第四章 疑念・・
朱音が現れ、ヒロシを刺した理由を・・
朱音を再度信じたヒロシだったが、次元の歪みによりどん底へと・・
第四章 疑念
本当の愛に気づいたヒロシだったが、心に大きな疑念があった。
恵美の話は辻褄が合う・・だが、余りにも合い過ぎている気がした。第一の人生の話も、二つある刺し傷の話も、朱音が必死に自分を狙う理由も、ある程度は理解できたしある程度の辻褄も合う。
だが恵美は、第二の人生でも同じ次元にいたにも関わらず、十一年間に一度も姿を見せなかった。
話の通りに自分を好きであれば、朱音を許せず今回みたいに闘った筈・・なのに自分と朱音を見ていただけ・・とは?こればかりは筋が通らない。
恵美の愛はこの肌を持って感じられた。朱音の時とは少々違い、過去の感覚的な本物感を感じた。
しかし・・何かが違う気がしていた。自分が六十歳の脳だからか、経験値がそう心を揺さぶる。
新聞専売所の休暇は一週間だけだった為、残り時間が少なくなり、自分にある疑念を晴らさねばと考えていたヒロシだったが、九月五日になり高校に行く日が近づいたのだった。果たして朱音は現れるだろうか?それとも何も起きないだろうか?
そして九月五日・・前の日。
ヒロシは昨日までに起きたこと、明日起こるかもしれない事を組み合わせて考えていたが、どうにも組み上がらず、息抜きのため公園でギターを弾く事にした。
恵美は好きだ・・だけど何故か不安が過ぎる。十七で付き合っていた時とは違う不安だ・・。朱音は愛していた。だけど・・何故に俺を殺そうとする?憎しみや恨みがあるなら、いくらでも殺れるチャンスがあったのに、あの顔や声も嘘には思えなかった。
ヒロシにはこの次元での目に見えぬ何かを感じるのであった。
昨夜、楽器店で新しい弦を購入していたので、公園でまずは弦の張替えをする。
今回は太めのヘビーゲイジにしたので少々、押さえづらい感じだが、音はいい響きではあった。
昔懐かしのフォークソングを弾いていたが急に思い出したように、第二の人生で朱音の為に作った【Melody】を自然に弾いていた。
この曲が生まれた時、バンドの練習室で顔をテーブルに両手と共に伏せて眠る朱音を見て、愛おしさが止まなかった。
大きく吸い込まれそうな瞳が好きで、抱きしめると胸までしかない身長や、サラサラなボブの髪が可愛いかった。
ヒロシは恵美には悪いと思いながら、朱音のことを忘れられずいたのだ。
「朱音ちゃんは、そんな極悪者じゃ絶対あり得ない。何か理由があるんだ・・きっと」そう考えたかった。でも・・あの旋律は嘘?笑顔も一緒に弾いたキーボードも、泣き顔も、一緒に歩いた日々も・・全部が偶像なのか?本当にあんなに現実味あったのに。
ヒロシは時間が経つほど信じがたいと思う気持ちが強くなっていた。
これ以上はギターを弾くことが辛くなってギターを終い帰ろうとしたが、中学生くらいの女の子が「お兄さん!もう一曲やってよ!さっきの曲なんか凄く上手だった。」そういうのであった。
「ごめんね。帰ろうと思ってるんだ。又今度ね」ヒロシはそういいベンチを立ち歩き始めた。
「長渕剛とか弾けないの?!なんか弾けそうだけど」少女は咄嗟に言うのであった。
「うん。・・弾けるよ。長渕剛が好きなんだ?」
「うん。だから一曲だけお願い!やってみせて」
ヒロシは少々困ったが、まあ暇だしいいかと思いギターを又ケースから出し、弾き始めようとした。
少女に「何がいい?弾けない曲もあるけど」ヒロシは初期の長渕剛の曲は大概は覚えていた。
「夏祭りとか乾杯とか?・・」
少女は「だったら暗闇の言葉・・がいいな」「えっ!」ヒロシは驚いた。
長渕の曲では余り人気がある曲ではなく、どちらかというと暗い曲調で語る歌詞だった。
「まあ・・いいけど。なんか・・渋いのが好きだね」とヒロシはカポスタを合わせ弾き始めた。
(近ごろとっても 悔しいことがあった それは自分に肩書きがないこと・・)
ヒロシは歌ううちに何かが頭の中を横切る事に、ある違和感を感じた。
「・・何処かで同じことがあったような気がする・・デジャヴだろうか?なぜ、脳裏をよぎるのだろう」ヒロシの心が喋っていた。(何が自由だ 不自由ばかりだ ・・俺はいつまで この雨に打たれればいいのか)歌い終わったヒロシにある情景が思い出された。
第一の人生の高校時代だ。高校ニ年生の時に、秋祭りに当時付き合っていた恵美と行った思い出があった。その祭り会場の中に楽器店があり、その楽器店でギターを弾いてこの(暗闇の言葉)を歌ったことがある。
恵美に良いところ見せようと、明るい曲を弾こうとしたが、誰かが?誰だったのか?この曲を聴きたい・・と。あの時の情景に似ている。
公園で聞いていた少女はパチパチと拍手をして
「今の私みたいで好きなんです。この曲・・」
やはりデジャヴ!・・あの時も「この曲好きなんです。今の自分みたいで・・」同じことを言っていた。
ヒロシは焦り「ねえ君!なんで今の自分みたいなんだよ?」少女は「だって高校受験で今の自分には自由が無いから・・」下を向いた。
ヒロシはそういうことか・・と少々だが安堵した。
だが思い出した過去の記憶は、同じ質問に対して少女は「それはお兄さんが考えてみて・・」と薄っすらと涙を流していた。そんな記憶があった。
恵美は「なんか気味が悪い」と言っていた記憶だ。
暫くしてもヒロシはその記憶が頭に残っていた。過去のあの少女は?・・少し気になった。
家に帰る途中ヒロシは、明日の大一番というか、事象を考えるのであった。
心の中で・・前回同様に明日分岐点を変える・・そうすると、ニ年後に朱音にまた出会う。
ヒロシは正直迷っていた。この第三の人生には、好きな恵美が居る。しかも十九歳になった初恋の彼女が自分に恋をしてる・・あの失恋の悔しいさを挽回できている。分岐点を右から左に変えれば、新しい世界が開けるが、恵美とは遠距離恋愛になってしまいまた、二人の恋は終わってしまうかもしれない・・。
しかし・・ここで仮に踏みとどまっても、新聞配達しかできない今は。どうしたものか・・
家に帰り布団に包まっても、進むべき答えは出なかった。そのうちにいつの間にか彼は眠ってしまった。
次の朝、ヒロシの心は決まっていた。
「先ずは木村先生に会おう。どちらの大学が自分にとって、有意義な世界が開らけるか?良く話を聞き、勉強のレベルも含めて、それからどうするか?」そう決めるのだった。
予定通り、二時前には学校に着いた。その時だった。
あの懐かしく優しい声が聞こえてきた。
「ヒロシ君・・と言うか・・いえ先輩!お元気でしたか?・・凄く会いたかった・・」
やはり・・朱音だった。
朱音は前とは違い、ミニスカートにTシャツ姿だった。ヒロシは「俺をまた殺しに来たの?ここが最後のチャンスだから・・」
ヒロシは慌てることなく朱音に聞いた。
「大好きな私の先輩・・私は、この瞬間というかタイミングを待った。あなたが恵美さんとどんなに仲良くしようと、キスして抱き合おうと我慢した。」
ヒロシは刺されるつもりで来たので、朱音が現れても、驚き顔さえ見せなかった。
