見合いもさせていた。
そんな時に・・前の人生で会った例の男性とのお見合いの話がきた。恵美は考えた。ここでこれを受け結婚したら、もうヒロシには決して会えない・・。60歳のあの道端で互いに死んでいくまで・・。だから恵美は両親に対し正直に話した。
「お父さん、お母さん・・ごめんなさい。私ずっと好きな人がいて・・どうしても彼と結婚したいの。今は彼は何もできない人だけど、5年後にはお父さんに立派な姿で、私のことをお嫁に下さい・・と言ってくれるわ。だから・・それまでは私にこの店を手伝わせて!お願いします!でなきゃ、私出ていくわ・・私は真剣なんだから!信じて・・」
恵美の両親は仕方がないと思い見合い話はそれ以来しなかった。だが、父親だけは「5年だぞ。それ以上は待てん!お前が25過ぎたら行き遅れになる可能性もあるからな。いいな5年間だけだぞ」そう恵美に釘を挿した。
恵美は自分で自分を追いやった。高校時代にヒロシを一度突き放した責務とヒロシの事は自分がきっと立ち直させる・・その自負も十二分あった。
ひと月後・・
ヒロシはやっと見つけた住み込みの新聞店にやってきた。兄に車で荷物と共にやってきた。
「どうしようもない弟ですが、なにとぞよろしくお願いします」そう兄はお世話になる主任夫妻に挨拶をし、荷物を下ろし帰っていった。
到着すると主任が新聞の折り込みをする現場にヒロシを連れて行き、他の従業員に紹介した。
「今日からここで一緒に仕事をする谷ヒロシ君だ。みんなよろしく、仕事を教えてやってくれ!」
ヒロシは緊張しながら「谷です。19です。よろしくご指導のほどお願いします」そう挨拶した。
「にいちゃん!声が小さいな!聞こえないよ!まったく」
威勢のいい唐澤さんが怒鳴った。
「まあまあ・・仲良くしてよ!若者なんだから。それに彼は一年限定だからね。来年に大学目指す受験生だから。そのところもよろしく!」「まったく・・面倒くせ!」
ヒロシは圧倒されたが、ここ以外に今は行くところがないから、頑張っていくしか無かった。
主任はその後奥さんと共に食堂にヒロシを連れて行き、色々と説明をした。
「ここでみんなで食事をする。隣が風呂とトイレだけど、トイレは2階にもあるから。それと谷君の他は、朝倉さんと湯浅さんが2階に寝泊まりしてるから、分からない事は聞いて」
そう言い朝倉さんと湯浅さんを紹介してくれた。
主任の奥さんがもうひと事言った「食事とお風呂だけど、ここは私の家でもあるから、私たち家族も一緒に食事もするしお風呂も使うから気をつけてね」
ヒロシは慣れない生活に不安を感じていたが、どうせ一度死んだ自分だから・・とやけな気持ちもありだった。
初日は夕方の折り込みと明日廻る順路帳の説明を受け、食事となった。食事では紹介された湯浅さんがワンカップを飲み、主任の奥さんにわいせつ話を連発していた。
ヒロシはまったく耳にせず、夕食を食べていたが、そこに驚きの光景が現れた。
「先生・・うそ・・ううう・・うう先生ですか?信じられない!どうして?なんで?・・」
主任も奥さんも目を丸くした。当然ながら湯浅さんも朝倉さんもだ。何が起きたのか・・
「エミリ・・エミリなの?うそだろう!そんな事あるの?!」
お風呂から出てきた女の子はあのエミリだった。一夜を共にし手紙一枚で去ってしまったエミリだった」
「エミリ!谷君を知ってるの?先生って何?」主任の奥さんが問い詰めた。エミリは泣きながら言うのであった。
「向こうの高校で一緒にバンドやってたヒロシ先生だよ。私が小学6年と中1の時に音楽教室で教えてくれてた先生・・」
