6話「マーヴェリック、従魔になるってよ」
「エレが従魔となれば、ドラゴンすら容易に近づけなくなるだろう」
――なんかもう、マーヴェリックが従魔になることが既定路線みたいになってるし……俺の異世界ライフ、大荒れだ。 この先、俺の未来どうなるんだろう……。
……ん? そういえば。
「マーヴェリック様。コミックはフラグネット様の元にあると伺いましたが、なぜ今、フラグネット様のもとに?」
――なにか、引っかかる。珍しく俺の直感が反応する。 すると、マーヴェリックはあっさり口を開いた。
「それはな、フラグネット様が読みたいと仰――」
<コラーーー!! エレもお主も、余計なことを考えすぎぞ!! フラグネット様は知性あふれるお方じゃ! 下々の世界を知りたいとの思し召しで、こみっくとやらを手にしたのじゃ! 決して娯楽目的などではないぞ!>
――へいへい、そうですか。誰も「娯楽だった」なんて言ってないのに、自らバラしちゃうあたり、女神様の使いも使いどころがなってないねぇ。
<それは妾の悪口ぞな!? せっかく賽の目“十二”の意味を説明してやろうと思ったのに、この仕打ちはないぞー!!>
あれ? “十二”って、すごい強運の数字なんだよな? もしかして……マーヴェリックが従魔になるのも、“十二”の賽の目の効果だったってこと?
<図星じゃ。このたわけが。 フラグネット様の忠実なる眷属を従魔にできるのじゃぞ!幸運に思え!!>
「もう一度言う。エレが、お主の従魔になる。異存はないな?」
ルディもマーヴェリックも押し通そうとしてるし、断ったらマーヴェリックに殺されかねない……!! 俺は否応なしにうなずいた。
「よろしくお願いします!!」
「うむ。エレのことは気軽に“エレ様”と呼ぶがいい。お主はお主だ」
――結局、マーヴェリックを従えることになってしまった。 本当に“十二”って強運なのか……?
<妾はこの辺で去るが、エレをくれぐれも頼んだぞ?>
ハイハイ……失礼があったら命ないやつ〜。
……ところで、ちょっと疑問。
「なんで“エレ様”なんですか? マーヴェリックなら、“マーヴェ”とか“リック”とかじゃ――」
「エレガント・エレ様の“エレ”だーーーーー!!!!!」
その雄叫び、反対側の山までこだました。 自分で“エレガント”って言うの? フツー??
エレはふふんと鼻息を荒くして笑ってみせた。 その仕草に、俺は思わず吹き出して笑い転げる。 エレがちょっと気恥ずかしそうにこっち見てる。あ〜おかしい。
もふもふの毛並みで、これから一日中一緒に過ごすのか〜……それも悪くない。 この人生、受け入れようじゃないか。
「エレ様」
「ん? なんだ?」
「一分だけ、抱きしめてもいいですか?」
「んん? おう……構わんが、どうした?」
言うが早いか、俺はエレの懐に飛び込んだ。 柔らかな毛並み、朝の瑞々しい空気との相性抜群。モッフモフ。 エレはちょっと戸惑ってる。
「お主……熱でもあるのか?」
「んー。エレ様、可愛いなぁって思って」
「な……!! エレが可愛いだと?! それは侮辱か!?」
俺は頬擦りをして、収まりきらない大きな体をぎゅっと抱きしめる。 エレ様は、沈黙。静寂に包まれる。
エレの前では、どんな妖獣も魔獣も尻込みする。 絶対無敵で、超絶安心な俺の護衛――それにしても、このモフモフ感……堪らない!!
猫飼ってる人がよく言う「猫吸い」、これ完全に「狼吸い」だな。 癖になりそう。
見知らぬ土地、知らない建物、知らない服、知らない食べ物。 転移先で味わった地獄の先に、やっと得られた温もりと安らぎ。
「ぷはっ!」
エレから身体を離すと、俺は新鮮な空気を吸った。 エレは、どこから出したか分からない櫛で器用に毛繕いを始めている。 四足歩行なのに、時折二足になってたりして、忙しそうなやつだ。
そうこうしてるうちに、お腹がキュウと鳴った。 そういや昨日の昼から何も食べてない。朝飯もまだ。
気づけば朝日は、西に傾きかけている。
でも、クシフィリヌスの街にマーヴェリックを連れて行って大丈夫なんだろうか? 従魔契約は結んだけど、それを証明するものがなかったら、追い出されるかもしれない。
俺は、ギルドカードを手にした。 栄光の777番。例えギルドを追放されても、これだけは絶対に手放さないつもりだ。 賽の目も“十二”だったし、ツキは俺にある。
「さしあさっては、飯だーーー!!」
「ほうほう、飯にするか。エレは生肉が食いたいぞ。フラゴネールの皮を剥ぎ、爪を剥ぎ、骨を砕いて肉を割き、血を滴らせて盛り付けしてくれ」
「しれっと気色悪いこと言わないでくださいよ。普通の宿じゃ、そんな高級魔獣の肉なんて出ないんです!」
ちなみに、フラゴネールはAランクの鳥型魔獣。 エレの食事、どうにかしないと……てか、フラゴネールなんて誰が狩れるの?! エレの図体も三メートル級だし、それに見合う食費って……相当だろ。
「そうか。人間は軟弱だな。……ならば、エレの分はエレが仕留めてこよう。都合がよかろう」
「え?! はい、それはとても助かりますけど!」
すると、エレは鼻先で俺の髪をいじりだした。
「ちょっ、くすぐったっ……!」
プツン――一筋の髪が抜かれる。
「いでっ!! なにするんですか、もう〜〜エレ様!!」
「産毛の濃い部分を抜いた。これで幾千里離れていようとも、お主の居場所がわかる。 逆に、お主が呼べば、一瞬も待たず現れよう。ではな」
そう言い残すと、エレは空を駆け上がり、遥か彼方へと飛び去っていった。
……こういうところは、ほんと頼もしいんだよな〜。
さて、とりあえず俺は街についたら、速攻で飯にありつこうと思う。
名前 袴田恭
称号 異世界転移者
年齢 28
レベル 6
知力 400
体力 350
魔力 0
紋章術 なし
従属 黒氷狼マーヴェリック・魔剣ティルフィング
保有スキル 賽の目 アイテムボックス
加護 蔑むものを超える力