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折に触れて廻る・・間違いだらけのタイムリープ  作者: 馬場 ヒロシ


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第二部  恵美  第四章 帰還

静岡に来た恵美は次々と不幸に見舞われ、大きなショックを受ける

第四章  帰還



恵美はヒロシと共に静岡の地に来た。

恵美にとっては、悪夢の後であり慣れない土地でもあったので、不安があるのであった。

しかし愛するヒロシと共に生きていける喜びがあり、だんだんと明るさを取り戻していた。

ヒロシは大学でゼミ、帰ってからは恵美と一緒にバイトに精を出していたのだ。

「ヒロシ君?・・体・・大丈夫?毎日忙しいけど、体壊さないでね。私も頑張るから、辛い時には言ってね」

そう恵美はヒロシに心遣いをした。

「うー・・辛いとき?そうだな・・恵美が寝てイビキかいてる時かな?」

「ひどい・・そんな時がつらなんて・・」

「だって・・君の夢の中でも一緒にいたいから!」

「もう(愛)・・ヒロシ君たら・・」

いつも仲の良い若い夫婦だった。

ヒロシはたまの休みに恵美と一緒にバンド活動に出掛けていた。

バンドは無論、あの時にヒロシを誘った女性を含め、ヒロシの他に4人いた。

「おお久しぶり!今日もよろしくね!」とヒロシは挨拶をすると恵美にバンドメンバーを紹介した。

「この人が仲間さんで、俺をバンドに誘った人・・」

「よろしく!仲間ユリです。キーボード担当でバンドのリーダーしてます。・・聞いてはいたけど・・美人だね、ヒロシの奥さん!びっくりだわ」

そう言い恵美を見たのであった。

「初めまして!谷恵美です。よろしくお願いします」

「・・えっと、こっちがドラムの上原君で、この人がギターの下山さん・・それと、この人がベースの浅丘さんだよ」

「皆さんよろしくお願いします。谷恵美です。」

みんなは恵美を見て一目でヒロシが惚れた理由が分かった。

「谷君・・美人だし胸も大きいね。谷君のタイプだね!」そう上原が茶化した。

「そうだね・・彼女は心が美しい人だから・・惚れた!それにこんなに気の合う人はいないから・・」

そう言い恵美を讃えた。

恵美は顔を赤らめ「ヒロシ君・・恥ずかしいからよしてよ。・・でもあってるかも」

みんなは笑い挨拶が済んだ。

このバンドは大学の知り合いでもなく、社会人の集まりでもなかった。純粋に音楽好きが集まり、オリジナルの曲を演奏して楽しんでいた。

恵美はヒロシがのびのびと音楽をする姿に喜びを感じていた。荒んだ学生活を脱却したのはやはり音楽だったからであった。


ひと月後、恵美はヒロシの行動に少しだけ疑問があった。大学4年になって、ゼミしかない筈が帰りが夕方であった。しかも毎日だったので、ある日恵美は疑心からゼミが終わる時間に合わせ大学に行った。

「ヒロシ君は・・いた!ヒロ・・シ?君?・・」

恵美は大学から出てきたヒロシに気づき声を掛けようとしたが。「誰?あの人・・」

ヒロシは笑いながら、ある女性と校舎から出てきたのであった。

「・・あれは?えっ!・・朱音?ちゃん・・」

ヒロシと校舎から出てきた人は、繰り返される人生で苦痛を恵美に与えていた朱音だった。

「・・どうして大学にいるの?おかしいわ。この次元で彼女は現れない筈じゃ?それにちょっとだけ雰囲気が違うわ・・少し美人だし、服装も豪華?」

恵美はヒロシがなぜ彼女と居るかを確かめる為に、2人の後を追った。

見る限り談笑しながら、2人は歩いているようで、ある喫茶店に入っていった。恵美はバレないように目隠しのつい盾がある裏の席に座り、2人の話を聞いた。

「それじゃ!君の過去の話を今日も聞かせて。昨日は俺が大学卒業して、メーカー系の会社に入社したんだったね?それから俺はどうなったんだ?」

恵美は驚き思わず口を手で押さえた。その子はヒロシに過去について説明していた。

(あり得ない・・なんで朱音ちゃんが存在して、ヒロシ君の過去を知ってるのよ?)

