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折に触れて廻る・・間違いだらけのタイムリープ  作者: 馬場 ヒロシ


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第一部 第五章  終焉 ・・銃弾

恵美との初恋を実らせたヒロシは、バンドサポーターとして働き始める。

ニューヨーク海外公演に同行し、バンドを裏方としてサポートする。

また新婚旅行も兼ねていた為、恵美も同行するが・・

第五章  終焉 銃弾


ヒロシはバンドサポートとして海外に行く事もあり、心身ともにすっかり元気を取り戻し、仕事もまさしく順調だった。

恵美と結婚したヒロシは毎日が幸せそのものだった。

「恵美さん!奥さん!出かけますよ!」「ヒロシ君待って!化粧してるから・・」

「化粧なんて適当にパッパとして!自でも綺麗なんだし、いいの!」

今朝はアメリカへの出発の日だった。

「そうはいかない!ヒロシ君の奥さんなんだら、みんなに見せびらかせないとね!」

ヒロシは「はー・・分かったから急いで、飛行機に乗り遅れちゃうよ。まったく!」

「お待たせ!ごめんね・・??何見てるの?」

「やっぱり・・俺の奥さんは世界一可愛いくて美人だなあって、惚れ直してた・・」

「まったく・・ヒロシったら、当たり前でしょ!天下の谷恵美だもの!」とポーズを取るのであった。

「あゝ・・冗談はよして、急ごう!」恵美は頬を膨らませ「えっ!冗談だったの?ちょっと・・」

毎日が楽しかった。恵美との生活は中学生からの夢であり、願っても叶わない夢だと思っていたヒロシにとって、人生の頂点だった。

「いいか・・恵美!飛行機では靴を脱ぎ、静粛に搭乗するんだ。いいな・・」「馬鹿!そんな北の国からの吾郎さんじゃあるまいし・・」「ばれた・・!」

「まったく・・ヒロシったら、私が何も知らないと思って馬鹿にするんだから。」

ヒロシにはこんなつまらない冗談でも、恵美と一緒に笑えるのが、幸福の証だと感じていた。

空港に着きスタッフに挨拶をした。「おはようございます。少し遅れてしまいすみません」チーフの前田さんが「ほー・・噂には聞いてたけど、美人だね奥さん・・」上から下までの舐めるように見た。ヒロシは「まあ・・普通よりはマシと言うか、ブスではないですと、自分の後ろに隠した。

恵美とは新婚旅行を兼ねての海外出張だったが、恵美は大喜びして、この日を待ち侘びていた。

「そう言えば、ADはどうした?下っ端が一番遅いなんて、ディレクターがしっかりしていない証拠だな!そう言う前田さんだった。

「ディレクター!先に搭乗手続きするから、ADが来たら追っかけてきて」ディレクターは困った様子だったが、「分かりました。先に行って下さい。」ヒロシ達は早々に搭乗手続きをして席に向かうのだった。

「見て!ヒロシ君!ビジネスクラスってこんなに広いの?びっくりだね。」「恵美さん・・声は小さめにお願いします。恥ずかしいので・・」恵美があまりのもテンションが高かったので、ヒロシは少々恥ずかしかった。「あれ・・ヒロシ君・・なんか私のこと恥ずかしく思ってる?」と小声で言った。

「ううん・・いいんだ。嬉しいんだから仕方ないよ。」

「だよね。だよね。初めての海外だし、ヒロシ君と私一緒だからテンション上がるよね。」「・・・うん」

二人を乗せた飛行機はニューヨークに向かって出発したのだった。


ニューヨークに着いたヒロシと恵美は、メンバーとコンサートが行われるホールに来た。そこは一万人ほどの席数があり、音響的にも最高レベルの場所だった。

ホールでディレクターはADに対してかなり怒り伸暢だった。「お前は!大体!仕事を何だと思ってるんだよ!舐めてるのか?!我々の仕事は・・」怒りが収まる気配はなく、10分以上に渡り叱り続けていた。

