第二部 恵美 第一章本来の彼の姿と始まり
ヒロシは天に召され、恵美はヒカルと途方に暮れた。
最後の勝負を恵美は住人に頼み込み再度、過去に戻っていった。
第一章本来の彼の姿と始まり
愛するヒロシが去って三日が経った。
恵美はヒロシを再び失い、泣き通す日々で彼女の母も心配していた。
彼女にとってはやっとの思いでヒロシに再開し、ヒロシを苦しめた朱音の嘘が表沙汰となり、愛するヒロシとの生活に辿りついた。
「ヒカル・・パパのところに行きたい?ママ・・凄く辛くって耐えられない。突然・・私達を置いて行くなんて・・酷いパパ・・でも、ううう・・どうしてもヒロシ君に会いたい・・」
恵美はヒカルを抱きかかえ外に出た。十二月の寒い朝だった。
恵美はヒロシがまるでジグソーパズルの様に消えたその場所に来ていた。
恵美は意を決したように・・
「ねえ!裂け目の住人さん!私の声が聞こえるなら出てきて!・・出て来ないなら、このナイフでこの子と死ぬわ!こんなことになると分かって、ヒロシ君を連れて行ったの?。
ずるいわ!私の心にも少しは関心示してよ!・・お願いだから!もう・・
いいわ!分かったわ!・・・ヒカル・・ママと、パパのところに行くよ!」
そう言うと恵美は自分の胸に用意していたサバイバルナイフを勢いよく刺した。
血が吹き出しヒカルに血吹雪が掛からぬように気をつけた恵美・・どうなるのか。
その後、彼女は絶命する寸前にヒカルの首にナイフを一気に刺そうとした。だが瞬間だった・・
二人はあっという間に裂け目に飲み込まれた。
「ここは?」血まみれの恵美はヒカルが少し笑みを浮かべる表情を見て「ヒカル・・良かったね。もうすぐパパに会えるよ。嬉しいね。」
そう言って間もなく気を失った。
暫くすると恵美の前に裂け目の住人が現れていた。
住人はヒカルを抱き言った「お前も懲りないね。ヒロシがどんな気持ちでお前たちを救ったか?分かってないね。休ませてあげなよ!」
住人は激しく貶した。
「私は!・・決して諦めない。年をとってヒロシ君が私を見送ってくれるまで、一緒じゃなきゃ意味がないんです。それが私にとってヒロシ君にできることだから。・・ヒロシ君を返してください。お願いします。何でもするから、ヒロシ君を・・」
そう言うと泣きじゃくった。住人は困った顔をしたが、急に表情を変え「これからお前を送る次元は、ヒロシの第一の人生だ。無論、お前にとっても苦しい時代だ。お前はヒロシの壮絶な人生を変えられるかな?第一の人生では、ヒロシはお前に振られて自暴自棄になっていく・・荒んだヒロシを助けられか?それができなければ、ヒロシもこの子も失い最悪な結果となる・・どうかな?辞めればこのまま無傷でさっきの場所に届けるが。
恵美の心は決まっていた。きっとできる・・必ずややり遂げる。
住人は「心は決まっている様だな。ではヒカルは私が預かっておくよ。お前が失敗したら、この子は消える・・いいかな?では、目を瞑るがよい・・この裂け目が開いた瞬間から、お前の人生は始まる・・」住人はそう言うと恵美の前方に手を翳し(かざし)、恵美を突き飛ばした。「ヒカル・・必ずパパと戻るからね!待っていてね」
恵美は気がつくと1978年の9月に戻っていた。
「私まだ十五歳だわ・・なんでこんな子供に・・意味分からない」
そう考えて教室の机に座っていた。
教室の中では「おい!ヒロシよ!これ知ってるか?そう!ゴムパッチンだよ。頭出せよ!さあ!早く!」
クラスメイトの岡田と数人がヒロシの周りに陣取り、輪ゴムを指で引っ張りヒロシの頭に飛ばしいじめていた。
ヒロシは痛いのを我慢してじっと耐えていた。