恵美は更に不審に思い話を聞いてみたのだった。

「谷さんは会社に入って研修後にこの静岡に赴任します。そこでは過去のしがらみを思い出すことを拒んでいました。・・ただ急展開があり、後輩である朱音が・・というより私ですけど、同じ会社に就職する事知り飲み会に誘われます。そこで朱音と再会して、一度心を痛める事件があります。」

「ふ〜ん・・俺は心を傷めるんだ。彼女を好きだったの?それで事件になるの?」ヒロシは尋ねた。

恵美はかなり危険な状況と判断して、2人の会話に割って入ろうとした。が・・何故か体が動かなかった。声も出ず、2人の話し声だけが耳に届いた。

「谷さんは私を好きだった。心から・・でも去っていった。だけど半年後に再会して、一夜を過ごしました。胸を揉み、下に手を入れxxを触り入れ、脱がして上から下まで舐め回して、あなたは私のxxにxxxを入れて感じて高揚して私のxxの中にzzzを出したわ・・やがて谷さんと私は結婚した。」朱音は如実に過去の話を今のヒロシに話をしたが、ヒロシは「う〜ん・・だったら君は何処から来たんだ。過去って言うけど、俺が幼稚園生の時にでも会った?あり得ない。それに君に会ったのは2週間前で、その時が初めてだったよ。」そう言うのだった。

恵美はヒロシが信じないのは無論な事で、朱音のことは全く知らないのは当然だと思った。恵美は必死に叫びヒロシに伝えようとしたが、椅子に座ったまま全く動くことができず、歯痒さが増していた。

実は朱音は恵美が住人と取引をする瞬間を見ていた。彼女はヒロシをずっと追っていた。自分を選ばず、恵美を選び幸せな生活をずっと我慢して見ていた。朱音は住人に頼み込んだが拒否され、元の次元に戻されたが、ヒロシと同じように不思議な力を持っていた。

彼女は裏の住人と呼ばれる悪魔に魂を預け、恵美のいる次元に現れた。恵美の事件も朱音が仕込んだ事だった。朱音のヒロシへの想いは怨念となり、狂気に満ちていた。

「ここ1週間であなたに話したことは事実だし、私は嘘を言っていないわ。私は別の次元から来ました。・・あなたが愛してやまない奥さん・・恵美さんも。だから少し変だと思いませんか?」「何が?」

「奥さんのこれまでの挙動が・・まるで一度経験したようにあなたに接していませんか?あなたは過去で彼女に1度騙されます。彼女は本当は過去であなたを振って、20歳の時に別の人と結婚します。彼女と再び会うのは60歳の時です。彼女は好きだと言っていた割には、別の人を選択しました。それを知らずにあなたはこの時代で、彼女に求められて結婚しました。本来はあなたは別の人と結婚します。私と出会う次元ではない、この次元で。既に谷さんはその人を失っています。本来の次元が歪んでいます。」

ヒロシは朱音の話があまりにもリアルであったので、

「・・恵美はそんな人じゃない!何を言うんだ!彼女はそれじゃなくても心に傷を持ってるんだ。よしてくれ恵美を悪く言うのは!」ヒロシは激怒して去ろうと席を立ち上がった。

「信じたらいいと思います・・それもあなたの人生だからいいのでは。私は余りにも彼女の話を鵜呑みにしてるから、相変わらずお人好し・・そう思ってるわ。

あの事件の犯人について、谷さんは恵美さんに何か聞きましたか?衝動的?それとも狙っていた・・」

ヒロシは朱音を睨み「恵美は!被害者なんだ!それにあの事件のことは、忘れさせてやりたいんだ!」

朱音は少し笑いながら「だから、谷さんはお人好しなの。あの殺人犯は過去の別次元では、彼女の旦那さん・・。彼女はそれに気付いて筈・・でも?話せないわよね?元旦那さんに犯された・・なんてね・・」