「朱音ちゃん。君との幸福な世界・・あれは偶像だったんだね。あんなに幸せだったけど、幻・・そういう事だったんだ。虚しいよ。君が全てだった俺には。」ヒロシは今の正直に気持ちを言うのであったが、朱音は「あれは偶像なんかじゃない・・本物だよ。先輩自身にも私自身にも。偶像なんかじゃないよ。」
ヒロシは恵美に聞かれたことをまずは確認してみた。
「君には胸にあの時に自分で刺した傷痕はある?そう・・あの幸せだと思った次元での最期の刺し傷・・自分でも刺したよね?」
朱音はヒロシをそっと睨みながら、自らのTシャツを捲り上げ「これのこと?ちゃんとあるから・・」
朱音は下着も付けない胸をヒロシに見せた。
「あゝ・・分かったから、もう下ろしてシャツ!」
ヒロシは朱音の胸を徐ろに見てしまい恥ずかしくなった。
「先輩は、こんな傷の事で私を疑うの?まるで偽者みたいに・・言った筈です。次の次元で分かるって」
朱音は悲しげな顔で、そう言うのだった。
「じゃあ!なんで三度も俺を刺そうとしたんだ。三度目は恵美に助けられたけど。展開の辻褄が合わないよ。そうだよね!朱音ちゃん!」
朱音は少し考えたが「・・そうだよね。でもあなたも、恵美さんも私も、刺されても死なない・・そうでしょうそれが私も分かっていた。ただ・・第二の人生と、この次元での意味は違うけどね。・・もう行って下さい先輩、これから先生に会うんでしょ。私は終わるまでこの辺りで待っているから・・逃げないし、ここで待っているから。そう朱音は言うと、背伸びをしヒロシの頬に短くキスをした。
「あゝ・・分かった。とあえず行って来るから、待っていて。」
ヒロシはそう言うと校舎に入って行った。朱音は取り敢えず、バス停のベンチに座って待った。
二十分ほどしてヒロシは校舎から出てきて、小さいなガッツポーズを取るとヤッターと叫んだ。朱音はゆっくりヒロシに近づいていった。
「朱音ちゃん、やったよ俺。二度目の人生と同じになった。どうすべきか悩んでいたけど、急に前回と同じ道が正しいって心が思って・・同じ選択をした」
ただヒロシの心の中は、何故こんなに喜ぶんだ・・前回と同じ偶像の世界に引き込まれる可能性があるのに・・この選択をし喜ぶんだと・・おかしい・・更なる疑念が湧き上がった。
朱音も喜んでヒロシに抱きついた。
「・・先輩!悩んでも私との人生を選んでくれたんだ。本当にありがとう!」と言ってまた抱きついた。ヒロシは下着を着けないTシャツ一枚の朱音に抱きつかれ、胸の膨らみが溝内付近にあたり不安になった。
「分かったから、朱音ちゃん下着つけようか。気になってしようが無いよ。」ヒロシはそう言うと武道館のトイレに朱音を連れて行った。
「先輩・・私のオッパイがあたって恥ずかしいですか?それとも想像して興奮しちゃう?一緒にお風呂も入ったし、裸で寝たりしたから、そんなこと絶対に思わないかと思った」
「それはそうだけど・・ここは公衆の面前です!」
ヒロシは女子トイレに朱音を押し込もうとしたが、朱音はまたTシャツを捲り上げ「先輩!目を逸らさずしっかりと見て下さい」ヒロシはまたかと思い「・・分かったから。小さいのも分かってる・・気にしないで」
朱音は怒り「どうせオッパイ小さいですよ。誰かみたいにぎゅーんボーンじゃなくてごめんなさい!」
「怒らないでよ・・誰もそんなこと言ってないよ!」
朱音は捲り上げたまま「そうじゃなくて、私にも二つ傷あるの確認して!・・ちっちゃいなんて・・まったく・・さあ、確認して下さい。その後に私の小さな胸の文句は言って下さい。」
「分かったよ。」そう言うと、ヒロシはマジマジと朱音の胸を確認した。朱音は捲り上げたTシャツを持ちながら、恥ずかしそうに目を閉じた。
「どうですか。二つ有りますよね。それが私が先輩を刺した理由です。」ヒロシは不思議だった。傷は一つだった筈・・ヒロシは傷痕を触り確認した。
「もう!先輩のエッチ!」朱音はTシャツを下ろし言った。
「そうじゃないよ。一つの傷痕からまだ血が流れていて、傷口が塞がっていないんだ。だから・・」
「バレました・・ふ〜・・」そう言うと朱音は急に倒れてしまった。
「朱音!朱音ちゃん!どうしたんだ。」ヒロシは朱音を背負い、近隣の病院に向かった。
「何故?どうして傷口が・・あり得ない。」向かう最中に、ヒロシのシャツに朱音の鮮血が流れていて、ヒロシは更に急いだ。病院に着くと朱音は診察台に乗せられ、止血と輸血それと共に、傷口を縫い合わせる緊急手術を受けた。
先生からは「心臓まで達していて、もう少しで死ぬところだった」と説明を受けた。ヒロシは朱音の両親に電話した。だが、病院に母親が来たものの、お金が入った封筒をヒロシに渡して「足りなかったらまた電話ちょうだい」と言い去って行った。
ヒロシはなんと薄情な人だと思い、朱音の側にいたのだった。
三時間ほどで朱音は気が付き、心配そうに見ているヒロシに抱きついた。「ありがとう・・」
「ヒロシ君・・ベッドを少し起こしてくれる?」そう言いながら起き上がった。「動いたらダメだよ。安静にしてなきゃ」ヒロシは心配そうに言った。
朱音は「恵美さんにも同じ事言った?・・」朱音は確認するように尋ねてきた。ヒロシは少し思い出すように「言ったかもしれない。それが・・なに?」朱音は確信したように「この刺し傷は誰かが、側で死ぬほど心配すると消えるみたい。だから見てとヒロシに傷口を見せた。
そこでヒロシは驚いた。縫われた傷口がまるで済生されるように小さくなり、縫い目が消えていった。
ヒロシは驚いた。どう言う事だと思い、自分も血だらけである事に気づいた。自分でシャツを上げると、刺された痕が二箇所有り、鏡で確認すると更に背中に一箇所傷口が開いていたが、みるみるうちに閉じていった。ヒロシは自分の目を疑った。
「どうして俺にも新たな傷口が有り、背中が血だらけだなんだ。何が起きているんだ。分からないけど、これは現実なのか?」
朱音は重い口を開き、長い話を始めた。
「幸せだった。先輩に会い、バンド活動でき、同じ仕事して、一緒に帰って、一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂入って、一緒に眠って・・それが私の宝だった。だから友達も親も親戚も、みんな要らなかった。先輩さえ居れば幸せだった。でも・・あの日、先輩が夢で恵美さんに会っていた。夢だけど、起きても、先輩が何か考えていた。私にはある程度分かった。夢で見た恵美さんが正夢のように見えたんだと。そうしたら、通勤途中に先輩がお腹を押さえて苦しみ出した。どうも私と先輩との幸せがここで一度終焉だと思った。先輩が過去の出来事・・しかもショッキングな日を思い出すことで、裂け目が現れた。」
確かにあの日ヒロシは夢を見ていた。長年見なかった夢だった。八十年十二月・・恵美に別れを告げられた日だった。余りにも如実で鮮明な夢で、起きたら薄っすら涙が出ていた。起きてからもその時の恵美の顔が忘れられなかった。そんな時に朱音が起き上がり「あゝ遅刻!」それでハッと思い支度をしたのだった。