別の日には定規でヒロシの腿あたりを引っ叩き、ヒロシはあまりの痛さに苦悶の表情を浮かべていたが、そのイジメにも耐えていた。
毎日の様にエスカレートするイジメにもヒロシは耐えしのび、決して反抗はせずやられるままだった。
中学2年の6月某日・・ヒロシは傘を差し帰ろうと校門を出たが、またもや岡田達に捕まり、傘を奪われて・・道路に薙ぎ倒され暴行を受けていた。土砂降りの中ヒロシは立ち上がれず雨に打たれた。
「谷君!大丈夫?怪我してるんじゃない?」
恵美はヒロシを抱きかかえ起き上がらせた。ヒロシはなにも無かった様に歩き出し、道を歩き出したが転び倒れてしまった。
恵美は心配になりヒロシを抱えて、バス停の屋根の下まで連れてきていた。お互いびしょ濡れだった。
「谷君・・大丈夫?」恵美はそう言うと鞄からタオルを出して、ヒロシの髪を拭き言うのであった。
「谷君・・どうして抵抗しないの?どうしてやり返さないの?このままだと・・谷君・・大怪我しちゃうわよ!」
「嵐山さん、ありがとう・・でもね俺を助けない方がいいよ。仲間だと思われたら君もターゲットになるよ!見て見ぬふりが君の為だ」
「それでいいの?今のままで・・悔しくないの!後悔しない!」
恵美はなんとか一日でも早く脱出して欲しいと願っていたが、後もう少し経過しないと、ヒロシは開花しない事を知っていた。
ヒロシはずぶ濡れの学ランのまま走って帰っていくのだった。
恵美は「私がこの時代に来た理由が分からないわ。放っておいても、ヒロシ君は私を好きになり、やがて栄光への道を進みだすわ。今の私に住人さんは何をどうすることを望んでいるの?」と考えた。
それから一月後・・
夏休みに入りヒロシは農家の手伝いと、野菜の出荷場のバイトをしていた。集荷場ではヒロシは各野菜を入れるダンボール箱の組み立て(ダンボールを折って箱型に成形する仕事)を主にしていた。日に1000箱程度を組み立てバイト料を日給で貰っていた。
ヒロシの当時の楽しみはそのお金で、洋楽雑誌を買って見る事だったが、本の価格が高価であった為、たくさん集めるには毎日の様に出荷場に通い詰めていた。
そんな8月上旬にいつもの様に本屋に行き、洋楽雑誌を買い帰宅しようとしたヒロシだったが、急に楽器店のショーウィンドウの中にあるフォークギターに見惚れていた・・「欲しいいな・・無理だけど」
ちょうどその光景を恵美が通りかかり見かけた。
「ヒロシ君・・この時から音楽に嵌りだしたんだわ。・・私がプレゼントしようかしら?・・ううんダメだわ。未来が変わってしまうわ」
恵美はギターを見つめるヒロシに歯痒さを感じていたが、今は見守るしかなかったのだった。
次の日の登校日・・
ヒロシは昨日購入した洋楽雑誌を自席で読んでいた。
「はー!ヒロシ!こんな英語の雑誌見てわかんのかよ!勉強できないお前じゃ意味も分かるわけないさ!」
そう言うと岡田はヒロシの雑誌を取り上げた。
「辞めてくれよ!返してくれ・・」
「うるせ!お前なんかにゃ、幼児雑誌がお似合いさ!」
岡田はそう言うと雑誌を真ん中から破り、ゴミ箱に捨てた。
「ヒロシ!悔しかったらかかってこいよ!どうせできないくせに!バーカ!」
ヒロシは悔しくなり「この野郎!」
と岡田に襲いかかったが、他の奴らにハガイジメにされ・・
「ほー・・俺にケンカ吹っかけるのか?いい度胸じゃないか。じゃあお望み通りにしてやるよ」
岡田はそう言いながらヒロシの髪を掴み平手打ちをし、それを何度も続け腹にも前蹴りをして・・ヒロシは口の中を切り、学ランのボタンも吹っ飛んだ。
「まったく・・俺たちに刃向かうなど、10年早いんだよ!」