見かねた前田さんが「もういいじゃないの?反省してるよ。彼女だって・・ねえ?」そう慰めた。

ヒロシと恵美は女性のADなんだと思った。背は小さくダブダブのトレーナーにヨレヨレのジーンズ姿で、如何にもアシスタントディレクターって感じだった。そのADは深々と帽子を被り、何度も頭を下げていた。

ヒロシはバンドメンバーの音合わせに参加して、恵美は客席からその様子を眺めていた。ヒロシは各楽器の音響やイコライザーやBASSやコーラス機器を調節していた。「谷くん・・三章節目の十六音符のところ、ワウ(音を揺らす機器)をかけてくれる」ヒロシは「はい!分かりました」そう受け答え、ワウの調整をしセッティング完了した。「谷君!キーボードのセッティングも頼むよ。」ヒロシはくの字に並んだキーボードのイコライジングをした。一音づつ確認しながら、調整をしていた。その際にアンプに繋がるケーブルがやや短いと気づき、「ディレクター!これより長いケーブルありますか?ちょっと短いので、変えておいた方がいいと思うんです」ディレクターはADに「おい!長いケーブル、backyardから持ってこい!早く!」ADは「はいー!」と返事をして走っていった。五分くらいで戻ってくると「これでいいですか?」と巻かれたケーブルを肩に掛け戻ってきた。「それでいい・・早く持って行って!」ADはケーブルを担ぎながらステージに上がって、ヒロシの元にケーブルを届け「遅くなりました」そういうと物を渡した

「ありがとうございます。少しだけ手伝ってください。そのケーブル解いて、先端をあのアンプに挿してあるケーブルと挿し替えてもらっていいですか?」

ADは「・・はい。分かりました」ケーブルを解き伸ばし始めたADは、アンプ迄ケーブルを伸ばし挿し替えをしたのだった。その瞬間!キーン!!という爆音というかハウリングが起き、皆が耳を塞いだ。「馬鹿やろう!早く!ケーブル抜いて!」とディレクター。彼女は挿し替え先を間違えて、ギターアンプに挿してしまった為、キーボードとギターでハウリングをさせてしまった。「いや・・俺がちゃんと挿すところ言わなかったから・・ごめんね。ADさん」ヒロシはそう言ってADを庇った。「谷君・・そんな奴庇う必要ないよ。毎度ヘマやらかすんだから・・まったく」ADはヒロシに深謝りしステージを降りていった。ホールの端で無論、ディレクターに何度も叱られていた。

15時過ぎに近くのレストランで、ヒロシと恵美は遅い昼食食べていた。

「このステーキぶ厚いよね!さすがはアメリカって感じ。ご飯でなくパンというのが残念だけど。」恵美は相変わらずのテンションだった。

「そう言えば、さっきのADさん、幕尻でパン齧ってたよ。給料が安くて大変かもね。」「そうだな。昔、ADの給料ってバイト代みたいだと誰かが言っていたっけ・・(朱音の話だったかな?)二人は食事をし会場に戻った。

イベントは十八時開演だった。少しづつ会場前が賑やかになってきた。

そんな時・・「谷君・・佐藤を見なかったかい?」と前田チーフが聞いてきた。「いいえ。僕たちは外で食事してましたから・・」前田さんの話だと、公演一時間前だというのに、どこにも佐藤さんが見当たらないという事だった。

「まずいな・・キーボード無しじゃライブ中止だよ。」と慌ていた。公演三十分前でも佐藤さんは見つからず、中止が決定的になった。

恵美は「ヒロシ君・・なんかヤバそうだね。このまま中止って事かな?」ヒロシは何を思ったか前田さんのところ行き「前田さん!今日はほぼ満員です。この僅かな時間で中止したら、暴動が起きかねません。キーボード抜きで始めたたらどうでしょうか?」

前田さんは「さすがにキーボード無しじゃ難しいよ。今日はやっぱり中止にしよう。残念だが」そう言うのであった。そこに恵美が割り込んできた。

「前田さん・・キーボードならうちのヒロシ君ができますよ。」と言った。ヒロシは「いやいや、すいません。うちのが余計なこと言って。冗談ですから。・・余計なこと言わないの!君は黙っていて!」