ヒロシは驚き立ったまま硬直していた。

恵美は何故?どうして?朱音はそんな事までヒロシに話をするのか?考えると泣き叫びたかった。でも声が出ず体が動かなかった。

「もし・・それが本当だとして、君は何を考えこんな話を俺にするんだ。君は何をしたいんだ?」

ヒロシは朱音のすることの意味が分からず尋ねた。

朱音は「・・戻す・・元の私達の次元に。私と先輩の世界に」そう言うとバックから包丁を出し、ヒロシの胸をひと突きした。「うううっ・・」ヒロシは苦しみ床に倒れた。ヒロシの胸からは血が吹き出し、朱音の顔にかかった。

恵美はハッと思った。朱音が次元を変えようとして、ヒロシを刺した。朱音は自分の心臓目掛け、自分が手にしている包丁で刺した。

恵美の体がやっと動き、隣の席に飛んで行った。

そこには瀕死状態のヒロシと朱音が床に横たわっていた。周囲の客が泣き叫び店の外に逃げていった。

「ヒロシ君!ヒロシ君!・・」

恵美はヒロシを抱きかかえ、何度も名前を呼んだ。

「・・む・・だで・・す。恵美・・さん。先輩は私と行きます。ふふふ・・あ〜良かった・・」

そう言い朱音は絶命した。

間もなくして救急車がきて2人を緊急搬送したのだった。朱音は手遅れのようだったが、ヒロシは僅かに脈があり奇跡的に目を開けた。

「ヒロシ君・・ヒロシ君  うううー」

「恵美・・泣かないで。俺は死にはしないから・・」

そう言い恵美の手を握った。

恵美は心で願った(住人さん・・聞こえる?私のわがままでヒロシ君が・・こんなことになった。ヒロシ君を助けて!お願い!ヒロシ君が助かるなら、私の命をあげます。)そう心で話しかけた。

急にヒロシが苦しみだし、血圧が急降下した。

「ヒロシ君!ダメ!・・ヒロシ君!」

ヒロシは救急車で絶命したのであった。

「わー!!!ヒロシ君!どうして!」

恵美は泣き叫びヒロシを離さなかったが、急に救急車の後ろの扉を開けて飛び降りた!

「おい!待て!君!」救急隊員が手を伸ばしたが、手は届かず恵美は外に放り出された。

道を転がりながら「ヒロシ君・・私も行くね・・天国で会おうね。約束だよ・・」そう言い息絶えた。


どれくらいの時間が経っ経ったのであろうか?

ヒロシも恵美も朱音も・・絶命した。

恵美は何故か?遠くから声が聞こえることに気付いたが「やっと・・天国に来たの?・・こっちでヒロシ君を探さなきゃ!・・」

だがその声はだんだんと大きくなって聞こえ、恵美はゆっくりと目を開けた。

そこにはヒロシがいて、恵美を心配そうに見ていた。

「恵美!気付いたか?・・良かった!安心した。」

ヒロシは涙を流して恵美の手をしっかりと握りしめ、

ベッドに横になっている恵美を抱きしめた。恵美は不思議に体が重かった。

恵美は自分が医療着を着用して点滴を受けていることに気付いた。

「ヒロシ君・・私、どうなったの?どうして病院にいるの?それに・・ヒロシ君が・・生きてる」

そう言い涙した。

「ううう・・恵美・・大丈夫か?恵美?」ヒロシは泣きながら言った。「良かった・・」

恵美には現状を理解できなかったが、次の瞬間に分かったのであった。

「ママ・・大丈夫?頭痛くない?」

そこには我が息子であるヒカルがヒロシと共にいた。

恵美はやっと現状が飲み込めた。

「ヒカル・・こっちに来て。ママが抱っこしてあげる」ヒカルが近づくと恵美はヒカルをギュッと抱きしめて「長かったわ・・ヒカルに会えるまで」

恵美は現在に戻っていた。だがあの自分を刺した日から3年が経過していた。

ヒロシの話では、ヒカルの出産後に体調が悪くなり、何度も入退院を繰り返し、1週間前に意識不明で植物状態に陥っていた。先生からはとにかく声を掛けて下さい・・そう言われていたということで、ヒロシは毎日同じ時間に声を掛けていたのだった。