日常的にイジメを受けていたヒロシは、いつの間にか痛みに慣れていたかもしれない・・。机には嫌がらせの落書きや、ロッカーには鼠の死骸を入れられたり・・それを自分で処理して、自分で消していた。ヒロシの表情に笑顔はまったく無かったが、泣いている素振りも全くなかった。イジメの境地に陥り、慣れっこになってしまっているようだった。
朝は一番遅く学校に来て帰りは、誰より早く下校するのだった。イジメを少しでも回避する方法だった。
ゴミ箱に捨てられた洋楽雑誌を拾い上げると、皺を伸ばし、裂かれた部分をセロテープで貼り合わせていた。
その時・・恵美が家庭科の実習を終え戻ってきた。
ただ独り席に座ってるヒロシは、破れた洋楽雑誌を何度も何度も・・皺を伸ばしていた。
「谷君・・口から血が出てるわ。あゝ痣も・・」
恵美はそう言うとヒロシの口の周辺をハンカチで拭くのであった。「・・いいよ。嵐山さん。拭いてもまた血は出てくるから」そう言うヒロシの様子を見て恵美は慌てた。
血はヒロシの口元だけで無く、鼻からも耳からも出ており収拾がつかない状態だった。・・どうやら腹を蹴られた事が原因らしく、その血が洋楽雑誌にポタポタと垂れていた。
さすがに恵美は放って置けず先生を呼んだ。
恵美と担任の迫田先生が来る頃には、ヒロシはばったりと机に伏せていた。「こりゃいかん!保健室じゃダメだ。俺の車で病院に連れて行く!」迫田はそのようにいいヒロシをおぶると、自分の車に乗せ病院に急いだ。恵美も同乗した。
病院に着き検査と治療が行われ、ヒロシは腹部強打による内臓出血を起こしていた。幸い命にはかかわらぬ程度だった。
ヒロシの母親が来て「先生・・イジメを知っているんですか?この子は家では何も言わないけど、毎回・・顔に傷をつけてたり、腕に絆創膏や湿布を貼ってるんです。いじめられるのも、この子にも問題があるかもしれませんが、イジメで命を落としたら・・それは犯罪です。だから注意くらいはして下さい」
そう迫田に話をした。
迫田はここまでエスカレートすると考えていなかった様で、「この事は学校内で問題定義します。イジメも犯罪である事をしっかりと指導します。申し訳ありません。」そうヒロシの母親に謝罪した。
恵美はヒロシの手を握って離さなかった。
ヒロシの母親は恵美に「どなたか分かりませんけど、ありがとうね。ヒロシのこと心配頂いて・・ありがとう」
「いいえ・・私も彼がイジメを受けていたのに・・単なる傍観者でした。だけど・・今はヒロシ君が心配で仕方がないです」
暫くしてヒロシは目を覚ました。
「母さん・・ごめん・・俺・・ううう」
恵美はヒロシの涙を初めて見た。よほど悔しかったのか?弱い自分が許せず涙したのか?・・想像すると恵美も泣けてきた。「ありがとう・・嵐山さん・・俺恥ずかしい姿見せて・・格好悪いよ。この事はみんなには黙っていて」
恵美は「分かった。・・でもいいのよ。ヒロシ君はきっと強くなるから大丈夫だわ。弱さは強くなるためにあるんだから!」そう言い恵美は泣いた。
病院からの帰り道・・
ヒロシの母親が恵美を車で家まで送ってくれた。
「恵美さん・・だっけ?ありがとうね。きっとヒロシはこの悪夢から目を覚ますと思うから、ずっと友達でいてやって下さい。」
「ええ・・ずっとずーっとヒロシ君のそばに居ますから。心配しないでください」
「ううん。良かったわ。本当にありがとう」
恵美には過去のヒロシがここまでイジメられていたとは気づかなかった。確かに単なる傍観者だったに違いなかった。
ただ・・ボランティア気分で・・「バカ!私のバカ!」恵美は自分を責めていた。
その次の日・・
恵美は病院にヒロシの見舞いに行った。そこには先に牛山が来ていた。
「あら、恵美どうした?ヒロシのお見舞い?」
「うん。牛山はどうしたの?」