恵美は「だって・・家では全部弾けていたじゃない。完璧だったよ。」「家とここは大きな差があるの!黙っていて」ヒロシはそう恵美の発言を呈した。

前田は少し考え「よし・・イチかバチかでやってみよう。谷君頼むよ。」

ヒロシは目を丸くして「いや、ダメですって!僕は素人なんですから・・お客様にバレますよ!」「だから・・イチかバチかなんだよ!この公演潰れたら、うちの事務所が大損なんだら・・谷君頼むよー」

さっき迄は中止する気持ち満々だったのに「さあ・・よわったよ、恵美さん・・どうしてくれる!責任とってよ!まったくもう〜」「やったー谷ヒロシのデビューだ。」恵美は両手をあげて大喜びしたのだった。

プロデューサーから会場へ挨拶があり、正直な話をした。キーボード奏者がサポートメンバーである事を。客席が少し騒めき、その後に少しだけ声援もあった。

ヒロシはガチガチに緊張して、汗が止まらなかった。「ヒロシ君・・」「なに・・ハー緊張する・・」「思えないかも・・だけど、お客さんをみんなカボチャだと思えば、緊張しないよ!」「バカ!到底そんな事思える筈ないだろう。ハ〜」恵美はヒロシを幕尻に引っ張っていき「じゃ!これなら・・」そう言うとキスをしてきた。「って・・誰かに見られるよ」「大丈夫・・幕に包まってるから。」そう言うと長めのキスをヒロシにして、さあ!と勢い良く背中を押した。

「奥さんは、客席に行って下さいね。ここはスタッフ以外、立ち入り禁止だから。」と前田が言うのであった。恵美は「はあーい!」と明るく答え、ステージ袖から降りていった。

ヒロシはガチガチだったが、恵美からの応援キスで俄然やる気が起き「破れかぶれだ!」と言いながら、キーボードの椅子に座った。

前田は英語で「皆さん、キーボードが急遽の熱で、今日はサポートメンバーのヒロシ・谷が担当します。よろしくお願いします!彼も相当な腕ですから、是非期待して下さい。」と余計なことをペラペラと喋った。

一曲目の曲が始まり、ヒロシはコードのみを弾く一曲目が楽で良かった。二曲目、三曲目と進み、キーボードがメインのイントロが始まった。しかしヒロシは緊張もせずに、優麗に弾きこなした。曲が終わると大きな歓声が起き、ヒロシを讃えた。ヒロシは大きくお辞儀をし、観衆に応えたのだった。

恵美も大喜びで「きゃーヒロシ!私のダーリン!」そう叫ぶと、周りの観衆が「you a wife?」と

偶々、偶然にうまく演奏できたヒロシだったが、恵美は大きく勘違いしたのであった。

公演後・・「谷君!最高!どこで覚えたんだよ!」前田さんは大喜びしたがヒロシは「全然ダメです。僕が目指す旋律に程遠かった。これが、プロと素人の違いです。本当は前田さんも分かってるでしょう?」

前田は上を向くと「・・全く、谷君らしいなぁ。そうりゃ!佐藤に比較したら・・そう思うよ。でもね、お疲れ!君のおかげで助かったよ。ありがとう。」

その話を聞いていた恵美は「なにがダメだって?ヒロシ君完璧だったよ。落ち込む事ないよ。」

「恵美ありがとう。でもね、音楽で食べていくには、努力だけでは出せない音があるんだ。それは・・人によって違うし、いつその音に出会えるか?にもよる。だから・・素人は素人なんです。だから俺はサポートメンバーで頑張っている。いつか・・きっと、自分の音を見つけられる・・そう思ってるから。」ヒロシはそう言うと恵美の肩を抱き、今日の満足感を笑顔で表現した。


ホテルに戻った二人は楽しみだった、窓からの摩天楼を眺めた。「なあ・・恵美。俺って弱虫だったよね。みんなに嫌われて、イジメ受けて、抵抗も出来ず情けなかった。だからね、自分が好きな事を仕事にできたら、きっと自己満足や相手にしなかった奴らが、目を丸くして驚き、見直してくれるだろうなって、そう思って学生時代もこの仕事でも信じてやってきた。これって間違っていないよね?」