「ふと思ったの、このまま次元を超えたら、そこには恵美さんと先輩の世界があるんじゃないかなって。だとしたら、もう私は悪者になるだろうって。そういう設定になるかもしれない・・そう思った。結局はそうなった。」
ヒロシは少し上を向き、「そうでもないよ。俺はある意味、恵美の言葉を100%信じてた訳じゃない。」
「先輩・・本当に・・ううん」
「朱音ちゃん・・泣かないでよ。俺は平等に話を聞きたかっただけだから。」ヒロシがそう言うと朱音はヒロシに抱きついた。
ヒロシは考えた・・
恵美には過去の幸せだった頃に似た生身の感情が湧く。だが、朱音には五年間一緒に暮らした、確かな愛を感じる。どちらかが自分にとって悪い道や、悪運に引き込まれるように思えた。
「さっきの続きを聞かせて。刺した理由を」ヒロシは朱音を見つめ諭すように言った。
「先輩があまりも人に優しいから・・と言うか、お人よしだから、みんな先輩を好きになる。
私も先輩みたいに貧しい境遇に生まれた。家が貧乏で、少ないご飯を分け合って食べてた。服も新しく買ったこともないくらい貧しかったわ。それで中学になると同級生から酷いイジメにあって、どうして私ばかりこんな酷い仕打ちを受けるの・・そう思った」
ヒロシは第二の人生で朱音と一緒にお風呂に入った時のことを思い出した。「確かにあちこちに小さな痣みたいなものあったかも知れない・・」とヒロシの記憶にあった。
「私は中学三年生の秋に痣だらけの体を制服に隠して街をフラフラしていた。その時に先輩がギター持って、恵美さんに歌を唄ってみせてた。私はいつの間にか・・癖で自分の顔を髪で隠して、人の目を見ないようにしてた。怖かった・・
先輩の周りには二、三人の人が先輩の演奏を聞きながら、笑みを浮かべて楽しそうでした。楽器店の人も目を丸くして喜んでいた。私も自然にそっとその輪に入り、先輩の歌を聞いたの。そしたら恵美さんが(ヒロシ君、乾杯歌って・・)とリクエストしてた。先輩は(ベタすぎだよ。違うのにしよ)そう言うと、私に向かって(彼女さ!何がいい?君にプレゼントするから、リクエストして・・そんなに上手くはなけどね・・)私はハッと思い立とうとしたけど、当時良く聞いていた長渕剛さんの暗闇の言葉を先輩にリクエストしました。」
そうだったのか・・あの時の少女が朱音ちゃんだったのか。ヒロシは合点がいった。顔をあまり見ずにいた記憶だったけど、髪で顔を隠していたんだ。
「先輩と恵美さんは怪訝そうにしてたけど、先輩は(俺もよく聞くよこの歌。悔しかったり、羽ばたきたいけど、自由が無かったり・・いい歌だよね)と私を見て言ってくれた。先輩はその曲を真剣に大声で唄ってくれ、私の方を偶に覗き込みように、優しく唄ってくれた・・それが嬉しかった。後から先輩も過去にイジメにあって苦しんだこと知ったら、朱音は涙が止まらなかった。その先輩の優しさが私を引き動かしました。私は先輩と同じ高校に入学して、先輩が図書館で猛勉強している姿を見ていた。決して気付かれないように。先輩があの時に付き合っていた恵美さんと別れたことは、私がずっと二人をウォッチしてたから、分かっていましたし知っていました。理由が分からなかったけど、先輩の表情が少し変わって見えました。
先輩が東京の大学を受験するのを聞いて、やっぱり努力は嘘つかないなぁって思いました。
時が経って私も先輩の様になろうって努力しました。自分に足りないものは先輩が教えてくれました。だから私も努力に努力を重ね、今の様に明るく生きれるようになった。先輩のおかげでした。だいぶ付いたお肉もダイエットして、バイトや勉強も頑張りました。そんな高校二年の夏休み後に、学校で先輩を見たんです。木村先生と相談室に入るところで、私は悪いとは思いましたが、授業をサボって廊下からこっそり話を盗み聞きしました(笑)。そうしたら先輩が大学辞めて、今は新聞配達しながら、別の大学を目指していると聞いたの。驚いた。あんなにキラキラしてた先輩が、変わって見えた瞬間でした。先輩が帰った後で木村先生が退席されたところを見計らって、こっそり相談室にあるパンフレット見ました。私は先輩がこの大学に行くんだなっと思って、ヨシと思い、私も同じ大学を目指そう!そう思ったんです。」
そうだったんだ。ヒロシが刺された瞬間に毟り取ったのは、卒業した高校の校章だった。彼女は同じ高校だった・・。
「でも・・私の成績では無理でした。受験に失敗して、そのまま高校卒業してあっという間に四十年が過ぎていきました。なんか長いですよね。四十年って・・。私は・・生涯独身で、東京のテレビ局でADをしてました。給料は安かったですが、食べていくには困りませんでした。・・私は生きているうちに何人かの人とお付き合いはしましたけど、私が煮え切らずみんな私から去っていきました。・・」
ヒロシは「四十年か・・本当に長いよね。特に失敗してしまって後悔をした人生・・俺も凄く長かった」そうヒロシも思い出していた。それに朱音が自分と同じ境遇だったとは、類は類を呼ぶとは言うが・・。
「私には、いつも先輩のキラキラの思い出がありました。男の人と付き合っても(何か?違う)そう感じると冷めてしまっていました。ただ・・五十も過ぎて局からも(もうADは無理でしょう?)と言われて、退職というよりリストラされました。それからは毎日毎日スーパーの荷出しや、工場の臨時社員として生活しました。けど・・六十が近づくにつれ、人生に虚しさを感じました。ずっと・・一人のまま。そして最期も一人なんだろうなぁ?・・やりきれない気持ちだった。」
ヒロシは恵美もそうだったけど、朱音の人生はそれ以上だと思った。精神的苦痛に耐えてたかもしれないと思うのであった。
「そんなある日、スーパーの荷出しをしていたら、偶然だけど先輩を見かけました。ビールを二本だけ買って鞄に入れて帰って行きました。」
当時のヒロシは会社帰りにスーパーで安いビールを買い、さゆりが寝てしまった食卓でおかずをつまみに、それを飲むのが日課だった。
「歳をとっても先輩だと直ぐに分かりました。(先輩!)と言って走って行きたいくらいでしたけど、今の惨めな自分を見せたくありませんでした。白髪混じりの髪に太った体型・・到底、私だと気付かない・・というより、先輩が私を思い出せるか?そう思うと近づけなかった。この時最高に自分の人生を恨みました。あの高校一年の秋の学園祭で、先輩に告白出来ていたら・・卒業式にボタン貰って私をアピール出来ていたら・・少しは流れが変わっていたかもしれないと・・そう思ってしまいました。こんな年齢で馬鹿げたことを思っている自分が情けなく、年甲斐もなく家で泣きました。