「ヒロシのお母さんから電話があって、雑誌を持って行く様に頼まれたの。そう・・ヒロシの洋楽雑誌」
「ごめん・・牛山さん。重いのに持ってきてもらって!」
「いいの!夏休みで日曜日だし暇だったから・・」
恵美は「はい!ヒロシ君・・」そう言い雑誌を渡した。それは昨日、木村に破かれた本と同じ洋楽雑誌だった。
「・・いやまずいよ。新品なんて・・貰えないよ!」
恵美は笑って「いいの!でも気になるなら貸してあげる。退院したら返して!」
牛山も頷き「それがいいかもね!」
ヒロシは「分かった。じゃあ借りるね・・ありがとう嵐山さん」
「たいした事じゃないから・・気にしないで!」
牛山は「でも・・いつから恵美はヒロシを谷君じゃなくてヒロシ君って言う様になったの?」・・確かに疑問だった。
恵美は薄笑いして「いいじゃない(汗)!別に・・大した問題じゃないわ。それに私たち同級生だし、下の名前で呼んでも別にいいわよね!」
ヒロシは「俺は別に気にしない。嵐山さんが呼びたい様に呼んでいいよ。牛山さんも?あゝ牛山さんは今迄でいい・・かな」
そう言いながら笑った。恵美はヒロシの笑顔を久しぶり見た気がした。学校ではおそらく・・見たことないかも?だった。
3人は1時間ほど取り留めのない会話していたが
「じゃあ!私は帰るね!」と牛山が帰えっていった。
「2人ともバイバイ!」「うん!バイバイ!」
ヒロシと恵美の2人だけの空間は不思議だった。この様な空間は未だかつ無く、2人は黙ってしまった。
恵美は「じゃあ・・私も帰るね!」と・・
ヒロシは突然「嵐山さん・・もう少し居てくれる?この点滴が終わるまででいいから・・」そう言うのだった。恵美は「うん・・分かった。」
「ヒロシ君は洋楽雑誌が好きなの?いつも見てるし、凄く大事にしているみたい・・」
ヒロシは「あのね・・自分に無いものを人って欲しがると思う。俺は雑誌に写るジミーペイジやリッチーブラックモアやジェフベックを眺めて、ギターを自由に弾く・・そんな音楽だったり、イメージだったり、容姿だったり・・到底自分には無いこれらのものが、いつか・・いつの日にか自分にも持てれば・・きっと最高な気分だろうなって思う。だから雑誌を見ている時が一番幸せで、夢の中に誘ってくれてる様で嬉しい」
恵美はこれがヒロシの音楽の原点・・そう感じた。
「ヒロシ君もチャレンジすれば?いいと思うわ。ギター練習してるんでしょう?偶に視聴覚室でアコギを弾いてるところ見てたんだ。上手だったわ。だからいいと思うわよ!だって・・うん?これ・・から・・??・・うん?寝ちゃってる・・幼くて可愛い寝顔・・だわ」
恵美は眠るヒロシを見つめ「ここからだから・・決して諦めないで私のヒロシ君・・弱から強を学んで・・私、絶対に信じて待っているから・・」
そう言うと眠るヒロシにそっとキスをした。
(大好きだよ・・ヒロシ君)
恵美は中学3年となり、周りは高校受験でざわついていた。ヒロシのイジメは学校からの注意勧告と、ヒロシの学力向上による皆の見方に変化を生じ嫌がらせさえ無くなっていった。
「ねえ、恵美・・高校どこにするの?やっぱり神聖女子とか?恵美は学費に心配無いから、私立のお嬢様高校だよね?」
牛山は羨ましそうに言うのだったが、恵美は「いいえ!私は岩本高校にするわ。そう決めていたの・・」
「えっ!偏差値高いわよ!受かる訳無いから・・でも滑り止めで神聖女子とか?それに決定したの?チャレンジャーだね」
牛山は元々成績は良い方だったので、岩本高校に決めていたが、勉強苦手の恵美では無理だと分かっていた。
「私はヒロシ君と同じ高校に行く!・・そう決めたんだ。」