恵美はヒロシの肩に頭を乗せ「ヒロシ君、そんな事考えてたの?・・そうね、弱虫だったよね。雨の日も傘を奪われて、びしょ濡れで帰っていってた・・みんなに馬鹿にされても、貶されてもただ耐えてたよね・・・。でもある日ヒロシ君を見たら洋楽の雑誌見てて、この子って洋楽に興味あるんだと思った。そしたら、謝恩会の発表の為に困っていた、山中君にギター教えていたよね。あの光景が私には、どうしても忘れられない・・人って弱さがあって、強い人が威張って、弱い人を支配する・・だけど弱さが強気を産むって、あなたを見てて分かったんだ。本当の強さって、最終的に弱いからこそ、強くなる為にあるんだって。だって!ヒロシ君の高校生時代は、そのものだったよ!いつのまにかキラキラしてて、笑みも優しくて、誰にでも対等に言葉を掛けられる。生徒会に参加したり、学級委員長は三年間ずーとだっけ?昔を知っている人が見たら、嘘だと思うし、見方が変わるよ。」

ヒロシは当時のことを思い出し「そんな格好いいもんじゃないよ。抜け出したかった。ダメな自分から・・弱い自分が嫌だったから。でも抜け出せたら恋をした・・ここに居る君に」恵美の髪に触れ、「初恋がなかったら・・そうも思う。君が遠くに存在したらどうしたかなって思う。恵美は遠い存在で一生・・手が届かなかった・・そう今も思ってる」恵美もヒロシの髪を触り「じゃ!遠くなくて良かったね。私ね・・ヒロシ君にあの日別れ話しした理由言ってなかったけど、ずーと怖かった。私のために頑張ってきたあなたが眩しかったけど、それよりも私がヒロシ君のこれからをダメにしたら・・どうしよう?そう思って、心にもないこと口走ったよ。私って我が強ういというか、独占欲が強くて、ヒロシ君がダメになったらどうしよう・・そんな馬鹿なこと考えていた。ごめんね、黙っていて」ヒロシはこれまでの恵美の態度や、話の内容で分かってはいたが「ううん・・いいんだ。君には何度も振られた。でも・・もしかして?っていつも思っていた。だから今が幸せだからいいんだ。もう」

ヒロシは立ち上がり「汗掻いたから、シャワー浴びてくるね。君もだろう」そう言いながらバスローブを用意していた。

「うん、先に入ってきて。私、テレビでも見てるから・・」

ヒロシはシャワーを浴びながら「しかし・・もう一息だな・・俺の音。どこが違うんだろう・・」と独り言を言いながら髪を洗った。シャンプーが目に入って「いてて・・」と。

その時・・シャワー室の扉が開いた。「うん?・・誰?恵美?」ヒロシはゆっくり目を擦ると、裸の恵美が立っていた。「おお!びっくりした。そんな格好で来ないでよ。目のやり場に困るよ。」

恵美は「だって!テレビを見ても英語だし、チャンネル回したら嫌らしいビデオ流れるし・・だから私もシャワーでーす!」そう言うと恵美はヒロシに裸のまま抱きついた。結婚はしているが、こんな激しい場面は初めてだった。「ヒロシ!よそ見しないで、私を見なさい!どう?いいでしょう!」当たり前だった。恵美の体型は胸が大きく、ウェストは締まっており、お尻も小ぶりだったが、割と大きかった。

「分かったから!一度放そう!頭洗えないよ」「私が洗ってあげる・・」そう言いながら恵美はヒロシの頭を優しく洗った。恵美の裸がチラつき、ついムラっときたが我慢した。「今、ヒロシ!私にムラっとしたでしょう?分かるんだからね。だったら・・」と恵美はヒロシの手を自分の胸に持っていった「ア〜ン。感じるヒロシ・・」ヒロシは我慢の限界がきて、その場で恵美を抱いた。シャワーの音で声は掻き消された。バスローブに着替え恵美は「ヒロシ君・・今日はすごーく激しかったね。なんか・・興奮して気持ちが良かった・・」とワイセツな言葉を連発した。

