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5話「黒氷狼とけもみみすとと俺」

 ……なんだか気持ちいいなぁ。ふわっふわで、まるで王族が寝てるような上等なベッドの手触り。 スライムとの攻防で冷や汗かいてたのが、まるで嘘みたいだ。


 スライム……スライム……ん?


「うわっ?! ここはどこ!? 俺は誰?!」


 咄嗟に目を覚ますと、俺は何かふわふわした毛に覆われていた。 猫のような犬のような黒くてやわらかい毛……尻尾? いや、これは完全に尻尾だ。

 恐る恐る顔を上げると――


「うむ、目覚めたか、人間よ」


 そこには、とてもスライムじゃ敵わない――いや、人間でも到底敵わないような巨大な獣が横たわっていた。 どうやら俺はあのまま気絶してしまい、その間ずっと守られていたらしい。


「目覚めたなら、エレをとくと拝むがいい!」

「え、エレ? あの……」

「なんだ?」


 すっかり朝日が昇っていた。つまり、俺は丸一日気を失っていたってことか。 この獣は、他の魔物に襲われないよう、俺を匿ってくれていたらしい。


 ……いや待て。生きたまま食べるために守ってたってことじゃないよな?


「俺……まさか、食われたりしませんよね?」

「このエレが、人間如きを喰らうと思うか?!」

「ああっ、ですよね! すみません!! 匿ってくださった恩は必ず返します! どうかお許しを!!」


 黒い尻尾がふさふさと動く。くすぐったくて、くしゃみが出そうになる。


「ハックシュン!!……ええと、そろそろ退散したいなって……」

「何のために一晩中お主を匿っておったか、判っておるか?!」

「ひぃっ!」

「お主……こちらの人間ではないな」

「こちらって……異世界のことですか?」 「そうだ。異世界人が来るのをずっと待っておった」

「へ……?」

「異世界人には二十年前に会ったが、推しキャラを作る前に亡くなってしまってな」

「推しキャラ……」

「恩は何でも返すと言っておったな?」 「はい。できることなら……」


 その巨体を誇る獣は、口角をニヤリと上げて笑ったように見えた。


「お主、絵心はあるか?」


 絵心――その言葉が妙に懐かしく響く。


 実は俺、現代日本ではいわゆる『オタク』だった。 会社帰りに本屋で推しアニメの原作を買ったり、来季の放送ラインナップをチェックしたり、同僚と同人誌を作っていたりしてた。

 でもこっちの世界じゃ、そんな趣味は当然ながらアウトオブ常識。 ちょっと寂しく感じていたんだ。


「絵は……はい、普通の人よりは描けるほうだと思います」

「そうか?! それは好都合だ! ちょうど頼みたいことがある」


 ゴクリ……何を頼まれるんだ?まさか、とんでもない無理難題を押しつけられるんじゃ……


「褐色貧乳ケモミミ娘を所望する!!」

「……は?」

「そうだ。お主の世界には“アニメ”というものがあるだろう?  そのアニメとやらに登場する『けもみみすと』の祥鳳ちゃんが、エレの推しでな。一度コミックとやらを読んでみたのだが、すっかり虜になってしまってな。だが続きがない。二十年前に出会った異世界人に続きを描いてもらっていたのだが、完結する前に亡くなってしまったのでな……」


 ……流暢すぎる人語だと思ったら、なるほど、岸部五郎先生が20年前にこの世界に来ていたのか。 消息不明で告別式までやってたの、俺も朧げながらテレビで見た覚えがある。 つい最近リメイク放送されたばかりで、記憶にも新しい。


「まさか……俺にその『けもみみすと』の続きを描けってことですか?」

「いや、吾郎の作品の続きは吾郎にしか描けんと、吾郎自身が言っていた。だから、エレは祥鳳ちゃんのイラストがあればそれでよい」


 ……アニオタな獣ってどういうことなの異世界?

 けもみみすととか懐かしいなぁ……。 資料があれば描けないこともないけど……そういえば。


「さっき、コミックを読んだっておっしゃってましたけど、その本は今手元にあるんですか?」 漆黒の鬣をなびかせながら、鼻を鳴らして言う。

「あるに決まっておろう。何万回読み返したかわからぬわ」


 ――あるのか!! それ俺も読みたい!!


「どこにあるんですか? 資料さえあれば紙とペンで描けます。俺も読みたいです!!」

「ふむ……お主もけもみみすとのファンか? そのコミックなら、今はフラグネット様の元にある」


 ……フラグネット? どこかで聞いた名前――と思った瞬間、脳内にキーンと甲高い声が響き渡る。


<馬鹿者――!!神聖なる女神フラグネット様を忘れるとは、このうつけが!!  お主に加護とスキルを授けたのは誰と心得る?!>


 ルディの声……久々すぎて忘れてたよ、その設定。

 なんで今になって登場するんですか〜?


<お主、その獣が誰か、知っておるか?>


 誰かって、え、俺が知ってるわけないですよ?


<運命を司る女神フラグネット様の眷属にして、災厄の黒氷狼マーヴェリックであるぞ!>


「えぇぇぇぇ!? マーヴェリックって……主要五カ国を滅ぼしたっていう、あの伝説の?!」

「如何にも。エレは黒氷狼マーヴェリック!」


 災厄――あまりに強すぎて、誰も勝てず、退治の対象ですらなくなった存在。 その名を冠する二つ名は、恐怖と畏敬の象徴。


「お主も、フラグネット様の加護を受けておろう。見ればわかる」 「す、すみません!!そんな偉大な存在だとは知らず、軽口を叩いたうえに見張りまでお願いして……!」


 真相を知った俺は驚愕し、戦慄した。 なんでそんな伝説級の獣がここに……!? 早く立ち去らなきゃ!!


 ……と思っていた矢先、獣がとんでもないことを口にした。


「気に入った! エレを見る者は攻撃するか逃げるばかりなのに、お主は腹が据わっておる。何より、絵が描けるという! エレはお主の眷属となろう。従魔契約を交わしてやる!」


 ……へ? 今、このケモノなんて言った??


名前 袴田恭ダヤン

称号 異世界転移者

年齢 28

レベル 6

知力 300

体力 250

魔力 0

紋章術 なし

従属 魔剣ティルフィング

保有スキル 賽の目 アイテムボックス

加護 蔑むものを超える力

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