信じがたい事態だった。あの次元に朱音が現れ、ヒロシを刺し次元を変えようとしていた。朱音はどうなったのか?不安でもあった。


その頃・・朱音はテレビ局の控え室のソファーで横になっているところで気付いた。

「どうやら・・戻ってしまったのね・・それにテレビ局にいるってことはあれからだいぶ経ってしまった・・ということだわ。あの2人も戻ったはずだわ。・・許さない!恵美さん!絶対に・・私のヒロシ君を奪って、しかも平然と暮らしてる。私は第一の人生の繰り返し・・このまま終われない!絶対にヒロシ君を奪って形勢逆転するわ!待ってなさい。」

朱音は第五の人生でヒロシにまともな生き方を教えてもらったふりをしていた。必ずヒロシを自分のものにすることだけを目的に生きていた。

恐ろしい執念である。ただ裏の住人との約束は、さほど長い時間を与えられた訳でもなく、ある程度の制限があった。朱音は自分の魂を渡す代償でヒロシに短い時間でもいいから、昔のように愛して欲しかったのであった。

この3人の愛憎劇はどこまで続くのだろうか?


ひと月が経ったある日だった。

「ヒロシ君・・お金がないけど、ここから持っていった?一昨日まであったんだけど」

「ああ・・悪い。ちょっと俺が持っていった」

「どうしたの?お金がないなら私に言ってよ!」

「・・まあ!俺が稼いだ金だからな、俺が使ってもいいよね。」

恵美は困ってしまった。給料日までの食費であったので、ヒロシについ言ってしまった。

「ダメだよ!あのお金で今月の食費を賄うんだから!返して!何に使うのよ!」

ヒロシはふて腐れ「俺の勝手だろう。お金なら明日渡すから、問題ないだろう?」

その時に恵美はハッと思った。

これが・・ヒロシ君の過去で堕落していた時期?

ギャンブル依存症・・借金地獄・・浮気・・まずい

恵美は気づいた。ヒロシがこの時期から大きく道を外し家庭を顧みなくなる。これを止められずに60歳まで苦労をかけ続けた。

恵美はヒロシに意見を言わずに、ヒロシがこの道に踏み入れた要因を知るべきと考え、これまでの数ヶ月を振り返ってみることにした。

「私が戻ってきた3ケ月前は、何事もなかったわ。その後に何かあったんだわ。」

恵美はいろいろと調べていた。ヒカルを保育園に送った後に銀行や金融会社に行ったり、そっとヒロシの持ち物を探ったりもした。だが要因が分からなかった。

この次元ではさゆりは存在せず、自分が女房であったので、この堕落がある筈は無いと思っていた恵美だったが、起きてしまっている・・

恵美は仕方がなく、土曜日にヒカルを両親に預けヒロシを尾行したのだった。

「いったい・・どこに向かってるの?パチンコ屋さんじゃないのかしら?」

ヒロシは駅前のパチンコ店を過ぎて線路沿いの小さな店に着いていた。

看板にはカレーハウスと書いてあったが、どう見てもカレーを出す店には見えなかった。

扉を開けて中にヒロシが入って行くのを見た恵美は、ヒロシが入った店内をそっと覗いた。

ヒロシは財布から2万円ほど出し店員に渡し、何かの小袋をそっと手渡しでもらっていた。

「何あれ?風邪薬みたいだけど?」

そう恵美は思っていた。しかしその後に驚くべき光景が目に入ったのであった。

ヒロシはその小袋を開け、水らしきものが入った小さなコップにその中身を入れた。その後ストローでかき混ぜ、ゆっくりと飲み始めたのだった。

恵美は驚き「止めなくちゃ!」そう思い立ちあがろうとしたが、体が動かなくなって、声すら出ない状況になった。「・・これは(汗)」

この次元に戻る前に、朱音がヒロシを刺殺した時と同じであり、呪われたように目と耳だけが敏感に感じられた。「どういうこと?あの時と同じだわ・・」

恵美は扉の前でじっとしているしか出来なかった。

ヒロシはその何かの解き水を飲み干すと、床にぐったりと倒れた。そこに店員が寄って行きヒロシを抱きかかえると、床を引きずるようにヒロシを店の奥に連れて行ったのであった。