先輩は、次の日も次の日も、また次の日も、ビールを二本だけ買って鞄に入れて帰って行きました。でも平日だけで、いつも会社帰りに寄っていたと分かりました。そのままひと月が過ぎ、今日も先輩は来るかな?と思って、見えるところで荷出しをしていたら、先輩が来ましたけど、ビールを眺めてずっと考えているようでした。私が(どこのビールお探しですか?)と尋ねたけど・・今思えば、相当に勇気ある行動で、自分で自分が不思議でした。でも・・体と心が勝手に行動しました。先輩が眺めている方向を見たら、いつも買っているビールが品切れだったんです。私は思わず(こちらも新発売で美味しいです)と勧めると、先輩はいつものように二本だけ取り(ありがとう・・)そう言って帰りました。それからは、私が勧めたビールばかり購入してました。ある日レジに並んでいる先輩が見え、私は先輩にお辞儀をして(今日もありがとうございます)って心で感謝してました。そうしたら先輩は私の方に歩いてきて(本当にこのビール美味かったです。ありがとう)と言って、私の手にキャラメル一粒渡してくれました。その時・・あの歌を歌ってくれた時以来、物凄く感激して、その後も思い出しては泣きじゃくり、貰ったキャラメルをずっと家に保管してました。先輩にはただのキャラメル一粒だったかもしれないけど、私には何マン粒で、キラキラして見えました。」
スーパーで会っていたんだ・・自分も初老だったけど、朱音もおばちゃんとして出会っていたんだと、ヒロシは出会いって不思議だと思った。
「そんなある日だった。たぶん十月末頃だった。自治会の配布用のチラシを貰って、近隣に配らなくていけないと、自転車で慌てて自治会館に行ったの。そうしたら、私よりも遥かに若い自治会役員さんが(困りますよ。もっと早くきてくれないと、私も会社あるんだから、帰って支度あるんだから)そう言われたんです。私は平謝りして、チラシを自転車の籠に乗せて走り出そうとしたら、その人が小さい声で(ほんと、独身の癖に遅いんだよ。クソババアが)言っていた。聞こえるようにね。私は悔しくて泣きながら、近所にチラシを配り終えた後、自転車で家に帰ろうとしたけど、さすがに自分の人生に疲れ果ててしまって、また先輩を思い出して空を眺めていました。
でもその時・・前から来たトラックに自転車ごとぶつかり私は道路に叩き付けられました。運転手は(気をつけろババア!)と言って逃げていった。・・轢き逃げでした。私は起き上がれない程ダメージを受けて、立ち上がることさえ出来なかった。・・このまま死ぬんだな・・そう思って諦めかけた瞬間、聞き覚えのある声が聞こえたの。私は骨折したと思われる、足を引きずり声のする方に行くと、そこにはヒロシ先輩が倒れていて、見間違えでなければ、抱きかかえていたのは恵美さんだと分かった。私はヒロシ先輩が道で倒れたと思い、私も助けなきゃと歩き出したんだ。・・でもね、私のお腹には自転車のスポークが三本も刺さっていて、それ以上は進めなかった。私は(ヒロシ先輩・・私も先輩と逝きます。あの世で仲良くして下さいね。今度は私を先輩が好きになるようにしますから・・絶対に後悔しませんから・・)それが私の第一の人生での最期の記憶です。」
ヒロシは上を見て「・・そんな!・・なんでそんな事思って・・。俺は朱音ちゃんにそう思われただけで、その時の俺・・きっと幸せだったよ・・」
「・・でもですね、何故か気がつくと私は高校生に戻っていて、遠くに若い先輩が居るのが見えた。天国なのか?と思ったけど、現実味があってタイムリープ?かと思った。先輩は急ぎ足で歩き始めたから、私はそっと後を付けました。そうしたら先輩の実家の方だと分かり、家に帰るんだな?と思いましたが、じっとして遠くのご両親らしき方向を見つめていた。その後、先輩はぶつぶつ呟きながら歩いてました。この次元に落ちて、先輩が駅前で叫んでいたこと思い出していました。(分岐点を変える・・)同じ事を呟いていました。私はふっと気が付きました。呟いていた言葉の中に(今日の九月三日で)(忌々しい過去に別れ)(選択を右から左・・)と何度も言っていることに。私は先輩が今から木村先生に会う、それを思い出しました。だとしたら大学を変えるつもり?・・行く道を変えるつもり?・・そうしたら私はどうしたらいい・・私は咄嗟に道すがりにあった、金物屋さんから小さな包丁を一本掠すめヒロシ君の後を追い続けました」
「えっ!盗んだの?朱音ちゃん」
「違いますよ。ちゃんと千円札おいておきましたよ。・・そうしたら予想通り、高校に着いたの。私は木影で休む先輩を覗き見しながら、(ダメ・・一緒にこの次元に落ちたあの人がいる筈・・そう考えていたら、この次元に来た時のことを思い出して、(先輩を刺して、私も死ねばまた、私と先輩は違う次元に飛ぶはず、そこには恵美さんも居ない次元の筈・・)だから先輩が木影から出てきて、大きく背伸びをした瞬間・・私が先輩を刺しました。その時に・・
裂け目が現れ、ヒロシ君を呑み込もうとしました。
私は咄嗟に自分の心臓をひと突きして、先輩と共に裂け目に吸い込まれました・・」
ヒロシは突然、「待った!朱音ちゃん!それはおかしな話だよ。俺はあの時直ぐに気が付き、校舎に入り、先生と話をして、茨城の国立大学の推薦をもらった筈で。それにその後、友人の診療所で手当も受けてる。これこそ・・辻褄が合わない。」ヒロシは当然のように言ったのだった。
しかし朱音は「私は二度・・先輩を刺しました。二度目はついさっきの事です。一度目は刺しても裂け目が現れず、しくじったと思いましたけど、時間が進んで結果的には先輩が私を愛してくれて私は幸せを掴みました。けど・・この次元では私にチャンスが無い・・そう思いさっき先輩を背後から刺しました。・・先輩が先生に会うと言って歩き出した瞬間に私が背中から心臓近くを刺しました・・先輩は倒れて息が荒くなり、止まりそうになり、息絶えました。私は心から祈った、今度は現れてと・・。その時、裂け目が現れたの。それは私の無念から起きた現象・・だから私は第三の人生で先輩が決して恵美さんに会わないように、正確には第四の人生のため二人で絶命しました。そして私は吹き出る血を感じながら、(同じ場所の同じ時間に返して)そう願いました・・次の瞬間、裂け目からは私がヒロシ君を刺した状態で戻っていました。私は本当に瞬間移動できたか?分からなかったけど、着ていた服が変わっていない事に気づいたの。刃物は手からなくなり、何事も無かったように時間が進んで、前回と同じように先輩は、推薦される大学のお墨付きをもらえた筈です」
ヒロシは「じゃ?ここは第四の人生ってこと?」訳が分からないヒロシに朱音は更に説明したのだった。
「第二の人生は先輩と私には存在するし、恵美さんが現れた第三の人生も存在するけど、今回は全く同じ日と時間に戻ったから、私と先輩の傷口は消えてなかった。でも、もう既に癒えているわ。」確かに傷口は閉じられ、何も無かったかのようになっていた。
「今は第四の人生になった。だから・・先輩はこのまま新聞店に戻って、大学を受験してほしい。私はニ年後に先輩に会いに行くから、待っていて。寂しいけど、私は先輩を信じてるし、私自身も一生懸命に勉強頑張りますから!きっと合格します。」
ヒロシからすれば、いくつかの謎があり確認した。
「第二の人生で君は俺を過去から知っていた。でもなにもない如く俺の前に現れ、初対面のように取り繕っていた。芝居だったの?俺を騙してたの?」
朱音は上を向き「先輩・・あの時、私が正直な事言っていたら、私を好きになってもらえましたか?」