「夫婦だから・・」ヒロシは照れながら言うのであった。二人はワインを少しだけ飲みベッドに入った。「ねえヒロシ君・・もう一回しない?」恵美はまた要求してきた。ヒロシは困っていた。「だって新婚旅行でしょう。だったら初夜でしょ。ねえ!そうでしょ?」確かに結婚はしたものの新婚旅行を兼ねた出張だが、いわゆる初夜ではあった。ヒロシは「別に初夜でも、今日が初めてする訳じゃないし・・再度付き合って三日目にしたよね確か?十九の時?」

「ヒロシはデリカシーがないわね!それはそれ・・今日は特別の日でしょ。」そう言うのだった。ヒロシはバスローブを脱ぎ、恵美のいるベッドに入った「もう一回だけだから・・ね」そう言うと「恵美のバスローブを脱がせ、顔を恵美の大きな胸に充てた。ヒロシは思っていた。恵美の裸体が自分を吸い込むように感じ、キスをしても、全身を触れ合っても、決して誰のものでもない、自分の恵美だと・・恵美は今まで以上にヒロシと愛し合った。何度も何度も・・絶対に離さないように。

「ねえ、ヒロシ君・・」「ん?なに?」

「前の奥さん・・朱音ちゃんと私どう?比べて・・」

「えっ!なにを言うかと思えば・・言える訳ないでしょう。君と彼女を比べるなんて・・」

「私・・彼女に遅れをとったから、必死だった。早くヒロシ君の気持ちを私だけのものにしたかった。セックスもしただろうし(怒)、お風呂だって一緒だったろうし。でも一番は心・・私の心とヒロシ君の心が繋がることが大事だった。体の愛だけだったら、長く持たない。でも心は嘘つかないから、ヒロシ君の心が欲しかった。

ヒロシは本当に自分を心配していてくれた・・そう思った。第二の人生では、爪弾きされ、第三の人生でもヤキモキして、それでも自分を待っていてくれた。それが一番嬉しかった。「恵美・・愛してる・・それに俺の全部を君にあげるから、君の全部を俺にくれないか・・」恵美は少し真剣な眼差しで「うん・・」そう言ってくれた。ヒロシは「比べなくても、もう分かるよね恵美には」恵美は少し微笑みながら「分かる・・」と言って、今度はヒロシの下半身のものを掴んだ。「あゝ・・もう・・一ラウンド?」恵美は小さく頷いた。どうも二人は本物の夫婦になったようだ。


次の日・・妙なことが起きた。キーボードの佐藤さんが戻ったのだが、どうやら睡眠薬か何かで眠らされ、さっきまでどこかに監禁されていたということが発覚した。警察が来て詳しい状況を確認していた。佐藤さんは昼のご飯を食べて、控え室で雑誌を読んでいたが、耐えれないような眠気に襲われ、気付くと目隠しをされ、どこわからぬ場所に十五時間くらい監禁されていたらしい。「佐藤、何か気になる事は無かったのか?昨日の昼間に誰かが薬を仕込んだとか?」佐藤さんは「気付いた事あれば警察に話してますよ。警察にも言いましたけど、監禁されている時に何故か・・うっすらとキーボードを鳴らす音だけ聞こえてました。まるで誰かが練習するかのように。でも・・結構上手かったですが、プロの音ではないと感じました。」誰が何の目的で佐藤さんを拉致したのか?不明のまま二日目の公演が始まり、大喝采のまま終了した。その日の夜は明日の最終日に向け、ヒロシ達スタッフは遅くまで、準備に追われたのだった。恵美も待っていたが、遅くなるのは危険だと思い、他の女性スタッフと共にホテルに向かわせた。