恵美は必死に体を動かして、這いつくばる様に店の中に入って行った。声が出ず体の自由が効かなかったが、奥に引きずり込まれたヒロシを追った。

店の奥には美容室にある様な椅子が置かれており、その上にヒロシは横たわっていて、口は動くが昏睡状態のように見えた。

店員がゆっくりとヒロシの顔を触ると「さあ!本来の自分に戻りましょう・・元通りの世界です」

そう言いヒロシの手を握り語りを始めた。

「今回はあなたの素性についてです。元来あなたは貧しい家庭に育ったため、お金が欲しくてたまらなかった・・働き始めてお金を手にすると、歯止めが効かずに浪費してます。家庭を顧みずに賭け事や趣味のものを次々に買い漁り、借金まみれに陥ります」

ヒロシはそっと口を開け「俺は・・醜い男だった?」

「そう・・あなたは堕落した醜い男だった。それが本来の谷ヒロシです。いくつもの愚弄された次元であなたは生き、本来の自分を忘れてしまい、奥さんに騙されて今を生きている。創造された空間だと知らずに、結婚する筈がなかった奥さんや、仕事に毎日の生活・・それが今のヒロシなのです。目を覚ましてください・・元々生きていた様に」

恵美は驚愕した。ヒロシの第一の人生から今までの次元を全て知っている店員・・それに元来の次元に戻そうと躍起に説得していること・・

(彼女は朱音ちゃんだ・・それしかあり得ないわ)

そう思うのであった。

いつの間にか店員はヒロシを置いてその場から居なくなっていた。

恵美の体が動く様になり、ヒロシの元に走った。

「ヒロシ君!ヒロシ君!しっかりして!」

恵美はヒロシの頬を軽く叩き、体を揺すり起こそうとした。その呼びかけにヒロシは反応し起き上がった。

「あゝーあ!よく眠った。・・恵美?どうしてここに居るんだよ!」

「ヒロシ君こそ!どうしてここに!何をしてるの?」

恵美はヒロシがいつものヒロシではないことに気づいた。目がうつろであり、呂律も回り難かった。

ヒロシは椅子から降りると、店を出て駅前のパチンコ店に向かった。店でパチンコ台を叩き、咥えタバコに足を組む姿を見せていた。

「・・ヒロシ君。壊れてしまったの?同じ堕落した生活を今度は私に向けてするの?これが現実なの?」

恵美は店の前でパチンコに嵌るヒロシを見つめ、啜り泣いたのであった。

これが人生が廻る・・と言うことかと恵美は失望感を感じ取って、これからどうすべきか?も想像できないのであった。

ヒロシは家や会社では優等ぶりをしていたが、裏では堕落感が増して、恵美は生活に苦慮し始めていた。


2年が過ぎたある日・・

恵美とヒロシは30歳を過ぎていた。

恵美はヒカルが学校に行くのを見届けて、スーパーでパートタイマーの仕事をしていた。

ヒロシは相変わらずにバンドサポーターとして、事務所に勤めていたが、賭け事も浪費癖も治らない。

恵美の人生がさゆりの人生に変わっていた。

ヒロシは夜遅くに帰ると食事もせず、テレビを見ながらビールや日本酒を気の済むまで飲んでいた。

ある日、恵美が「ヒロシ君!また借金したの?何回やったら気が済むのよ!これじゃ・・生活していけないわ・・」そう泣くしかなかった。

ヒロシは「ごめん・・気付いたら払えなくなって・・本当にごめん」そう言うのであったが、何度目だったか・・完全にヒロシそのものだった。

休みの日はヒカルを連れパチンコ店に行き、抱っこしながらパチンコしていた。ヒカルに落ちているパチンコ弾を拾わせ店員にも注意されていた。

ヒロシも心では(最悪な父親だし・・ダメ夫だな・・)