ヒロシは考えていた。確かに高校の後輩と思う気持ちと、初対面と思って、彼女の瞳に呑まれた事実を比較すれば分かることだった。
「だから私は、先輩に初対面だと自分に言い聞かせて進みました。その内に本当にそう思えるようになって、私の初恋になりました。だから黙っていました。騙すつもりは全くありませんでした。」
ヒロシは「分かった。理解できたし良かった。」
取り敢えずヒロシは疑問を解決し、第二の人生をやり直す事になり朱音との約束通り、新聞専売所に戻る事にした。
それ以来、朱音はヒロシに連絡することもなく、約束通りに音信不通となった。
ただ・・朱音は第四の人生に落ちた際に、僅かながら人を感じた。振り向き見たが、林の中に人が入って行くのが見えた。道路に僅かだが、血痕の様なものがあった。「誰かが・・同じステージに・・」
かなりハードな一週間が過ぎようとしていた。
そんな折に恵美から電話があったが、かなり衝撃を受ける内容だった。「ヒロシ君・・言いづらいけど、私やっぱりあの人と、来年結婚する・・。考えたけど、私がこの次元に戻ったのにはきっと意味がある・・そう思えた。ヒロシ君をずっと昔から知っていて、あなたの生き様も見てきた。でも・・私はこの人生をやり直すために戻されると思った。だから・・ヒロシ君と一緒になっても、きっと失う日が来ると思うの。
それが一年先だったりしたら、耐えれない、そう思うんだ。でも・・ヒロシ君、大好きです。愛してます。この先はあなた次第だと思います。だから・・またいつの日か会ったら、笑って挨拶しよ。約束だよ。
じゃ・・またね」
そう言ってまたヒロシは恵美に振られた。
ヒロシは専売所に戻り、仕事に勉強に夢中になって取り組んだ。前回より更に寝る間も惜しみ、人生の全てを賭けるように躍起になった。
恵美に再度振られたことがショックだったが、決して嘆いたり弱音を吐かず、頑張って無事に大学にも受かり、前回以上に1分1秒を大切にした。それはまさにやり直しの第二の人生そのままだった。
大学一年から大学二年生・・同じように勉強し、同じように居酒屋でバイトをし、いつものように遠距離通学をした。
二年生の春・・いよいよ朱音との再会の日、ヒロシは待ち遠しい気持ちでいっぱいだったが、バンドメンバー達には、決してバレないよう努めた。
そこに予定通り朱音が来たのだった。
「おはようございます。一学年の風間朱音と言いす。今日は先輩達のバンドに参加させて頂きたく、お願いに来ました。よろしくお願いします」
ヒロシは前回と同じ挨拶に驚いた。若いから記憶力もばっちりか?とも考えた。例の如くメンバー達は断ったが、ヒロシだけが賛成し、メンバーを口説き落とした。
「ヒロシ先輩!ありがとうございます。私、頑張ります。」と朱音は舌を出した。朱音が参加したバンドは色付きが良くなり、演奏に厚みが出たが、最初はキーボードが下手という設定の朱音の鍵盤は、最初から曲にマッチングしていた。「先輩・・」朱音が小声で話しかけてきた。「う?なに?」朱音は更に小さい声で「今夜はバイトですか?それとも休みですか?」そう尋ねてきた。月曜が定休日であった為、休みであることを伝えると「じゃあ・・今夜デートしよ・・」そういうのだった。ヒロシは少し赤くなり「練習終わってから・・その話は」そう諭すのだった。
夕方、二人は大学近くを避け、ヒロシと朱音の自宅中間あたりの駅前に来た。「先輩、ここなら誰にも発見されません。でも・・何も無いですね」駅前をぐるっと見渡したが、本当に何も無かった。ヒロシ達は暫く徒歩で移動したが、やはり店らしきものは無かった。ヒロシは「あゝ・・だいぶ歩いたね。朱音ちゃん疲れてない?ここらで駅に一旦戻ろうか?」
朱音は少し恥ずかしそうに「ここ・・入ります?」と指差した。ヒロシは「ダメダメ!未だ未成年なんだから、ラブホテルはダメだよ」そう言うヒロシを朱音は手を引き、中に入ってしまった。
「全く!子供がこんな所ダメだって言ってるでしょ!」ヒロシが説教している最中でも朱音は「先輩・・あれ見てください」と室内にあるブランコを指差した。
「あれって乗れるのかな?」朱音は無邪気にそう言うのだった。
それから二人は、今までの事を確認しあった。朱音が死にものぐるいで勉強したり、キーボードの練習を欠かさなかった事や、大学入学からバンドメンバーになるまでの流れなど・・ヒロシも判を押したような生活に、今まで以上に頑張って努力してきたこと・・
「えっ!先輩・・また恵美さんに振られたんですか?なんか笑っちゃう・・」
ヒロシは「また!って。・・ただ、彼女とはそう言う運命らしい。仕方がない」
二人はヌードルを食べながら、二時間ほど話し幸せを感じていた。二人はホテルでする事も何もせず帰るのであった。「先輩!何もしないで・・?」「なに?」
「ムラムラしない?まあ私・・未だ子供だし、胸も小さいから・・そんな気になりませんよね?」と過去にヒロシに言われた事を根に持っていたように言った。
「違う違うよ。今の流れからだと未だ早い。それに・・朱音の胸・・可愛いよ。」
「やっぱり小さいんだ。彼女・・胸大きかったから!比較して言ったでしょ」言いながら、そっぽを向いた朱音だった。
それから二人は今まで通りに、判を押したように、学生生活を過ごした。その間、何度か例のホテルで話に華を咲かせていた。
ある日のこと・・「そろそろ出ようか。今日は遅くなったね。話が弾んだ。」ヒロシは上着を着て立ち上がった。
その時・・「先輩・・私を見てください。今日はしっかり見て・・」そう言うと朱音はTシャツを脱ぎ、ジーンズを脱いだ。「先輩・・私って魅力ないですか?背も低いし、この身体にも自信はない・・でも、先輩はキスしたり、抱きしめてくれるけど・・なんて言うか・・手を出してくれない。この場所に居ても・・」そう言うと自分に魅力が未だ足りないのでは、そう思う朱音だった。
ヒロシは「そんな事ないから、大丈夫だからと言って、朱音をそのまま抱きしめた。「ぜんぜん違う。俺にとって朱音ちゃんは、全てだから・・だから、服を着よう!」そう言うと、キスして更に強く抱きしめた。
「先輩・・やっぱり、初恋が忘れられませんか?あの人が、今も気になっていますか?」
そう言うと、下着を取りショーツも脱ぎ、裸の自分を見せた。「私の全部です。見てください。」ヒロシは流石に欲求を隠す事ができなかったが「俺はそういうつもりで我慢してる訳じゃないんだ。今が大事だから、君を大切にしたいから・・と上着を着込んだ。
朱音は「先輩はまだ私に疑念を持っていますか?だから・・」ヒロシは朱音にTシャツを着せ、抱きしめて言った「疑念や疑問はない・・だけど未だ早い、俺と君のこんな関係性は。長い人生での一つの選択が、後々蠢く不安や疑念を作り出すだろうから、この次元も前と同じように進みたい。二度も君を失いたくない。分かって欲しい・・」
朱音は「分かりました」そう言うと服を着た。
「でも・・先輩!この次元が歪み方向性がズレたら、終わりですよ先輩と私・・後悔はしませんか?」朱音の言葉は少々重さを感じたが、自分の選択に間違いはないと自信があった。