夜中一時過ぎに準備万端となり、その後に夕食を摂りに簡易レストランで食事をすることになった。軽くビールも飲み、二時過ぎに帰ることになったが、ADが酔い潰れ皆が困り果てていた。ヒロシは持ち前のお節介で彼女を簡易ホテルに他の女性スタッフと送って行くことにした。店を出たが、もう一人の女性スタッフが忘れ物があると取りに行き、困ったヒロシはADをベンチに座らせ、スタッフを待った。その時・・ADは急に目を開けたようで、ペットボトルの水が飲みたいと、ヒロシに開けるよう、キャップをとって欲しいと頼んだ。「まったく・・ここまで飲まなくても。さあ、どうぞお水ですよ。」そう言いなが水を渡したが、ADは急にペットボトルを奪い取り、ヒロシの口に流し込むような素振りを見せた為「何をするんだ。まったく・・」ヒロシは少し怒った。ADは水を口に含むと、その口をヒロシの口に持っていき、水を流し込んだ。ヒロシは抵抗して「一体何を考えているんだ・・」そう言いながらも少し飲み込んでしまった。ヒロシはなかなか来ないスタッフにイライラしていたが、急に極度な眠気に襲われ、ベンチで座って眠ってしまった。ADはヒロシを抱きかかえ、ある場所に連れて行った。一時間ほどしてヒロシは目を覚ましたが・・手足はロープで固定され、目隠しをされていた。

一方で恵美はヒロシの帰りが遅いので心配になり、前田チーフに連絡した。「前田さん!ヒロシ君がまだホテルに帰って来ていないんです。遅すぎませんか?なんか心配で・・」前田は準備していた他のスタッフに連絡したが、例の迷惑ADを送りに行ったとの話を聞いた。そこで同じホテルに宿泊しているスタッフに連絡した。が、忘れ物を取りに行っている隙に居なくなったと言う事を確認した。ADもホテルに帰って来ていない・・前田は何かある・・そう感じた。

前田は警察に連絡して捜査の依頼をしたのだった。

恵美も間も無くして警察署につき、青ざめた表情で「ヒロシ君は!見つかりましたか?」そう言ったが「まだです・・ただ、ADの動きに不審な点があると分かり、警察に協力を願い出ました」前田はそう言った。前田の話によると、「ADは井上遥と言う名前なのですが、プロデューサーに確認したところ、偽名ではないか?と言う事なんです。それに佐藤が行方知れずになった時に、お茶やお菓子の準備を彼女一人でしていたらしく、ペットボトルのお茶を頻繁に佐藤に渡していたようなんです。警察の調べだと僅かですが、控え室にあったペットボトルから薬成分が検出されました。なので・・言い難いのですが、谷君をADの井上が拉致したのではないか?と思われます」

恵美はガクッと膝が崩れ床に倒れた。すぐに女性スタッフが恵美をソファーに横にし、様子を見るようにしたのだった。


拉致されたヒロシは大声で「ねえ!君だろう!佐藤さんを監禁してたの。何の目的でこんな事する訳?少し話をしないか?この目隠しを外してくれ・・俺は君を恨みはしないから、話をしよう・・」ヒロシはこの理不尽な状況でも冷静さを失わずにいた。暫くして・・「目隠しきつい?目が痛い?」その子の声がした。ヒロシは・・聞いたことのある声・・まさか・・

「手も痛い?足は大丈夫?目隠しとったら本当に冷静に話してくれる?ヒロシ・・君」ヒロシはハッと思ったが「あゝそうする。だから取って欲しい・・朱音ちゃん・・」理由は分からないが、朱音がヒロシを拉致したようだった。「あなたは・・最高のキーボードプレイヤーです。一昨日の演奏・・最高でした。やっぱり先輩は、いい音色で弾きますね。・・私、先輩の音が聞きたくて、ずっと聞きたくて・・この三年間ずっと待っていました。先輩がまた朱音に、旋律を奏でてくれるって信じて・・」ヒロシは意味不明な朱音の話しに「君はなぜ、こんなことをしたんだ。犯罪だよ。こんなの分かったら」ヒロシは決して大声を出さずに冷静に話した。「私・・先輩の書いた手紙見ました。あの最後の文面・・最高です。」