「えっ!あのヒロシ君なの?エミリにピアノ教えていた・・」
主任も分からず「同じ高校だったんだ?へー不思議だね」
ヒロシは「先生はよしてください。過去の栄光の称号です。今は単なるダメ男ですから・・」
色々と盛りだくさんのエミリとの再会だった。
その晩・・ヒロシはひとり公園でビールを飲んでいた。
4月後半だったがまだうっすらと寒気を感じた時期だった。
「先生!・・ひとりで何してんですか?」エミリが急にやってきてヒロシは驚いた。
「ああ・・ビール飲んでただけだよ。」
「未成年なのに?いけない人だ。不良だ!」
「おいおい・・内緒だよ。朝から仕事だから息抜き・・」
エミリはヒロシをじっと見つめて・・「なに?なんか顔に付いてる?恥ずかしいから辞めてくれよ」
「先生・・私、もう会えないかと思った。あの日一緒にセッションして、夜まで一緒に居ていい事しちゃって・・最後だと思った。そうしたら先生から私の方に来てくれた。不思議だわ」
「そうだね。俺もそう思った。でも大学辞めてキラキラ無くなって、昔の自分に戻ったら、全てが嫌になって、もうどうにでもなれ!そう思ったら・・ここに来てた。不思議だ」
ヒロシもエミリを見つめ「どうして・・あの時俺をひとりにして去っていった?そこまでの男だったってこと?」
「・・バカ・・先生のバカ。私がそんなこと思うわけないでしょう。どれだけあの時先生の側を離れたく無かったか。先生の体の暖かみが今もエミリのここにあるわ・・」
そう言うとヒロシの手を自分の胸にあてた。
「ごめん・・俺、異常なまでに自信喪失でおかしくなっているんだ。だから・・エミリの気持ちも分からずごめん・・」
ヒロシはそう言うとエミリに優しくキスをし、抱きしめた。
「あゝ・・夢見てた・・いつかまた先生が私を抱きしめてくれる・・そんな夢見てた。うううー」
「泣かなくてもいい。俺もエミリが好きだから・・ね」
「うん。分かった。・・一緒に居てね先生」
「うん。できる限りだけど、君と一緒にいるよ」
二人は抱きしめ合いなかなか互いを離さなかった。
一方で恵美は・・
ヒロシの居場所は知っていたし、そこにエミリが居るのも分かっていた。おそらく恋に落ちていることも・・
それでも恵美は諦めずにいた。ヒロシが来るあの日を待っていた。ヒロシの廻る人生は終了していた為、恵美は1982年9月3日を待っていた。そこでしか今は接点が持てなかった。
恵美は毎日毎日同じ行動を繰り返していた。そうする事で気が紛れるのではないか?そう思った。
それからふた月が経過した。
ヒロシは新聞配達にも慣れ、喪失感も少なくなり多少の前向きさも出た。エミリとは内緒の関係だったが・・
ある晩に主任の奥さんがエミリに勉強を教えてほしいと頼まれ、一度だけエミリの部屋に行った。
「先生・・勉強はいいからイチャイチャしよ!」
「ダメだよ。ここは君の家なんだから・・絶対にダメ」
「大丈夫よ。お父さんは寝ちゃったし、お母さんももう寝ちゃうから・・」そう言うとエミリはTシャツを脱ぎ、ブラを外した。ジーンズも脱ぐとショーツ一枚になり、ヒロシのズボンのベルトを外してパンツまで下ろした。
「ほら!ここがしたい・・って言ってますよ」
そう言うとエミリはヒロシのxxxを咥え舐め始めた。その行為に我慢できずヒロシはエミリの豊満な胸を揉み、ショーツに手を入れた。エミリはショーツを脱ぐと、ヒロシの膝の上に乗りxxxを自分のxxに入れ感じ始めた。その時!!