帰り道・・「ふー・・これで良かったのか俺は?」ヒロシがボソッと言った。
朱音は「先輩はこれで良かったんです。いいんですよ。私が今度こそ幸せにするから心配しないで!」とヒロシに抱きつき「やっぱり・・後悔してます?」そう言うと朱音はキスしてきた。
疑念は無かったが、同じシチュエーションを繰り返すのが難しく、二人が既に恋人同士というのがこの次元内で無理があり、歪みが起きそうで怖さもあった。
大学三年になり、定期公演も終わり最終である学園祭に向け練習したり、楽曲制作をしたり・・前回と同じように日々過ごした。
予定通りMelodyを作成して学園祭で披露した。
全てが予定通りに向かっていったが、繰り返す事に違和感もあり、音楽への感覚や朱音への想いも、どうしても納得いかなかった。
学園祭の後、やはりユウジが同じ話しをして、前回同様に応援するよと言って、大学最後に向け更に努力していった。ただ・・就活中に朱音がキーボードを貸して欲しい旨の話は無かった。おかしい?日々の設定が前回と変わってきている・・ヒロシは不安を感じ始めたが、今はどうにもならないと放置した。
キーボードについて朱音に確認したが「どっちにしても、同じ人生だから・・特別計画しなくてもいい」と言われた。それもそうだったが、大いに違和感があり、既に付き合っているし、先々に会社も同じだから・・しかし本当に大丈夫か?と微かな心配をしていたのだった。
だが・・やはり人生の流れが大きく曲がり、制御が効かない事になっていった・・。
いつも朱音から定期的にある連絡が来なくなった。
流れを変えたせいで、良からぬ方向になったかもしれないと、朱音に無理に会う約束をしてこの事を追求したいヒロシだった。
駅前の喫茶店で待つこと十数分・・朱音が現れた。
「先輩・・待ちました。病院混んでいて遅れました。ごめんなさい。」朱音はいつものTシャツ姿ではなく、ワンピースにスニーカーであった。「朱音ちゃん病気か何か?病院なんて・・」朱音は「ううん。違いますけど、行く必要があって行きました」
ヒロシは少し怪訝そうだったが「最近・・ぜんぜん連絡してくれないよね。なんかあった?」朱音は少し困ったようだったが、意を決したように話し始めた。
「実は先輩・・私たちもう終わりです。私・・妊娠中です。先輩の子ではありません。ユウジ君の子を身籠りました。ごめんなさい・・」ヒロシは「・・冗談はやめよう。そんな事嘘でしょ?ある訳ないよ・・」朱音は上を向き「嘘ではありません。今、私のお腹には、ユウジ君の子がいます。私・・親に正直に言って、もうどうにもならない時期だったから・・さっきお母さんと母子手帳を貰いに行ってたの。ユウジ君、先月に大学辞めて、建築会社に勤め始めた。来月から隣町のアパートで一緒に暮らすことにしてる・・。」
ヒロシは頭が真っ白になって言葉を失った。
「先輩・・本当にごめんなさい。でも、生まれてくる子には責任はないから、憎むなら私を憎んで」そう朱音に言われ、ヒロシは「分かった。もう、それ以上は何も言わないで。これ以上言われると・・でも、訳だけ教えて・・なぜ俺じゃなくユウジを選び、ユウジの子を身籠ったかを」
朱音は下を向き困るような素振りをしていた。
「じゃあ・・なぜユウジなのかなぁ」ヒロシは端的に聞いた。それでも言いずらそうだったが「先輩は私が大事って言うけど、肝心なところでブレーキかける。私、あの夜のホテルでの出来事がショックだった。私が大事なら離してほしくなかった。でも・・先輩はブレーキ掛け、私を受け入れなかった。だから・・ユウジ君が・・」
「もういいよ。分かったから、それ以上は君も話しするの辛いだろう」
そういうと席を立ち「ありがとう。朱音ちゃん。正直に話してくれて。ユウジとの幸せ願ってるよ。俺は大丈夫だから・・君との第二の人生の思い出を大切にして生きていくから・・」そう言って店を出ようとした。
朱音は泣きながら「先輩は・・最後までそうやって優しくするんですね。もっと怒って下さい。私を貶して下さい。朱音をもっと叱って下さい。先輩!」
ヒロシは立ち止まって「仮に君を責めても、この事実は変わる?それに俺はきれいに終わりたいんだ。誰も傷つけたくない。気付かなかった俺の責任だから。君が自分だけを見てくれていると錯覚してたし、確かに君がここ何ヶ月かおかしかった事、気付きながら放っておいた。それも俺の責任さ。・・じゃあ元気で・・」そう言うとヒロシは店を出て行った。朱音は泣きながら、ヒロシの去っていく姿をじっと見つめていた。
ヒロシは念の為、ユウジを調べた。朱音の言う通りだった・・どうも大きく歪んでしまったようだ。
違和感・・変化への対応・・できていなかった・・
第二の人生とこの第四の人生でのストーリーが最初から違っていた・・それが違和感であり、歪む前に対処ができた筈・・ヒロシはそう思うのであった。
流れが同じであり、ユウジが朱音を好きであった事も同様だったが、同じ対応をして放置してしまった・・結果がこの事態だった。
ヒロシはこれが報い・・そう考えてしまった。
ヒロシの第四の人生で起きた、この最大の事件は、ヒロシを長い時間苦しめた。
朱音に会いたくて、また一緒に暮らすためだけに生き頑張ってきた。それが最悪な事態が起き、一瞬で全てが消失してしまった。
生きている価値も先の目標も無くなり、ヒロシはまた自暴自棄に陥った。毎日毎日・・同じことを考え、頭を抱え死ぬ気で努力してきたことを悔やんだ。
大学は取り敢えずは卒業したが、就職もせずアパートで引き篭もっていた。「どうせ俺は・・」と第一の人生に舞い戻ったかのように、昼間から酒を飲み、髪はボウボウ、髭も剃らず時間だけが過ぎ去って行った。あれほど避けていた賭け事に嵌り、夜は工事現場の助手として働き、朝に風呂に入り、二時間程度の睡眠からパチンコに行くのだった。
咥え(くわえ)タバコで、十五時くらいまでパチンコをやって、昼間っから立ち飲み屋で酒を飲んだ。だが気が晴れる筈もなく、二時間睡眠でもまったく眠れず、眠れないからまた酒を飲んだ。最後には胃潰瘍で血を吐いた。
ヒロシは入院もせず、朝から晩まで酒を飲んで、朱音を忘れようとした。酒場での喧嘩や、バイトの無断欠勤もあり現場先をクビになり、お金も底をついた。
ある朝ヒロシは一通の手紙を書いた。
「拝啓・・風間朱音さま
お元気ですか?僕は・・一応は生きています。(笑)
君は明るく素直で、真っ直ぐな性格だ。今も君の笑顔を思い出し僕も元気をもらいます。
“風は間まを吹き、茜色の音色みたいに、過去から今の隙間に僕を癒すように心に吹きます。”
そうだった。今までは・・どうやら僕は君を二度選択すべきではなかった・・かもしれない。いつも気づいた時には遅いから、全てに後悔する。でもね、僕はこの選択で君に会い、沢山このうえなく君を愛せた。宝だよ、ありがとう朱音ちゃん・・幸せになって下さいい。
谷ヒロシ