思ってはいたが、立て直しが既に手遅れだった。

そしてヒロシ33の時だった。

事務所の後輩に手を出して、その子の部屋に入りびたち、家に帰らない日もあった。

ヒロシはその子のことを本気だ・・と言ったが、相手は遊びだと説明して目が覚めたヒロシだった。

恵美にはどうにもならない日々が過ぎていったが、住人が言っていた言葉を思い出し噛みしめた。

「ヒロシの第一の人生の堕落を救えるか?」

これが頭から離れなかった。当時の恵美にヒロシを救うという自信はあったが、今となっては過去の産物になっていた。

恵美はさゆりと同じようにヒロシを憎み始めていた。

「今度は私がさゆりさんってこと?やっぱり通り過ぎた過去は変えられないんだわ。私は・・ヒロシ君を薬で殺すの?そこまで憎むの?」

止まらないヒロシの暴走はこれからも続き、初老になるまで己の愚かな行動を顧みない。

恵美が最も寂しかった事は、ヒロシが昔のように自分を愛していない・・それが苦しく、耐えきれない程の心に打撃を与え続けた。

初恋・・なんであったのか?

繰り返しヒロシを愛し、救い出してきた。

生きる為の証がヒロシだった恵美は、疲れきってしまっていた。

そんな1996年7月・・ヒカルが6年生になった。

家庭事情を気にせずにすくすくと育った息子が、今の恵美には生き甲斐だった。

ヒロシは相変わらずに堕落していたが、ヒカルには優しく接して父親としてすべき事をしていた。

終業式の日、ヒロシはヒカルを迎えに学校に来たが、僅かな差でヒカルは下校してしまっていた。

仕方がなくヒロシは家に戻ることにしたが、その道中でヒカルを発見した。

「おい!ヒカル!」

「ああ!お父さん!今そっちに行くね!」

道路の反対側を歩いていたヒカルは、車に気をつけながら道路を渡ろうとした。

左右に車の気配はなく、ヒロシもヒカルの笑顔を見ながら近づいていった・・だが

車の気配がなかった筈なのに、ふわっと突然に車が現れヒカルの元に突っ込んできた。

「ヒカル!!」ヒロシは叫んだ。

ヒカルは車に撥ねられ、3m程飛ばされた。

車は急停車しヒカルの元に走っていったが、ヒカルは真っ赤な血に染まり既に意識がなかった。

ヒロシはその男を突き飛ばすとヒカルを抱きあげ、携帯で救急車を要請した。

間もなくして救急車とパトカーが到着したが、ヒカルは意識不明の重体のまま病院に搬送された。

ヒロシはヒカルの手を握りしめて「お父さん・・ごめんな・・もっと早く迎えに行っていたら・・ヒカル」

泣きじゃくるヒロシに隊員は「蘇生術をするので少し離れてください」そう言うのだった。

病院に着きヒカルは緊急手術を受けることになった。

恵美はパート先から大急ぎで病院に駆けつけた、手術中でヒカルには会えていなかった。

「ヒロシ君・・どうして・・なんで・・ヒカルが?」そう泣き叫んだ。

「分からない・・車なんて一台もいなかったのに・・急にふわっと空間から現れて・・ヒカルを撥ねた」

ヒロシにもヒカルにも車は見えておらず、安全を確認して道路を渡った筈なのに、空間から突然に車が現れ避けれない程だった。

手術は成功してヒカルは一命を取り留めたが、長期の入院が必要になった。

恵美とヒロシは警察に行き、ヒカルを撥ねた男について確認をした。男の話によると高速道路を走行していたが、急に前方の景色が一変して、気づいたら一般道を走っていたと言う。そこに人が居るのを発見して急ブレーキをかけたが間に合わなかった・・という話。