「何やってるの!エミリ!そんな格好で!離れなさい!」
突然、エミリの母親が部屋に入ってきて、その場を見たのだった。さすがのエミリも母親に謝り、過去のヒロシとの付き合いについて説明した。
「話はわかったけど・・お父さんにはとても話できないわよ。谷君には悪いけど、ここを辞めてもらうしかないわ。」
「お母さん!何言ってるの?先生が悪いわけじゃないわ!私が望んでしたことよ!先生は何も悪くない・・うううー」
エミリは泣きながら母親に言った。だがヒロシは・・
「分かりました。主任の奥さんの言うとおりにします。僕が悪かったんです。未成年同士なのにこんなことを・・申し訳ありませんでした」
二人の事は全ての人に伏せられ、ヒロシが東京の予備校に専念したい・・との理由で新聞店を去ることになった。
「谷君・・短い間だったけどご苦労さま・・」そう言い主任が激励金をくれた。ヒロシにとっては手切金のように思えた。
その後・・ヒロシは行方を眩ました。エミリは母親の勧めでヒロシが配達していた区域を配達する手伝いをするように言われ従ったが、無論のこと泣き通す日々だった。自分のせいでヒロシを更に追いやってしまった・・と。
恵美はこんな事が有ったとは全く知らずにいたが、ある日、高校の同級生であった牛山が食事に訪れた。お父さんの快気祝いをする為だった。いろいろと今までの話をしていたが・・「ねえ恵美。知ってる?ヒロシの事」
恵美は知っていると思い「大学辞めたんでしょう?聞いたわ。今は新聞配達をしながら、次の大学を目指してるんでしょう」
牛山は小声で「それがさ・・先週、ヒロシのお母さんに会ったんだけど、ヒロシが新聞店でヘマをして、追い出されたんだって。それからい行方が分からなくて困ってるみたい」
恵美は洗い物の手が止まり「えっ!どういうこと?ヒロシ君が行方不明になってるの?・・」
恵美は余りの驚きで持っていた皿を床に落とし割ってしまった。「恵美!大丈夫?どうしたの!?」
恵美には信じられないことだった。ヒロシに9月になれば会える・・そう確信していたからだ。
「ねえ!今、どこにいるのよ!」焦って聞いた。
「あのですね、どこにいるか分からないから、行方不明って言うんでしょ!・・どこに居るのやらね」
ヒロシが新聞店を追い出された理由はあるにせよ。誰かに確認するしかなかった。次の日に恵美はヒロシが務めていた新聞店に行ったのであった。
「こんにちは!ごめんください・・」
「はーい!お待ちください・・」奥から誰か出てきた・・
「はい・・どちら様ですか?・・えっ?恵美さん?」
「しばらくぶりね。エミリちゃん元気だった?」
「一応は・・でもやっぱり元気ないです・・いろいろあって」
エミリは恵美の訪問に驚いたが、家族に知られまいと恵美を公園に連れて出た。
「遠くからどうしたんですか?急に?私に会いにきたの?」
「・・ヒロシ君のこと。知ってるでしょう?」
「先生・・」「そうヒロシ君はどうしたの!」
エミリは今までの話を恵美に説明した。
「先生は悪くないんです。私が先生に抱かれたいと泣きついて、一夜を過ごしたのが最初で・・。地元に戻れば、先生にもう会う事も無いって思い、つい先生を誘惑しました。
でも急に私の家というか新聞店にきて働き出したの。私嬉しくて仕方がなかった・・」
恵美は激怒していたが、ヒロシを探すのが第一と考え
「それはもういいわ・・その後のことを教えて!」
「ある日・・2週間ほど前に先生が私に勉強を教えてくれる機会があって、私・・先生の体を思い出して熱くなって、全裸で先生のxxxを私のxxに入れて、感じた瞬間に、お母さんに見つかって激怒されて、私がいろいろ言って謝ったけど、先生は自分が悪いと一方的に説明して、店を辞めていったの・・でも私とお母さんと先生しか知らないから・・広げないで」
更に激高した恵美は「ううう・・結局、ヒロシ君は誰にでも優しくし過ぎなんだわ。ていうよりお人好し・・」
恵美は泣いていた。あの時自分が別れ話をしなければ、エミリとも何も無かったし、店を追われるような事は無かった。そう思うと自然に涙が溢れて止まらなかった。
「あなたね!何をしたかわかってるの!ヒロシ君は純粋なんだよ。それにつけ込んで・・結果がこれよ!」
ついに恵美は切れてしまった。
「そうじゃないわ!そもそも恵美さんが先生を振ったからよ。私は寂しい先生を癒したかったの。それだけです。」
恵美は少し落ち着き「ヒロシ君が行方不明になってるいるの!今までは今まで・・今は1日も早くヒロシ君を探したいの!どこか心当たりはない?行きそうなところとか・・」