ヒロシは手紙をテーブルの上に置き、ドアノブにロープを巻き付け、それを裏窓から垂らした。「ヒロシよ・・既にさゆりに断たれた命だけど、今回は自分で処理しな。今も思うよ。君に許して欲しいとは思わない。だけどこの新しい人生で、いろいろ貰った。でもね、一瞬であっという間に消えた・・煙みたいに。だから君が俺を消したがったように去るよ。じゃあな・・
そう独り言を喋るとヒロシは、ロープを自らの首に巻き付け裏窓から飛び降りた。
自分で命を絶ったのだった。
息が止まりそうになり、心臓が停止間近、脳が止まる瞬間だった。
「馬鹿!」と言って、ロープを切る女性が見えた。ヒロシは「・・余計なことを・・」
ロープが切られヒロシは一階の花壇に落ちた。三階からだったので、怪我は少なかった。
救急車が来、ヒロシは病院に運ばれた。
緊急手術となったが、自殺が要因ではなく、放ってあった胃潰瘍が悪化してポリープとなって、ガン化する手前だった。二時間程度の手術は無事終わり成功した。その日は母親が面倒をみたのだった。
夜になり目を覚ましたヒロシは「お袋・・ごめん」そう謝って、少しだけ涙を流した。
「理由は分からないが、死にたいなら人に迷惑掛けず逝きな・・馬鹿息子。」母親はそういうと啜り泣いた。
「いったい誰が・・ロープを切ったんだろう?」ヒロシが言うと母親は「何にも覚えてないんだね・・恵美ちゃんだよ。恵美ちゃんが発見して、ロープを切ったんだ。感謝しな!彼女に」
ヒロシには不思議だった。恵美がなぜ自分のアパートにきて、俺を助けたのだろう。絶妙なタイミングだ。良すぎて、気持ちが悪いくらいだ。
そう考えるのであった。
「さっきまで恵美ちゃん居たんだよ。ずっとあんたの手を握って、じっと顔見てたよ。・・驚いただろうに、先に帰るってさっきね。」
ヒロシは起きあがり「恵美に会わないと・・痛ててて」そうは言ったが、手術したばかりでとても動ける状態ではなかった。
「馬鹿だね、あんたは!動ける訳ないだろう!腹切りしてるんだから・・阿保!」母親は呆れていた。
ヒロシは自分が死ぬつもりで、ストーリーを書いたが上手くいかずある流れを感じた。手術した傷痕も直ぐに癒えない・・この次元が最終ではないかと。ヒロシは少しだけ生きる運命を考え始めた。
それから二週間後ヒロシは退院して実家に戻った。
自分の部屋に入り、アパートにあった雑物が山積みされていた。ヒロシはまずは風呂に浸かり、髭を剃り髪を何度も洗った。その後に近所の床屋で髪を切り、顔剃りもしてもらい、姿だけはすっかり昔のヒロシに戻った。
「あゝスッキリした!」そう言うと背伸びをした・・がその瞬間「馬鹿!ヒロシ!」と聞こえたと思ったらヒールが飛んできて、ヒロシの頭に命中したのだった。
「痛―って。誰だよ・・まったく・・何の怨み・・あ、恵美・・」
「どう!目が覚めた!馬鹿ヒロシ!」恵美だった。
「先ずは君にお礼と言うか・・たくさん面倒をかけたごめん・・恵美・・本当にごめんなさい。俺・・どうかしてたよ。本当にごめんね・・」そう言って謝るしかなかった。
「馬鹿ヒロシ!目が覚めた!・・本当に死ぬかも・・って思ったよ。う〜私・・心配で心配で・・馬鹿・・」そう言うとヒロシを抱きしめ涙を流した。
ヒロシにはどうか・・あのまま放っておいてくれと思った気持ちがあり、堪えられないほどの苦しみを誰にも言えなかったことが、余りにも不甲斐無く、情け無く、どうにも状況が整なわなかった。
「ごめんよ・・恵美。俺・・朱音を失っておかしくなりそうで、自分でも分からないけど、こうしたら・・終わるかと思って・・馬鹿だったよ。すまない」
そうヒロシは正直に話した。
恵美は「本当に・・あなたは馬鹿だよ。・・せっかく私が諦めてあげたに、こんな事するなんて、私をなんだと思っているのよ!!」と恵美は怒りを爆発させ、ヒロシに平手打ちをした。かなり強く・・
「痛い?ヒロシ君!痛いでしょ!これが私の今の気持ちだよ。どれだけ心配したか・・う〜・・バカ・・ヒロシのほんとバカ・・バっ」
恵美は泣き崩れ膝をつき座り込んでしまった。ヒロシは恵美を抱きかかえ起こし「いいよ・・俺は本当にどうしようもないアホだから、好きなだけ貶して・・好きなだけ殴っていいよ。恵美だったらぜんぜん平気だから・・さーあ!」
ヒロシは目を瞑り、頬を突き出した。恵美はその頬を右手で押さえたが、もう片方でも押さえて
「バカ・・私は・・、ヒロシが死んだら生きていけないのが分からないの!あなたと何度別れたって・・、この世で一番大切な人なんだから、私のためにも生きて・・大好きなのヒロシ君・・」そう言うと彼女はヒロシに口づけをした。
優しくそしてヒロシの荒んだ気持ちが和らぐように、恵美はヒロシに言葉では伝わらない心の限界はいつだって、互いが愛するってことを教えるように・・口づけをしたのだった。
ヒロシは自然に体の力が抜けていき、恵美の口づけが自分の過去で絶対に忘れていけないと思っていた頃を思い出させ、正に最後まで求めていた回顧たる純愛だと思った。
「なんかありがとう・・恵美。正直、君に惚れ直した。ずっと昔から・・と言うか・・ずーとかなり前からね・・やっぱり好きなのかも俺は・・君が」
ヒロシは少し落ち着いて言った。
「でも・・どうして俺のアパートに来たんだ?あいつと結婚しただろうに?旦那に黙って来た?それに俺のアパートの住所も分からないのに・・」
恵美は「だから・・ヒロシはハアー・・呆れちゃう・・まったく・・」ヒロシは当然のことを聞いたつもりだった。「だから・・ヒロシは単純だって言うのよ。私の言うこと全部信じて・・。あの日、五年前?・・私、あなたにお別れの電話したよね。」
ヒロシはそう言えばそれがきっかけで、茨城の大学に行くことに迷いが無くなった・・そう思い出した。
「ヒロシ君は私の“フリ”って言うのが理解できない?どんな想いであんなふうに突き放したか?理解できていないでしょ?朱音ちゃんの事ばっかり考えていたから・・」そう言うのであった。
確かに第二の人生の経験もあって、朱音と一緒にいることが当たり前と考えていた。
「だけど・・朱音え〜、朱音〜ってアホみたいに追いかけたら、ヒロシはこんなザマだよ。悔しいたらありはしないわ!まったくもって!単純なんだから・・」確かにその通りだった。過去の経験が間違っていないと信じていたが、僅かな歪みでボロボロになってしまった。出会いが早すぎて、予定が狂った?のか。
「でもね、彼女が好きだったことは確かだし、君が言っていた偶像でも無かった。だから朱音を恨むつもりもない。ただ・・裏切りって・・何か・・こんなに辛くて心に深い傷を負うもんだと思ったよ。どうして?なぜ?どうして俺じゃないんだ?俺のどこが嫌い?とか・・自暴自棄になった。でも、それってナルシストだよね。自分に自信あったのに、裏切られた心の傷が余計に広がった。本当にバカみたい。」恵美は黙ってヒロシを抱きしめて「いいのよ・・私だって、ヒロシ君を何度も何度も深く傷つけた・・でもね、それはね、私があなたを本当に好きで、仮に振っても、仮に突き放しても、あなたは私の元に帰って来ると思っていたの。・・私こそナルシストだよ。私の方がバカみたい・・」「仮にではないだろマジだった」