「ヒロシだって無理だわ。少しは成績は良くなっているけど、到底無理!私は断言するけど、学年で30番以内に入らないと絶対に無理だって!」
牛山は真剣な顔で恵美を訴えたが、過去の経験でヒロシも受かるし、自分も同じ高校に受かると分かっていたので、今は頑張るしかなかった。
半年後・・
最後の学力テストが行われた。
トップは無論、学校一の秀才である藤巻だったが、牛山も25番と好成績だった。
驚いたのは、恵美が29番だった事だった。
「恵美!信じられないわ!こんなに頭が良かったの?」「やれば出来るタイプなの!嵐山恵美ですから・・!」そう自慢するのであった。
「でも・・もっと驚愕だったのは・・やはりあれよね」「ヒロシ君でしょ!当たり前だわ!天性的に頭は秀才だから」
そうであった。ヒロシは藤巻に次いで2位だった。
特に英語と数学は100点満点で学年1位であり、藤巻とは僅か1点差だった。
「驚きだよね・・国語の漢字1問合っていたら、ヒロシが学年1位ってことよ。信じられないわ」
恵美は分かっていた。元よりヒロシは勉学では秀才であって、誰よりも努力家であった事を・・。
ただ・・ヒロシは顔色ひとつ変えず、図書館で黙々と勉強をしていた。
そこに英語の教員である柴山先生が寄ってきた。
「谷君・・どこで・・勉強してたのよ!先生驚きだわ」
「別に・・ただ・・先生。」
「なに?かしら・・」
「テストの問文の3番ですけど・・あの文章では(the)ではなく、大文字のThe・・だと思います」
「ああっはー分かった。直す時間なくて・・ごめん」
柴山は(まったく・・テストの文面の誤字まで見つけるなんて・・何なのこの子。藤巻君どころじゃないわ)
その時牛山が図書館にやってきて「ヒロシ!すごいじゃん。完璧だったわ・・2番なんて」そう褒め称えたが、ヒロシは
「何が?全教科満点でなきゃ意味ないよ。俺が目指すところじゃない・・だから凄くもない」そう言った。
「あああっ・・そうなの・・満点狙ってたんだ。はあ・・」
この様にしてヒロシは徐々にキラキラを見出していった。
1979年2月・・高校入試の合格発表があった。
ヒロシと牛山は問題なく合格した。恵美は・・
ギリギリだが合格したのだった。
「恵美!合格おめでとう!また同じ学校だね。よろしく!」「うん!ありがとう。牛山もおめでとう!」
2人は抱きあい喜んだ。ヒロシは合格を確認するとさっさとバスに乗り込んだ。
恵美もヒロシの後を追ってバスに乗り、そっとヒロシの横に座った。
「ああ・・嵐山さん、合格おめでとう!良かったね」
「ありがとう。ヒロシ君もおめでとう・・」
「うん・・ありがとう・・」
「なんか浮かない顔してるね。どうしたの?」
「・・なんかさ、満点で合格かと思ったけど、自己採点で2問間違いに気づいてダメだった・・悔しくて」
「えー!じゃあ498点ってこと?ちょっとヒロシ君・・天才なの?難しい試験だったけど・・」
「試験内容は大体わかっていたし、過去問を熟知してたから・・まあ、満点取れる自信があった」
恵美はどんだけ?天才なの?そう思った。
だが・・ヒロシにはこれが序章に過ぎない存在であることは、恵美が一番良く知っていた。
4月入学式が行われ、ヒロシと牛山のクラスはA組、恵美はC組とクラスは別れた。
恵美は過去にヒロシが話してくれたことを思い出していた。
牛山のカレーハウスに行き、ビールを少し飲み高校入学時のヒロシの心持ちを話してくれた事・・
高校入学時のヒロシはまだ背も低く、中学時代のイジメが心にあり、クラスで浮いてしまったこと。牛山だけが理解者だった。
オリエンテーション後に取り敢えずの学級員長を決めたが、ヒロシは積極的に手を挙げ級長になった。