{風は間まを吹き、茜色の音色みたいに、過去から今の隙間に僕を癒すように心に吹きます}


「まるで私・・ですよね。先輩の歌はいつも詩集のように難しいけど、中身が深いです。この詩も本当に私を好きなんだなあって思えて(笑)。でも・・良く見て考えると違う気もする」朱音は少し下を向いた。

「詳しくは聞かないけど、どうやってその手紙を入手したんだ。」ヒロシは当然、恵美が持っていると思っていたのだ。

「先輩・・入手方法などどうでもいいでしょう。それより教えて下さい。今、目隠し取るので」朱音はゆっくりとヒロシの目隠しを外して、手足のロープを解いた。ヒロシはゆっくりと目を開け彼女の方を見た。

ヒロシは驚いた・・朱音の顔は整形したようで、一見すると分からない程だった。

「さあ、先輩教えて下さい。この詩の謎を。私がずーっと悩んでいたことを教えて下さい。」


その頃、警察では目撃証言などから、監禁されていそうな場所を特定していた。「いったい何故?ヒロシ君が狙われるの?おかしい!」恵美は未だ興奮気味だった。前田は重い口を開き始めた。

「恵美さん・・先ほどの井上と言うのが偽名だと言いましたが、本名を聞いて驚かないでください。彼女の本名は風間朱音と言います。・・そうです。谷君の前の彼女です。ディレクターは谷君の昔の写真など見せてもらっていましたから、無論あなたのことは知っておりました。ですが、ある一枚にもう一人との写真があって質問したら、元カノだと聞いていたようです。ですが・・彼女は顔を整形しており、本人と気付かず採用したようで、何とも申し訳ない感じです。

偽名と言うのは先程分かった事です。まさか・・その子が谷君を拉致するとは・・申し訳ない。前田は謝っていたが「いいえ、私も悪かったんです。朱音ちゃんが彼ではない人の子供を身籠もって、別れるしかなかったのを聞いて、最終的に私がヒロシ君を奪ったと思ったかもしれない。そう思うと・・」恵美は罪悪感もあるが、愛するヒロシをどうやっても助け出さないと・・そればかりが先走っていた。そんな矢先「潜伏先が分かったぞ!と警官から報告があり、みんなは現場に直行した。


一方でヒロシは・・

「今更さ・・詩の意味を聞いて・・どうするの?朱音ちゃんが良いように考えればいいと思うよ」

ヒロシには、その時の感情が蘇って来ていた。朱音に裏切られ、ひとりぼっちになり、生きている価値がない・・そう思えた。しかし・・ごく僅かだが、最後は恵美の笑い顔が見たかった・・そう思って書いていたのだった。「先輩は相変わらず、優しいですね。だから誤解される。それに人から好かれる。ずるい・・

私には分かる・・詩の意味が。(風は間を吹き・・)と言うのは私の風間ではなく、本当は風の上に山冠がついて“嵐”だったはず。嵐は嵐山で恵美さんの旧姓の苗字だった。だから恵美さんが先輩の隙間に心を吹き・・で、(茜色の音色みたいに)は私の朱音を茜に変えた訳でなく、故郷の空が茜色に染まっていて、まるで音符を不規則に並べたよう・・と言う意味ですよね。故郷は先輩と恵美さんの・・。それに(過去から今の隙間に僕を癒すように心に吹きます)は私の音が先輩の嫌な過去と現在の心の隙間を埋めて癒す・・ではなく、ずっと昔から先輩の心を癒したのは・・あの人だった・・ということですね、先輩。完璧までの読解力だった。しかしヒロシは「朱音ちゃんも随分と詩人になったよね(笑)」そう誤魔化した。

「先輩は私だけのものだった・・はず・・だけど、あの人と結婚した。私を捨てて。悔しい先輩」朱音は泣きながら訴えた。しかしヒロシは「でもね朱音ちゃん・・君は幸せを掴んだ。君の幸せを願ってそうした。こんなことをしたら、家族が心配するよ・・」朱音は「どうでもいいでしょ!?私にはそんなものはありません。全て捨てました。そんな私は馬鹿だと思っています。あの時に先輩を信じていたら・・同じように過ごしていたら・・そう後悔しました。でも・・既に先輩に合わせる顔もなく整形し、井上遥という名前で今の事務所に入社しました。そうしたら神のイタズラのように、先輩が入社して来て驚きました。