ヒロシは恵美に「子供も待っているだろう・・もう帰りな。俺は大丈夫だから・・」そう促した。
恵美は「・・・たく、まだ気づかない・・」首を傾げた。「だから!遅くなる前に・・えっ?まさか・・そうなの?嘘だよね?」
「そうだよ。私は独身貴族でーす!。まさか信じてたの?私が結婚するって?まさか・・過去にあれだけ酷い目にあって、そこまでの勇気は私には御座いませーん!私の体型見てよ。子供を産んだ体型に見えます?」ヒロシは開いた口が塞がらなかった。まさに体型は更に磨きがかかった完璧な恵美だった。
「よく・・あんな嘘つけるね。俺はまた・・君を失いあの子のところ行くように諦めた・・そんな気がして・・仮に俺が本当に朱音とまた結婚したら、どうしてたんだよ!まったく!本当になんて勝負師なんだよ」
恵美は自信げに「ヒロシ君は私だけのたった一人のヒロシだから、幼い時からずーと私だけだったから、この第三の人生では絶対に私の旋律を感じとってくれると思った。間違いなく!不安はあったけどね。
私だって無理すれば、ヒロシ君みたいに、音楽的って言うか?詩的ことくらい言えるよ!どう?参りましたか?」ヒロシは笑いながら「すっかり俺みたいだよ一杯喰わされた・・まったく恵美には・・」そう言うと恵美の頬にそっとキスをした。
「これは?・・タバコの匂い?」恵美はさりげなく言った。ヒロシはあーまたかと思ったが「Floverでしょ!こう言えばいいですか?恵美さん?」
「合格ですヒロシ君・・キスしてあげる」「もういいよ・・」「そんなこと言わないで」
この時こそ二人は幸せ・・であった。
暫く歩きながら「でも・・何で俺のアパートに来たんだ。あまりにもタイミングが良すぎたよ」恵美は上を見て「だって、ヒロシが就職しなくて困るって、お母さんが愚痴言っていたから。」「そう言えばお袋も恵美ちゃん・・て、なんか親しい感じだったな」「そりゃそうでしょう。毎週ヒロシの家行っていたから。一緒にご飯食べたり、TV見たり、ヒロシの噂をしたり、なかなか忙しかったよ。」「えっ!それって家族って感じ?いつから?どうして?怪しい・・」「五年も前からだよ。ヒロシに電話した後に、お母さんに会って、私の気持ち伝えて、それから私たちの長年の歴史を語った。そしたら、心配してくれて、ちょくちょく行くようになった。」ヒロシには寝耳に水だった。
「だけど、あの日あの時間って・・」「あの朝行ったよ。そしたらドアが開いていて中が丸見えだった。そうしたら、ヒロシが自分の首にロープ巻いていたから、驚いて中入ろうとしたら、空き瓶だの空き缶や、ゴミ屋敷で足が縺れた。そんなことしてたら、あなたが窓から飛んで、兎に角慌ててバカ!って言って、近くあった包丁で、ロープをチョキンとした。」「そうだったんだ。でも朝って・・」「お母さんが、ヒロシから連絡ないから、見てきてって言われたの。あゝそれとあの手紙は・・私が預かっているからね。どうしようもない・・馬鹿げた手紙」ヒロシは恥ずかしくて堪らなかった。しかも手紙まで見られて一生の恥だと。
「燃やしてね!お願いだから・・」ヒロシは手を合わせて恵美にお願いしたのだった。「嫌よ!そこまで彼女のことが大事だったと思っていたのが悔しい。逆だったら・・そうも思うし。一応は元夫婦だし。私が怒った時に見せてヒロシ君を困らせるね」と言って、舌を出したのだった。
一月後・・ヒロシは東京の芸能事務所にバンドサポートとして就職した。恵美は現在の本屋を辞め、都内の商社に勤めることになった。
「ねえ、ヒロシ?」「ん?なに?ご飯でも食べる?」
「ううん、今夜さ!うちに来て!」「どうして?」
「お父さんが久しぶりにヒロシに会いたいって・・」
「えっ!・・まずいな。今日はこんなジーンズ姿だし、あゝ着替えてから行くか?」
「いいの、いいんだよ。ありのままのヒロシで」
「・・緊張するよ。君のお父さんに会うの久しぶりだし。ちゃんと挨拶できてないし・・」
「初めてじゃないし、私達のこと良く知ってるし」
恵美はそう言うとヒロシを引っ張りながら自宅に連れて行った。
「谷君!」「あ・・はい!」「君は恵美のことをどう考えているんだね。高校生から付き合っては別れ、別れては付き合って・・忙しいがどうなんだ?これからどうする気だ」ヒロシは困ったが、恵美がホーホーと手で合図で(言って!言って)と促すので「はい!好きです。昔からずっと好きで諦めず、粘り強く、時には嫌われましたけど、それでも僕の気持ちは変わらず、今日まできています。どうか・・幸せにしますので・・むすめ・・」恵美は思わず「えっ!ねえ・・ヒロシ・・発展し過ぎ」ヒロシは赤くなり「・・いや、なんというか・・」恵美の父はギュッと睨み「なんだね。はっきりしなさい!子供でもないだからね」
ヒロシはもう!どうにでもなれの気持ちで「娘さんを僕にください!絶対に幸せにします。今はまだ証明できませんが、ずっと大切にしますので、お願いします。僕は恵美さんを愛してます!」そう思わず言ってしまった。恵美の父は「ううん・・と暫く黙っていたが「よく言ってくれた。恵美も、もう二十五だし行き遅れたら・・そう思っていたが、君がやっとその言葉を言ってくれた。ありがとう。この子を頼むよ。少し我が強いが我慢してやってくれ・・」ヒロシは緊張のあまり固まってしまい、笑いも引き攣っていた。
恵美は嬉しそうに涙を流して「まったくヒロシは・・急なんだから。まったく驚かされちゃう」
その夜は恵美の両親と遅くまで、酒を飲み夕食を美味しく頂いたのだった。
帰り道・・「俺と君の分岐点って変わったのかな?」「変わってないわ。・・昔も今も・・だって私、結局ヒロシ君が好きで、ただ・・自分に正直にこの五年間を生きただけ。過去では諦めただけ。ヒロシ君は、変えたつもりかもしれないけど、どう?必然ってそう思っている?私たち。」確かにそうだった。自分ではさゆりに会わないように、右から左に変えたつもりだったけど、進む場所が変わっても、人に出会い、誰かを好きになったり、その為に努力や自分をよく見せようとした。・・これって最初と同じだった。中学生時代に彼女を好きになって、告白するには自分を変えるしかなかった。死ぬような思いして、勉強や音楽にスポーツに勤しんだのは、全て、たった一人の女性の為だった。第二の人生だって、結果的には朱音の愛を感じ、努力したり、自分を隠しもせず、一生懸命だった。この二つに大きな差異は無かった。
「そうだね。俺は変えたつもりだったけど結果的には、同じ結果になった・・裏切りって言う酷いこと。でもね、結果の後は今回だけは・・スペシャルステージがあった。初恋・・First loveかな?。」
ヒロシはある程度悟った。分岐点を変えても同じだと分かって、ある意味ではある一つの別れ道を自分が選択して信じて生きる。これが必然だと。
{風は間まを吹き、茜色の音色みたいに、過去から今の隙間に僕を癒すように心に吹きます}
この詩・・これが最終の決戦の唄になった・・
ヒロシは恵美の愛に気づき、何度も別れたことで本当の恵美を発見した。この後ヒロシは恵美と幸せに暮らすことになるのか?・・第五章につづく