エミリは想像もしない事態に気付き「先生・・先生・・」
そう言うばかりで話にならなかった。
恵美はエミリが今ショックを受けていると言う事は、絶対にヒロシの行方を知らないと直感した。
「分かったわ!ありがとう。もうヒロシ君のことは忘れて!後は私が何とかするわ。もう帰って・・もう!!帰って!!」
恵美は心で思っていた。(ヒロシ君・・私のオッパイじゃ満足できなかったの。よりによって高校生のエミリを抱くなんて・・私だって我慢してたのに・・エミリに入れちゃったの?私に最初に入れて欲しかった・・あゝ・・そう思うだけで興奮するわ。ヒロシ君のxxxを思うとxxが濡れて来ちゃうわ)
そう言うとトイレに入り、自分のxxに指を入れヒロシを思ったのであった。「あゝ・・ああーヒロシ君のxxxを・・」
恵美はそう感じながら突然我に返り「ああ・・バカみたい私
エミリになんか嫉妬して、自分でオナニーするなんて!」
恵美はヒロシの行動パターンを考えていた。
(死ぬような人じゃないわ。親に迷惑をかけるのが嫌いだったから・・だとすると、別のバイトか?それとも 浮浪者かな?居場所が分からないわ・・)
ただ一つ恵美には心当たりがあった・・
「こんばんは!おひさしぶりです。オーナー!」
「やあ!嵐山君じゃないか!元気かね」
恵美はヒロシがバイトしていた音楽教室に行ってみたのであった。そこしか想定が出来なかった。
「オーナー?変なこと聞いてもいいですか?」
「何かな?なんでも聞いておくれ・・」
「・・谷君ですけど来ていませんか?最近ですけど」
オーナーは困った顔をしたが「ううん・・黙っていてくれと頼まれたけど、君だから正直に言うね。先週から来てるよ。僕の家に下宿してるよ。なんか大きなミスをしたようで、ここで働きたい・・そう言われたんだ。無論、谷君は誰よりも信用できる講師だから、理由は特に聞かなかったよ・・傷は深いようだしね・・今日は隣の教室で高校生の講師をしているよ。
嵐山君・・何があったか知らないけど、今は谷君をそっとしておいて欲しいな。彼はここでまた何かを掴むと思うんだ。」
オーナーはそう言いそっと隣のクラスを覗かせた。
ヒロシは生まれ変わったように明るくハキハキと生徒たちに、楽器の持ち方や、チューニング方法など、初心者向けに授業をしていた。そこにはエミリへの未成年者淫行や、大学を辞めざるを得なかった無様なヒロシは感じ得られなかった。
恵美はほっとしていた。ヒロシが投げやりの気持ちで最悪になっていたら・・そう考えると安堵したのだ。
ヒロシはドアの影に恵美がいることに気づき「みんな!ちょっと待っていて・・」そう言うとドアを開け「久しぶり・・恵美
なぜ来たんだ?何か用事でも?」
恵美は涙を流し「・・ヒロシのバカ。何で居なくなるの?私が探せなくなるじゃない!・・でも会えて良かった」
ヒロシは何故自分を探しているのか?分からなかった。
「後さ!30分で終わるから待っていてくれる?」
「うううん・・分かった」
授業が終わりヒロシは近所の喫茶店に恵美を連れてきた。
「良く分からないけど、俺を探してた?」
「牛山からヒロシ君のお母さんがヒロシが行方不明だって」
「ああ・・まあ昨日まではそうだった。でも夕方にお袋にも連絡してここでお世話になっていること伝えたから・・」
「どうして新聞店を勝手に出て行ったの?エミリちゃんのため?なの。後ろめたいから?」
ヒロシは薄笑いして「聞いたんだ?エミリとのこと。うん!後ろめたかった。エミリの両親にも、俺の両親にも。だってまだ十代だよ。なのに肉体関係持って更に、何する瞬間みられたんだから・・全てに後ろめたい気分だった。
正直、俺どうしちゃったんだと思ったよ。エミリを軽い気持ちで抱いてしまい、偶然とはいえまたエミリの家に下宿して、裸見たらその気分になった・・それは俺自身の心の弱さだった。
エミリのお母さんに叱咤され、貶されて自分がしたことの重大さが分かった。そうしたら急に我に返って、全てが馬鹿馬鹿しくなって、店を辞めていたよ。だけど後悔はしていない。エミリを好きだとか嫌いだとかじゃなく、欲望や欲求が勝手に働きそうなった。気持ちが何かに負けていた気がして・・もっと自分を堕落させないと、答えが分からない気もした。」
恵美は「エミリちゃんを抱いて満足したの?欲求や欲望は満たされたの?エミリちゃんを好きじゃなかったの?」そう聞いた
「好きだよ、今でも。彼女は優しいし、気が回るし、おせっかいでもあるから、俺にないものを持っていたんだ」
恵美はヒロシがどうやら自分が思うより、自分を責めていたのに気づいた。