その後・・3年間一度も誰にも譲らず学級委員長を務めた。
高校生になったヒロシは、相変わらず勉強熱心で常に学内1位を貫いた。女性陣はそんなヒロシに勉強を教えて貰いたいと列を作ってヒロシの元に群がっていた。
それもそのはずヒロシは一年足らずに、身長が20センチも伸びいつの間にか180センチを超えていた。恵美も長身であったが、いつしか見上げる身長になっていた。
それに加えて顔もクウォーターの彫りの深い顔立ちだったので、女子たちも羨望の眼差しだった。
恵美は「やっとキラキラし始めたわ・・ヒロシ君らしく」そう思うのであった。
六月に入り皆が部活動に入り始めるとヒロシは、陸上部に入り毎日走っていた。元々ヒロシは体が弱かったので、肉体改造をしたかったのだ。そして・・
ヒロシは親友である、マコトから誘われバンド活動を始めた。
しかもロックバンドでエレキギターとボーカルという離れ業・・無論
その秀才とロックバンドというギャップ萌えが、女性人の心を鷲掴みのにしていた。
「ねえ・・A組の谷君って、凄過ぎじゃない!学校一の秀才で長距離ランナーに、ロックバンドのボーカルなんて・・信じられないわ!それにスラリと伸びた容姿に色黒の彫りの深い顔・・完璧すぎる。好きにならないのがおかしいくらい」
「でも知ってる?彼って彼女もいないし、女性に興味無いみたい・・私が教えちゃうかな?女って・・こうよ!って」
休み時間はこの様にヒロシの話が話題に上がっていった。
だが恵美は心配していた。ヒロシの女神に自分がなり損ねたという事を。学ランのフケを払って、ヒロシが恥ずかしそうに赤くなった事件はなかった・・
「ヒロシ君・・私はあなたとの接点を持てなかった。だから・・来年の3月にあなたに告白してもらうチャンスを失ってしまった。どうしたら・・いい。でも好きヒロシ君」
恵美はこの状況を変えられず、ヒロシと付き合う事ができない歯痒さに打ちひしがれていた。
1979年9月・・
学園祭が行われた。
牛山と恵美は露天でポップコーンを販売していた。
「恵美・・後でヒロシのバンド見に行こうよ」
「うん・・でも怖い。」
「どうして?怖い?だなんて?」
「だって・・ヒロシ君の周りにはたくさん女子がいるでしょ?だから・・ヒロシ君が私に気づくかどうか・・怖い」
「ああ、また始まった。恵美のヒロシ恐怖症・・ヒロシは誰のものでも無いでしょ!単純に見て聞けばいいでしょ」
確かにそうだった。別にヒロシが自分に対して、格別気にかけているわけでもなく、友人として見ればいいと。
「じゃあ・・後で観にこう!」
「そう言えばヒロシがさ、中学の謝恩会で・・」
「あれね!知ってるわ。山中君の例の件ね!」
「何で知ってるの?私、恵美に話したっけ?不思議」
恵美はまずい!と思ったが、つい知っていると口走った。
本来・・山中にギターをヒロシが教えていたという話は、中3の2月に牛山から聞く話だったが、次元が少しズレてタイミングが今となっていた。
あの時・・視聴覚室で山中にギターを教えているヒロシを見て、(山中にイジメられていたのに・・凄いし、誰にもできない・・そう思って謝恩会で泣いた事)
恵美は今朝、過去の様にラジカセで自分の肉声を録音していた。以前と同じ様に・・
「今日は1980年9月・・」同じ話を録音したのだった。
(今の次元では違ってしまってるけど・・同じ様にヒロシ君が私に歌を歌って欲しい・・)そう願っていた。
彼との出会いが歪み、自分を好きになるきっかけを失ってしまったと恵美は悩んでいた。
だが・・事は意外な方向に進むのであった。
午後の体育館・・
「えー・・では今日のメインイベント・・ヒロシバンドの登場です。格好良くいきましょう!」