2人はそのあり得ない話を信用しなかったが、何度聞いても同じ話しか聞けなかった。

恵美はある意味で、自分が歩んだ廻る人生を思い出していた。長く辛い過去の自分とそれよりも辛かったヒロシの過去・・ヒカルが事故に遭ったのも、歪んでしまった次元が元に戻ろうと様々な事象を起こしている。裂け目の住人が「出来るか?・・」そう聞いたのは、ヒロシ個人の第一の人生を方向変えしてまで、修正する事は難しい事であり、本来の時間の流れに相反した恵美の行動が悲劇を起こしている。そう感じた。

2ヶ月後にヒカルは無事退院して、3人は安堵した。

その後ヒロシは賭け事も日頃の浪費癖や浮気も全くなくなり、嘘のように人間が変わった。

ある晩・・恵美はヒロシに聞いてみた。

「ヒロシ君・・どうしてあんな荒んだ生活をしてたの?元々は真面目で優しいあなたが暗く見えたわ」

ヒロシは飲んでいた缶ビールを置き言うのであった。

「分からないけど・・あの女性の話を聞いてからだと思う・・あのカレー屋で、薬を購入して飲んで、心が飛んでいき催眠術のように言葉が刺さっていたんだ。

高校卒業して俺は挫折をして大学を辞め、次の年にこの静岡に来るのは仕方がなかったけど、その一年後に君が俺の知らない男と結婚する・・そう聞かされ、その感情が本当のように心に刺さり、裏切りに遭った感が沸々と湧きあがったんだ。そうしたら恵美を見るたびに他の誰かに抱かれた・・それが許せず苦しくなって、賭け事に嵌っていった。無論、作り話だと分かっていたけど、その店で薬を処方され話を聞いた後が、何故かすっきりとして、今の自分がバカ馬鹿しくなって、何度も通ううちに彼女の話が現実のように思えるようになったんだよ」

恵美は(やっぱり朱音ちゃんだわ・・ヒロシ君に催眠効果で話を吹き込んで、私達のことダメにしようとしたんだわ。どこまで私たちを苦しめるの・・)

恵美は心で思い朱音を恨んだ。


「でもね俺、気付いたんだ。俺にとって本当に大切なもの・・それってやっぱり家族だよ。恵美にヒカル・・揃っていなけりゃ意味ない!今回の事故で気付かされた。・・夢を見てたんだきっとね。」

ヒロシはそう言い恵美を抱きしめた。

「痩せたね。恵美・・それすら気づかずでごめん。苦労ばっかりだったろう。ダメヒロシで!これからは恵美のことだけ愛すから。今後もよろしくお願い」

恵美はヒロシと結婚して13年の月日を思い出して、涙が込み上げてきた。

「ううん・・ヒロシ君が気付いてくれたからいいの。私はずっとヒロシ君が好きだし、今でも初恋なんだよ。かなり中年になってきたけどね・・」

恐ろしい事件に巻き込まれ、静岡に来ても朱音に揺さぶられ・・恵美は気づいた。

あの21歳の時に喫茶店でヒロシが刺され、救急車から自分で飛び降り自分も死んで・・でも、人生が変わった。住人の約束が守られ、恵美はヒロシが生きている世界に戻れていた。

「住人さんは約束を守ってくれたんだ・・長く苦しい数年だったけど、ヒロシ君が本来の自分に戻ってくれて、ヒカルも死の淵から戻って愛する家族で過ごせる・・これでやっとヒロシ君と一生一緒なんだ」

恵美はそう思い住人に感謝をしたのだった。


だが・・悪魔に魂を売り渡した朱音は、最後の計画を立てていた。

「・・結局!先輩は恵美さんのものなの!悔しいわ・・悔しくって殺したい。今度は犯すだけじゃ済ませないわ。あなたの命をもらうから・・ハハハッ!」

恐ろしい程の憎しみが湧く朱音だった。


つづく



元の次元に戻れてヒロシも本来の自分に戻り、34歳でこれから幸せな生活・・そう考える恵美。

だが朱音の脅威が迫っていた・・

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