でも・・先輩は既に恵美さんと結婚していて、手の届かない人になってしまいました。会社に良く恵美さんが迎えに来てて、仲良く手を繋いで帰る姿を見せつけられ、悔しくて悔しくてたまらなく泣いていました。でも・・今日やっとチャンスが来ました」

ヒロシにはだいたいのストーリーが読め「だから・・何?自分だけ不幸だから、俺にも不幸を与えたい・・そう考えているの?それは筋違いだと思うよ。朱音ちゃんは凄くまっすぐで、正直で瞳が綺麗で、偶に驚くほど直球勝負の人だから、俺は好きになった。四年間の夫婦生活もずっと幸せだった。でもね、その分岐点を右から左に変えたのは、自分自身じゃないかな・・俺が過去で間違えたように。俺もたくさんの苦悩や君に振られて、死のう・・と思ったこと。尋常じゃないほど辛かった。けど・・俺は誰も怨んだりしなかった。自分の選択ミスだって思ったから。」ヒロシは自分の過去に起きた事象を細かく分かり易く説明した。

「でも先輩は今は幸せで、私は不幸のどん底なんです。だから、もう一度やり直す為、今日のチャンスを待っていました。」ヒロシはやっぱり・・そう予想が当たった。「・・無理だよ。もう次のステージはないから。あの裂け目は君が予想したように、俺が変えたい!と思った瞬間や、過去の酷い記憶の呼び起こしによって現れた。だけど君に振られて、あのアパートで死のうと思った時にふと思った。今回は変えたいと思う事や、苦しくてどうしようもないという、感覚が失せていたんだ。単純に終わろうって。だから、裂け目も現れず、今を生きるしかなく、最終ステージと気付いた。もう必要がないんだ」ヒロシはそう言うと朱音を抱きしめ「頑張って生きよう。君も俺もこの先は分からない。結局はこの後にどう生きるかだ。失敗もするし、生きるのが辛くなるやもしれない。でも曲がったら修正すれば、時間は掛かるけど、きっと良い方向に向かうだろう。そうだろう朱音ちゃん」

朱音は涙を流し頷いた。

そこに警察官とみんなが来た。警察官は英語で「拉致と監禁の容疑で逮捕します!」と言いながら拳銃を構えていた。ヒロシは「もう大丈夫ですから、この子も話を分かってくれたから・・そう言うとみんなのところに歩き出した。恵美が泣きながら駆け寄って来て

「馬鹿!心配したんだから。・・でも無事で良かった。」恵美は微笑みヒロシを抱きしめた。

それを見ていた朱音は正気を失い、隠し持っていたナイフで恵美の背中向け突進して来た。「あなたさえいなければ!私だけだった先輩は!」警官は慌てて銃を向け、朱音に向け発砲しようとした。ヒロシは慌て、朱音の前面に立った。拳銃のかん高い銃声があり地面に一人が倒れた。・・ヒロシだった。

ヒロシは朱音を庇おうとし銃弾にあってしまった。恵美は泣き叫び「ヒロシ!ヒロシ君!しっかりしてよ!誰か!この人を助けて!」

朱音は涙を流しながら棒立ちだった。「先輩・・何故・・ですか?どうして私なんかの為に・・」

ヒロシは意識が朦朧とする中、恵美の手をしっかりと握り「恵美・・ごめんよ。一生守って・・幸せにするって言ったのに・・ゴフォ!俺ってやっぱり嘘付きだ・・来世でも俺・・君を探すよ。愛してるよ・・」

ヒロシの息は止まり、心臓も止まり、そして脳も停止した。今度こそ・・終末秒が止まった。

恵美は泣きじゃくり、何度も名前を呼んだが

返事が返ってくることはなかった。


銃弾に倒れたヒロシ・・これでこのストーリーは終わるのであろうか?

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