ステージにヒロシとマコト含め4人で現れると、会場からは歓声と黄色い声が響いた。
「谷君〜ん!きゃーきゃー」
恵美と牛山もステージの後ろの方に陣取って観た。
「ヒロシったら・・宇宙人なのかしら?中学時代とは雲泥の差だわ・・どうしたらここまで変化するのかしらね!」
牛山は驚きを隠せなかった。
恵美もすっかり彼らしくキラキラした、谷ヒロシに見とれており「すごく格好いいわ!私もきゃーって言いたいくらい」
ヒロシ達は楽器の準備をすると・・
「こんにちは・・谷です。先ずは聞いてください。Barm」
ヒロシ達はディープパープルの楽曲を演奏して、ヒロシが高いキーの歌を英語で完璧に歌いこなした。
観ていた女子から声援がひっきりなし続いた。
ディープパープルやレインボーの曲をメロディーで3曲ほど披露し演奏後にヒロシは話始めた。
「最後の曲は僕のオリジナルです。・・昔、僕はいじめられた過去を持っています。理不尽なイジメで完全に心が死んでいました。そんな時に僅かな光が見えて・・その方向に向かって我武者羅に進んだ結果が今のこのステージです。その一筋の光は、僕の生きる力で、僕にとってかけがえない光です。その光・・というか、その人を思って作りました。聞いてください・・この会場の何処かにいるかもです・・ARASHI」
ヒロシはギターをエレキからアコギに変え、C基調のスローなバラードを弾き始めた。ベースが重なりドラムのタムが参加し、歌い始めた・・
ARASHI
<傷つき 失った心に風が吹き
守ってくれた 君の音という声・・>
(恵美の心の中:私の曲・・昔ヒロシ君が私に贈ってくれた曲・・)
<目を瞑る俺に 優しく口づけした君
忘れていた 生きることと愛すること
First Love 僕の心の迷いが解け・・満ちる
あゝ 好きだよ・・
あゝ 一緒にいて欲しい 抱きしめるから
怖くない 君といれば
怖いのは 失うこと 君が涙すること
きっと・・分かってくれるさ>
ヒロシの甘い歌声と切ないバラードで、会場の女子は薄っすらと涙するものもいた。
恵美は号泣してしまった。耐えられなかった。
この曲はあの第一の人生で、恵美の為に作った曲だった。
(ヒロシ君・・忘れてなかったんだ。私のことも・・この曲も全部・・必然なの?)
ヒロシは歌い終わるとステージを降り恵美の側に駆け寄った。
恵美は驚いたがヒロシをしっかりと見た。
「恵美さん!ずっとこの瞬間を待ってました。俺は君が好きです。最初に会った時から好きでした。あのキスも忘れていません」「えっ?気付いてたの」
「俺・・不器用だけど、君と一緒に居たい。だから付き合って下さい。よろしくお願いします。」
恵美は再び号泣してヒロシに抱きついた。
「うん!私もヒロシ君が大好き。一緒にこの道歩こう。付き合います。よろしくお願いします・・」
何故か会場からは拍手がおきた。
信じられなかった・・全く素振りも見せずに突然に好きだというヒロシに・・恵美は何が起きたのか?と狐に摘まれた様だった。でも・・今また、私のヒロシがここに居る。それが最高に嬉しかった。
学園祭が終わり夕刻の帰り道・・
ヒロシは言うのであった「不思議なんだ・・」
「何が?」
「さっきの・・俺、君に告白する運命だったのかと・・そう思っちゃって不思議なんだ」
「いいえ。ヒロシ君は私を探してくれたんだよ。私が迷子になって困っていたら、ヒロシ君が私を探しに現れてくれた」
「そっか。でも・・言い難いんだけど・・」
「何が?言い難いの?」
「さっき君に抱きつかれた時、君のオッパイがあたって・・かなりのボインだなあって思った。柔くて気持ち良かった。変態?かな俺って?」