「だけど・・そんなに良かった?エミリちゃんのxx・・」
「何を言うんだよ!抱いてりゃ・・良いの悪いもないよ。体が勝手に動いてしまう・・男だし」
「・・エミリちゃんのxxに出しちゃった?言われるまま出ちゃった?気持ち良くて出しちゃったの?」
「だとして!今更何を言いたいんだよ!」
「分かってないわ・・」「何を?」
「子供できたらどうするつもりだったの?養えた?責任取れた!エミリちゃんと一緒にずっと暮らせた!」
「・・言われるまま・・出ちゃったよ・・だからって関係ないだろ!俺がエミリとどうなろうと・・」
「確かに今は私には関係ないわ。でもね、同級生として言っておくわ。・・後悔する。絶対に・・将来。」
恵美はヒロシを刺激することに気をつけていた。過去の19歳のヒロシは他人から意見されると、心が沈み自分を追いやっていた。どうせ・・俺なんて・・そう考えてしまう悪い癖があった。ここは穏やかに話をしようとしたがヒロシは立ち上がり
「いい?もう君の話しは終わりで。この後も授業あるから」
そう言い店を出て行ってしまった。
心の傷・・深く、ヒロシをダメにしてる・・そう気づき、恵美は作戦を考えた。
既に8月で・・ヒロシが再度大学に行くように仕向ける方法・・
恵美は高校時代の担任であった木村を訪ねた。
「先生・・谷君ですけど、大学辞めたみたいで。先生は知っていますか?」聞いてみた。
「ああ!知ってるよ。谷には谷の考えがあったと思う。この高校のヒーローだったけど、大学で勉強で追いつけなかった自分が歯痒かったろうし、厳しい状況だろうな?」
木村は恵美がなぜ自分を訪ねてきたかを聞いた。
「嵐山・・話しって、谷のことか?なんでお前が?・・ああ・・付き合っていたからなお前たち。谷が心配か?」
恵美は小さく頷き「先生・・ヒロシ君を助けてください」
「おいおい!泣くなよ。話し聞くから。なあ!」
恵美は頼る場所が木村しかおらず、藁をも掴む心持ちで学校に来たのだった。
「先生!・・先生がヒロシ君を学校に呼んで再度、大学に行くように説得して下さい・・お願い」
木村は本人ではない恵美からの頼みに驚き、髪を掻きながら言うのであった。
「まあ・・谷が再チャレンジしたいと言うならなあ・・俺が勧めてもどうかなあ・・お金もかかり親の問題もある!」
「それは大丈夫です。ヒロシ君のお母さんからお願いされてるし、お金もなんとかできるって言ってくれてるの?」
木村は驚いた。恵美がそこまで既に話を進めていることに。
「うう・・分かったよ!連絡先を教えてくれ!一度話してみるよ。でもこれから修学旅行の予定もあるからなあ。」
恵美は笑い「大丈夫です。9月3日で予定して下さい。その日でヒロシ君を学校に呼んでください。修学旅行はその次の週ですよね?だから大丈夫です。」
「おお・・よく知ってるな。それになんで9月3日!なんだ?限定だけど谷は大丈夫かな?」
「大丈夫です。・・ただひとつお願いがあります。私が来てお願いした事は内緒にして下さい。お願いします」
「ああ分かったけど。なんでだ。別に言ってもいいのでは」
「拒否します。私が来てお願いしたと知ったら、きっと意固地になって話を断ると思います。私のこと恨んでますから」
そう言い涙した。
「おお・・分かった。分かった。泣くなよ。黙っておくよ」
恵美は木村に掛けた。先生の言うことであれば、ヒロシも真面目に心を開くと思った。
木村は音楽教室に電話をし、学校に来るように話をしたがヒロシは、誰からここに居るって聞いたかを気にした。
木村は牛山に頼まれた・・と嘘を言ったのであった。
牛山は親友であり、中学時代からのヒロシをよく知っていたので、木村に話をしてくれた事に感謝した。
恵美は牛山にも話を合わせるように、事前に依頼していた為、ヒロシからの電話にもそれらしく話をしたのであった。
9月3日・・ヒロシは何故か違和感が無かった。この日が必然のように感じられたのだった。
「よー!谷 来たか!・・大学辞めたのか?まあ、人生はいろいろあるよ!気にするな!」とヒロシの肩を叩いた。
「お久しぶりです。先生は相変わらずお元気で!」
木村とヒロシは1時間ほど話をした。
「先生・・分かりました。この大学に推薦お願いします。俺も遠くに行って・・自分を見つめ直したいです。頑張ります」
恵美の作戦は成功してヒロシは静岡の大学に進む事になった。
だが恵美のこの作戦がまたしても、大きく次元を歪みさせていくのであった。
エミリの登場でヒロシの行く末が変わってしまいそうであったが、恵美の機転でまた大学へ。どうなる恵美は!