恵美は笑って「変態かも・・でもヒロシ君だったら触ってもいいわ。・・触ってみる?」
「おい・・冗談はよしてくれよ。恥ずかしい」
「じゃあ・・キスしてくれる?」
「えっ!さっき告白したばかりで・・キス?」
「嫌ならいいわ!」
「そんなことない!嫌じゃない・・」
ヒロシは恵美の肩を抱くと目を見つめて、恵美に自分の額をあて「恵美さん好きだよ・・」
そう言い優しくキスし抱きしめた。
「あゝ・・やっぱり・・オッパイ大きいや。」
「変態!だったらこうする?」
そう言うと自分の胸にヒロシの手を持っていった。
「いいよ・・触っても。ヒロシ君にあげるから・・」
ヒロシはゆっくりと胸を触り「柔らかい・・君を感じる」そう言った。
恵美はそっとブラウスのボタンを上から外し、林の中にヒロシを引っ張った。
「どうしたんだよ」ヒロシは焦って聞いた。
恵美はブラウスのボタンを全て外し、ヒロシの手のひらを自分のブラに乗せた。「触っていいわ・・好きだからいいの」
そう言いブラの隙間にヒロシの手を入れた。
ヒロシは黙って恵美の胸を触り「暖かい・・なんか不思議に落ち着く。イジメを受けていた時に、俺を叱る君の声を聞いて、構わないでと言ったけど、本当は死ぬほど嬉しかった。
嬉しくて・・君の声が俺を癒していた。そう気付いたよ。」
恵美は思った。学ランのフケをはらった時ではなく、あの瞬間が二人の出会いであり始まりだったと。
「胸・・もっと触っていいわ」そう言うとヒロシにキスした。
ヒロシはゆっくり恵美のブラを外し、手で優しく揉んだ。恵美は少し感じて「あゝあゝ―」声が出てしまった。
「ごめん・・未だ高校生だった俺たち。変なことして・・」
ヒロシは恥ずかしがり、恵美の胸から手を退けた。
「ヒロシ君・・恥ずかしい?私とこんなことしたら?まだ子供だから・・でもね、私のこのオッパイはいずれ誰かに揉まれて・・吸われて・・体を全部あげちゃうんだよ。だから・・誰かにあげるより、ヒロシ君に全部あげたいの・・」
ヒロシは嬉しくなり「じゃあ!このオッパイは俺が独り占めできるってこと・・やったー!ボインを独占だ!」「ヒロシ君のバカ・・」そう笑った。
二人は制服を整えバス停に向かい歩いた。
「さっきヒロシ君が歌ってくれた曲・・とても素敵だった。まるでヒロシ君が私に告白するみたいだった。嬉しくて泣いちゃったわ。恥ずかしいけど、ヒロシ君とずっと一緒に居たい。だから私を振ったりしないでよ。ねえ!」
「まったく・・今付き合ったばかりでボイン触ったばかりじゃないか。変なこと言わないでよ。俺は結構一途なんだから」
恵美は心で(言わなくても良く知ってる・・)そう言っていた。
2人は手を繋ぎバスに乗車した。ヒロシは恵美を見つめて言うのであった。
「ねえ・・君の胸にもう少し手をあてていい?」
恵美は少し笑い「よっぽど私のオッパイが気に入ったのね」
そう言いヒロシの手を制服の間から入れ、恵美が自分の手を上から添えた。
「・・揉まないでよ。バス中だと声出せないから・・」
「うん・・分かった。」そう言いながら少し揉んだ。
その後到着まで手を離さなかった。
恵美 17の秋だった。
その晩・・恵美はラジカセに肉声を録音した。
「今日は1980年9月x日の夜10時です。遂にヒロシ君が私を好きって言ってくれました。嬉しくて嬉しくて・・
私の・・オッパイ好きみたい。私も自信はあるけど、小さいのも好きだった気もする(笑)。だけど・・ヒロシ君!私のオッパイだけにしてね!他の人のはダメだから・・分かった?!
大好きだよヒロシ・・きゃー(恥)言っちゃった」
恵美はヒロシから告白され、予定通りのストーリーに次元を進んだ。
ただ・・これからの悪夢を知らずにいた。




